2019年01月05日 10:51 弁護士ドットコム
大阪府で起きた監禁死事件の裁判員裁判で、検察官の「求刑」を上回る判決が出た。いわゆる「求刑超え」だ。
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事件は、男女5人が共謀し、男性2人を約1~4年監禁し虐待。被害者の1人は衰弱の末、2017年8月に細菌性肺炎で亡くなった。
検察官は、殺人や監禁などの罪に当たるとして、懲役18年を求刑。一方、大津地裁は12月25日、求刑を2年上回る懲役20年を言い渡した。
共同通信によると、裁判長は求刑超えについて、「刑事責任は首謀者の次に重く、求刑の範囲にとどめることはできない」と述べたという。
求刑超えをめぐる論点について、犯罪被害者支援に力を入れる宇田幸生弁護士に聞いた。
ーー求刑を超えても問題にならないの?
「求刑は、あくまでも検察官がその刑事裁判で求めたい結論についての意見という位置づけですので、裁判所がその内容に法的に拘束されるものではありません。
法定刑の範囲であれば、裁判所がどのような刑罰を下すかは自由ですので、『求刑超え』は問題ありません。
なお、かつて求刑より重い刑を言い渡した判決について、憲法に違反しているとして最高裁で争われたこともあります。
具体的には、残虐な刑罰を禁止した憲法36条や公平な裁判を受ける権利を保障した憲法37条1項に反するのではないかが争点になりましたが、合憲であると判断されました(昭和25年7月14日最高裁判決)」
ーー被告人にとっては、不服な部分もあると思いますが…
「もちろん、その事案の性質上、重すぎると被告人側が考えた場合には、量刑不当(刑事訴訟法381条/法律的には『量定不当』)を理由に控訴がなされ、改めてその量刑が不当ではなかったか控訴審で審理がなされることにはなります。
ただし、最高裁は憲法判断をする審級であるため、量定不当を理由として上告をすることはできません。事実上、高裁での判断が終局的な判断として受け止め、高裁での審理に臨む必要があるでしょう」
ーー求刑超えは、裁判員裁判で起こることが多く、裁判官裁判(≒通常の刑事裁判)では珍しいと聞きます。
「事案によって事情が異なるので、一般化はできませんが、裁判官裁判では、求刑の8割程度の判決が下されやすいという肌感覚を持つ弁護士が多いようです。
ただし、検察官の求刑意見が、事案の性質を考えた場合に軽すぎるのはないかと裁判所が判断すれば、裁判官裁判でも求刑を超える判決が下されることはありえます。
一方、裁判員裁判の『市民感覚を反映する』という制度趣旨からすれば、過去に蓄積されてきた判例をベースにした量刑が必ずしもその感覚にあっていないというケースが起きても不思議ではありません」
ーー求刑超えは、結果の公平性(判断する人によって罪の重さが大きく変わる)の点で問題があるという見方もあります。
「検察庁、裁判所には、それぞれ過去の裁判例に関する情報(事案や刑罰の内容)が集積されています。そうした情報をもとに、当該事案の個別の事情も踏まえて求刑や判決がなされていると言えるでしょう。
ただ、このような過去の量刑事情自体が、そもそも市民感覚からすれば軽すぎるという側面が顕在化したのがまさに『求刑超え』であろうと思われます。
刑事弁護人の立場からすれば、厳罰化傾向にある量刑事情も踏まえ、裁判員に対し、慎重な判断を望みたいとの意見が出るかもしれません。
しかし、過去の量刑がそもそも本当に正しい量刑であったとなぜ言えるのか、さらなる議論を深める必要があろうかと思われます」
ーー裁判員裁判で重い判決が出ると、上級裁判所は「先例」と「裁判員裁判の結果」の間で難しい判断に迫られます。今回の事件、控訴されることがあれば、高裁がどのような判断をするかに注目が集まります。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
宇田 幸生(うだ・こうせい)弁護士
愛知県弁護士会犯罪被害者支援委員会前委員長。名古屋市犯罪被害者等支援条例(仮称)検討懇談会元座長。殺人等の重大事件において被害者支援活動に取り組んでおり、著作に「置き去りにされる犯罪被害者」(内外出版)がある。
事務所名:宇田法律事務所
事務所URL:http://udakosei.info/