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桑田佳祐、松任谷由実、北島三郎が並んだ“平成最後のお祭り” 2018年『紅白』が盛り上がった理由

2019年01月02日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「なんだか幸せです」。総合司会の内村光良は、ラストのサザンオールスターズの歌が終わった直後、感極まったようにこんな言葉を発した。


 確かにこのときNHKホールは、なんとも言えない幸福感に包まれていた。それはまさに、番組中何人かが異口同音に言っていたように「平成最後のお祭り」であった。その高揚感は、近年まれに見るものだったと言っていい。


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 今年の『NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』と表記)の番組全体を貫いていたのは、そうした「お祭り」ならではの「明るさ」だったと思う。たとえばAKB48・指原莉乃、そして乃木坂46・西野七瀬の紅白最後のステージも、寂しさは当然あるもののむしろ前向きな明るさを感じさせるものだった。


 現在、『紅白』は「夢を歌おう」というテーマを掲げ、2019年までの4か年計画の最中だ。今年はその3年目に当たる。ただこれまでの印象としては、「夢を歌おう」とは言いつつもその具体的なイメージをまだ模索しているようなところがあった。それが「平成最後」という機会を得て、いまの時代にこそ必要な歌の「お祭り」という“答え”をようやく発見したのが、この2018年の『紅白』だったのではなかろうか。


 そんな「平成最後のお祭り」の主役だったのは、もちろん出場歌手たちである。とりわけ後半の流れは『紅白』史上あまり類がないほど見ごたえ、聞きごたえのある充実したものだったと言えるだろう。今年最大のヒット曲と言ってもいいDA PUMPの「U.S.A.」から始まり、紅白の枠を超えたサザンオールスターズのステージまで緩みなく走り切った構成は素晴らしいものだった。


 そしてそこには、昭和から平成にかけての各年代を代表する歌と音楽がまるでミルフィーユの層のように重なり合っていた。


 まずは昭和の歌謡曲の系譜がある。『チコちゃんに叱られる!』とコラボしたクイズでもちらっと映った1963年の『紅白』が初出場だった北島三郎が5年ぶりに復帰して華やかに「まつり」を歌い、石川さゆりが布袋寅泰のギターをバックにトリで「天城越え」を歌う。そして松田聖子は、これまであまりやったことがないという1980年代の自身のヒット曲メドレーで魅了した。


 一方、1970年代に登場してニューミュージックの元祖的存在となったのが、いうまでもなくユーミンこと松任谷由実である。今回、視聴者から募集したリクエストに応えてユーミンが選んだのはともに代表曲である「ひこうき雲」と「やさしさに包まれたなら」。途中2曲目からサプライズでNHKホールに登場したときの異様な盛り上がりは、今回の『紅白』でも一、二を争うものだった。


 平成になってデビューした歌手たちも負けてはいなかった。DA PUMPが90年代を彷彿とさせるユーロビートとダンスで会場を沸かせれば、西野カナ、Superfly、aiko、宮本浩次とコラボの椎名林檎といった歌姫たちもそれぞれの世界を余すところなく表現していた。なかでも今回のMISIAのパフォーマンスには圧倒的なものがあった。さらにはAKB48、Perfume、欅坂46、乃木坂46、TWICEの女性グループアイドル、そして大トリを務めた嵐を始め、King & Prince、関ジャニ∞らジャニーズ勢の健闘も光った。


 ほかにも取り上げるべき歌手はまだまだいるのだが、あと一組だけ挙げるとすればやはり、今回テレビで初歌唱となった米津玄師になるだろう。前半に登場したDAOKOやあいみょんとともに、その存在はネットの普及を背景にした新しい時代の息吹を感じさせた。そして彼の郷里である徳島からの中継で歌われた「Lemon」は、静謐さを強調した見事な演出も含めて期待に違わぬ強烈な印象を残すものだった。


 ここで注目しなければならないのは、この楽曲が「大切なひとを失った喪失感」を歌ったものだということだ。


 それは最初に述べた今回の『紅白』の「明るさ」とは一見矛盾する。しかし、ゆずが、嵐が、そして北島三郎らが語っていたように、平成は二度の震災など災害に見舞われ続けた時代だった。そこにもやはり、多くのひとが身近なひとの死によって体験することになった深い喪失体験がある。だがそのことがあるからこそ、歌の力がもたらしてくれる「明るさ」はより価値あるものになるのだ。


 そして今回、そんな「明るさ」の持つエネルギーを一気に解放して昭和と平成を融合させてくれたのが、サザンオールスターズであった。そのことは、今回メドレーで歌われた「勝手にシンドバッド」と「希望の轍」が象徴している。


 1978年発売の「勝手にシンドバッド」のタイトルは、周知のように阿久悠作詞の大ヒット曲「勝手にしやがれ」と「渚のシンドバッド」を組み合わせたものだ。ジャンルとしてはロックでありながら、そこには昭和の歌謡曲のエッセンスが盛り込まれている。一方、「希望の轍」は平成になってすぐの1990年の発売。その後この曲は長く支持され、平成を代表する応援ソングになった。


 最後に「勝手にシンドバッド」で出場歌手全員がステージに登場してお祭り騒ぎになったとき、桑田佳祐を挟んでユーミンと北島三郎が並ぶかたちになった。それが感動的だったのは、三人が掛け合いをしながら歌い踊る姿に、昭和を経て平成が終わろうとするいま、未来への確かな“希望”が一瞬垣間見えたように思えたからに違いない。(太田省一)