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『下町ロケット』新春ドラマ特別編は怒涛の展開に 阿部寛らが伝える現代日本へのメッセージとは

2019年01月03日 15:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年12月23日に最終回を迎えた日曜劇場『下町ロケット』(TBS系)が、1月2日「新春ドラマ特別編」として放送された。最終回では、「佃製作所VS帝国重工」に終止符が打たれ、一旦の終幕となったが、帝国重工の的場俊一(神田正輝)に残る執念やダーウィン・プロジェクトのトラクターの欠陥など、まだまだ回収されていない伏線は多くあった。つまり、今回の「新春ドラマ特別編」が実質の最終回。新春2時間15分の大ボリュームのオンエア中には、他局でも特番がひしめき合う中、Twitterの日本トレンドにて「#下町ロケット」が1位を獲得。2019年1月期のドラマが始まろうとする目前に、『下町ロケット』が有終の美を飾った。


参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2018/12/post-290693.html”>年末企画:麦倉正樹の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”をめぐる問題と“脱構築”の動き</a>


 全編撮り下ろしの「新春ドラマ特別編」は、原作者・池井戸潤が執筆し原作に載らなかったエピソードを映像化している。今期の「ゴースト編」「ヤタガラス編」に続く、「台風編」と名付けられた今回のエピソードは、放送から20分で的場が失脚するという怒涛の展開。北陸地方に台風が直撃する前に米を収穫するという手に汗握るシーンが、オンエアのメインとなった。


 帝国重工の財前道生(吉川晃司)が率いるコンバイン・ランドクロウを乗せたキャラバンが、新潟県・燕市に到着。キャラバンの司令室から「ダーウィンの地図データをランドクロウ用に変換」「ランドクロウ3号機の地図データを書き換えて、正面衝突を回避」と指揮する光景は、まるで『新世紀エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦、映画『シン・ゴジラ』のヤシオリ作戦を彷彿とさせる特撮映画にも負けない圧倒的スケールだ。全ての収穫を終え、安堵した佃航平(阿部寛)に野木博文(森崎博之)が話す「少しは日本の農業を救えたか?」の一言は、戦いを終えた後の決めゼリフとしてはかっこよすぎた。


 野木のセリフを筆頭に、「新春ドラマ特別編」は多くの言葉が光った回だったように思う。佃製作所がすでに特許を取得しているトランスミッション技術が必要なダーウィン・プロジェクトに、その特許を供与することを提案した財前。造反行為と猛反発を受ける中、社長の藤間秀樹(杉良太郎)は「我が帝国重工は何を作っている?」と社員に問いかけた後に「心だ」と続ける。利益を追求する一方で、下請け企業が力を発揮できるインフラ環境を整える。国の繁栄、日本の未来の力になることこそが帝国重工の仕事だと、藤間は諭す。


 同じ頃、佃もダーウィン・プロジェクトの会見に立ち、「日本の農業を救うこと」という無人農業ロボットの目標信念を説き、技術力を供与することを伝える。佃や財前、野木らがダーウィンに特許を与えることを選んだのは、ランドクロウによって農家を救った経験からのものだった。


 敵味方の前に、モノづくりとは人々の生活を豊かにするためにある。『下町ロケット』のテーマは、一貫して技術者として生産者に寄り添い、日本の未来を思うことにぶれはない。2018年の世相を表す漢字に「災」が選ばれたように、昨年は日本各地で大災害が発生した。その中の一つに台風があり、多くの農作物が被害にあった。「新春ドラマ特別編」は、今の日本の現実を映したメッセージであったように思う。


 今回の放送は、動画配信サービス「Paravi」にてディレクターズカット版として配信されるものの、これが本当の最終回である。とはいえ、佃の娘・利菜(土屋太鳳)がアメリカの宇宙開発会社に合格していたり、権威を振りかざしていた的場の呆気ない結末など、どこか次作に繋がる要素が残されているようにも思える。池井戸潤の事務所は、放送終了後、Twitterにて「『次作の構想はある』と先週言ってましたよ」と綴っている。佃たちの熱く、泥臭い不屈の精神がまた見られることを、楽しみに待ちたい。  (文=渡辺彰浩)