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『まんぷく』後半戦は安藤サクラの“覚醒”に期待? 6つのポイントをおさらい

2019年01月03日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 12月28日の回で第13週が終わり、2018年の放送分がすべて終了したNHK連続テレビ小説『まんぷく』(次回は、年明け1月4日から)。つまり、10月から始まった本作も、早いもので既に折り返し地点を回ったということだ。そこで本稿では、これまでの『まんぷく』の物語や展開を踏まえながら、前半戦を終えた時点で見えてきたものや本作の面白さ、そして今後の展開について、改めて考えてみることにしたい。


参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2018/12/post-300280.html”>『まんぷく』菅田将暉、安藤サクラから“人徳”を学ぶ 人との交流において光る秀逸な演技</a>


・「ある女性の半生」と言うよりも、波乱に満ちた「ある夫婦の物語」
 
映画『万引き家族』の好演が記憶に新しい最中での主演、しかもオーディションではなく制作サイドからのたっての希望ということもあり、やはり安藤サクラの演技に大きな注目が集まった本作。子ども時代の描写がなく、初回からいきなり18歳の女性として登場した福子(安藤サクラ)に早くも期待が高まるものの、第1週から萬平(長谷川博己)が登場し、第3週で福子と祝言を上げるなど、その展開は思いのほか速かった。


 そして、その後は夫婦が一心同体となって、さまざまな困難を乗り越え……よくよく考えてみれば当たり前なのだけれど、そもそもタイトルからして“まんぷく”(萬平と福子)なわけで。実在する女性実業家の半生を連続して描いてきたNHK大阪の制作ということもあり、どこか『あさが来た』、『べっぴんさん』、『わろてんか』の延長線上にあるものを予想していたけれど、このドラマは「ある女性の物語」である以上に「ある夫婦の物語」として捉えるべきなのだろう。その意味では、同じNHK大阪制作でも、むしろ『マッサン』のテイストに近い作品と言えるのかもしれない。


・週を追うごとに存在感を増していった、「鈴」というムードメーカー


 すべての予定調和を打ち壊す野心作『半分、青い。』を引き継いでの放送だったこともあり、これまで慣れ親しんだ「朝ドラ」の王道路線を踏襲しているとも言える『まんぷく』は、「安心して観ることのできる朝ドラ」との声も大きい。実際、視聴率も上々のようだ。その「手堅さ」を支えているのは、主演の安藤サクラをはじめ、長谷川博己、福子の姉を演じる内田有紀と松下奈緒、その夫を演じる大谷亮平と要潤、さらには萬平と仕事上で接点を持つ男・世良を演じる桐谷健太など、主要キャストたちの好演だろう。


 けれども、そこで意外だったのは、福子の母・鈴を演じる松坂慶子の存在感が、週を追うごとに増していくことだった。「私は武士の娘です」という、最初はあまりピンとこなかったフレーズも、何度も繰り返し聞いているうちに、いつの間にか馴染んでしまった(最近はそれを逆手にとって、「私は武士の娘の娘」ですという決め台詞も登場している)。そして、後述するように、よくよく考えてみると、かなりシリアスな展開を見せてゆく本作の物語にあって、彼女の明るさは、そのわかりやすい動揺や心配も含めて、ある種の「救い」となっているような気さえしてきたのだ。視聴者の「共感」という意味では、ひょっとすると萬平福子夫婦よりも高いかもしれない。これはちょっと意外だった。


・気になる「インスタントラーメン」の開発は、後半戦に持ち越し


 8割方創作であるとはいえ、「インスタントラーメンの父」として知られる安藤百福をモデルとした物語と銘打っているだけに、やはり視聴者の関心は、「どのようにインスタントラーメンを発明するに至ったのか?」、そして「その発明の過程において、福子はどのような役割を果たしたのか?」にあるだろう。


 しかし、萬平と福子が結婚前にデートで立ち寄った屋台のラーメン店、泉大津に拠点を移してから製塩業を営むきっかけとなった懇意のラーメン店など、何度かラーメン自体は登場するものの、「幻灯機」や「根菜切断機」といった発明品から始まり、その後はまさかの「製塩業」、そして「ダネイホン」と名付けられた栄養食品の開発と販売など、機械から食品という流れ、「困っている人々を助けたい」という共通した思いはありつつも、インスタントラーメンを開発する気配は一向に感じられない。そこに至るまでのあいだには、まだまだ紆余曲折がありそうだ。やはりそこは、後半戦のハイライトということになるのだろうか。ここは引き続き、是非とも注目したい一点だ。


・「塩軍団」の登場で盛り上がる!


 そんな「インスタントラーメンの開発」とはまったく関係ないものの、前半戦で多くの視聴者の注目を集めたのは、第6週から登場した「塩軍団」だったのではないか。「発明家」という触れ込みだった萬平が、戦後泉大津に拠点を移して突然スタートさせた製塩業。その従業員として集められたのが、通称「塩軍団」である。戦後の混乱期にあって、それぞれの事情を抱えながら集まってきた若者たち。


 物語が新展開を迎えると同時に新キャストが一挙投入されるのは、もはや朝ドラにおける定石だが、若手キャストが大量投入されるこの展開に、『ひよっこ』の「乙女寮」を想起した視聴者も多かったのではないか。以降、萬平福子家族と共同生活を送りながら、「たちばな塩業」の従業員として一致団結していく「塩軍団」。その展開は、いわゆる「夫婦もの」とは異なる新たな風を、確かに吹かせていたように思う。その後「塩軍団」の面々は、栄養食品「ダネイホン」の製造に携わることになるのだが、第12週で「たちばな塩業」改め「たちばな栄養食品」は、惜しまれつつも解散。「塩軍団」の面々は、それぞれ別の道を歩むことになるのだった。果たして後半戦、その誰かと思わぬ形で再会することはあるのだろうか。そちらも楽しみにしたい。


・三度の逮捕という予想外の展開!


 そんな「たちばな栄養食品」の解散とも関係する話だが、視聴者が何よりも驚いたのは、萬平が実に三度にもわたって身柄を拘束されるという、衝撃の展開だったのではないだろうか。“敗者復活戦”を繰り返す物語だとは聞いていたけれど、事業の失敗ではなく、半ば言いがかりに近い形での突然の逮捕、しかも3回目の逮捕では、萬平自身が服役するに至るとは、はっきり言って予想外だった。


 「理創工作社」時代、軍需物資横領の容疑で憲兵に逮捕されたのを皮切りに、「たちばな塩業」時代には、武器隠匿の容疑で「塩軍団」の若者たちもろとも、今度は進駐軍に逮捕。その後、社名を「たちばな栄養食品」と改め事業を「ダネイホン」の製造販売に一本化し東京進出も果たすも、今度は脱税の容疑で、またしても進駐軍に逮捕。軍事裁判にかけられ、重労働四年、罰金七万円の判決を受けてしまうのだ。その後、弁護士・東太一(菅田将暉)の提案もあって、東京の子会社を売却、果ては「ダネイホン」の商標と製造方法も売却し、「たちばな栄養食品」の解散を余儀なくされる萬平福子は、再びいちからやり直しという状況で、年を超えることになってしまった。


 さて、年明け1月4日から再スタートする『まんぷく』。ようやく釈放されたはいいものの、これまでやってきた事業をすべて失ってしまった萬平福子夫婦は、今度はいったい何の事業を始めるのだろうか。1月7日から始まる第15週からは、さらに8年の月日が流れ、新キャストともども新たな展開を迎えることが発表されている。そして、インスタントラーメンは、いつどのようにして生み出されるのだろうか。


 さらに翻って、やはり注目したいのは、主人公・福子の今後の立ち居振る舞いである。無論これまでも、拘置所での面会シーンをはじめ、「安藤サクラでなければ、きっと成立していなかっただろう」と思われる印象的なシーンはいくつかあった。


 しかし、「究極のマネジメント能力を持った女性」という、本作の根幹に関わる部分での説得力は、やや弱いような気がしてならない。萬平の妻として、いわゆる「内助の功」と言われる以上の存在感は示しているものの、物事を最終的に決断し動かしているのは、あくまでも萬平であって、萬平の拘留期間を除けば、福子が何かを決断する機会は、まだほとんどない。


 もともとあまり資料がなく、かなり自由度が高いと言われているこのヒロインを、脚本家・福田靖は、今後どのように描き出していくのだろうか。そして、それは現代の女性像と、どこまでリンクするものとなるのだろうか。さらには、ようやく実年齢と近づきつつある物語の中で、女優・安藤サクラが本格的に覚醒する瞬間は、果たしてどのタイミングで訪れるのだろうか。そちらも合わせて、後半戦を楽しみにしたい。  (文=麦倉正樹)