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ムロツヨシが2019年も心に棲みつく? 誰もが魅了される“粋な男”

2019年01月01日 06:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年は、ムロツヨシに驚かされる1年だった。1月クールでは『きみが心に棲みついた』(TBS系)に出演し、勘違いしやすいのに、傷つきやすくて、ちょっとめんどくさいけれど愛される、そんな漫画家・スズキ次郎を好演。主人公のキョドコ(吉岡里帆)と星名(向井理)の共依存、そして吉崎(桐谷健太)との重めな三角関係が描かれた本作において、ムロツヨシ演じるスズキのキャラクターは、一服の清涼剤として視聴者に愛された。タイトルにちなんで「ムロが心に棲みついた」とSNSで盛り上がるシーンも見受けられたほどだ。


参考:戸田恵梨香とムロツヨシだからこそ紡げた物語 『大恋愛』が伝えた“生まれてきた意味”


 2月には、42歳で『2018年エランドール賞』を受賞。「役者を目指して23年くらい経ちますが、初めていただいた賞」と、キャリア23年の“新人”賞というシュールさに言及し、受賞スピーチも大いに笑いを誘った。これまでも『33分探偵』(フジテレビ系)をはじめ、映画『銀魂』や『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)など、盟友ともいえる福田雄一監督作品で、クセの強めなキャラクターを演じてきたムロツヨシ。「好きなようにやっていいよ」。福田監督から言われたこの言葉が、ムロツヨシの俳優人生の歯車が大きく動き出していったという。


 オーバー気味な表情だったり、独特な間のとり方だったり……ムロツヨシが“好き勝手”にやっているように見える演技が視聴者も大好きだ。つい「これはアドリブでは?」とニヤッとしてしまう。「演じてて楽しくなっちゃっただろ!」とツッコミを入れたくなる。演じる側からの一方通行で終わらない、視聴者が参加せずにはいられない何かが、彼の演技には漂う。そっちが「好き」に演じてるのだから、こっちも「好き」に見るよ、という「隙」にも近い何か、が。


 だからこそ「ゆるくて、笑えるものしか、ムロツヨシの演技は成立しないのではないか」という思い込みも生まれつつあったように感じた。得意分野が確立されると、それ以外の可能性がなかなか開拓されにくい。それが23年かけて、ようやく築いた正攻法ならばなおさらだ。だが、2018年のムロツヨシは、そのハードルを軽々と飛び越えた。


 10月クールの『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)では、戸田恵梨香扮する若年性アルツハイマー病を患った愛する尚を、全身全霊をかけて支えていく間宮真司を熱演。そして、同クールに福田組の『今日から俺は!!』(日本テレビ系)にも出演する。福田雄一監督のもとでの王道と、正統派ラブストーリーという新たな道と。変化球を得意としてきたピッチャーが、どえらいストレートも持っていた。例えるなら、そんな感じだろうか。見たかったムロツヨシも、“こんなムロツヨシも見てみたかった”も、ストライクゾーンにバシバシと投げ込んでいく姿が気持ちよく、10月クールは最高に楽しませてもらった。


 ありがたいことに『大恋愛』については、収録現場も取材することができた。そこでのムロツヨシは、いつも演出家の金子文紀と共に、大石静による脚本の行間を読み解こうと探っていた。例えば、真司が尚に別れを告げるシリアスなシーン。尚の幸せを願って、若年性アルツハイマー病の権威で元婚約者の侑市(松岡昌宏)に託したほうがいいと考えたのだろうが、どこかで侑市には治せるけれど、自分には何もできないというコンプレックスも入っているのではないか。台本には「別れよう」のひとことのみだったが、その背景に流れる真司自身もうまく整理できていないかもしれない複雑な感情を理解しようとする。その作業を、ムロツヨシは“落とし込む”と表現していた。


 その“落とし込む”作業を楽しむことこそ、「好きにやっていいよ」の本質なのだろう。原作者や脚本家の思い描いた世界を、監督や演出家がどう形にするかを考え、そして俳優たちが体現する。それぞれが安心して「好きにやっていいよ」といえる信頼感があってこそ、いい作品が生まれるのだから。ムロツヨシの落とし込み作業は、一つひとつ確認を取りながら進めていく。非常に紳士的だった。そんな“丁寧な作業”の上に、戸田とのアドリブ満載なイチャイチャシーンといった“遊び心あふれる仕事”を見せられたら、それを“粋”と言わずになんと言えばいいのだろうか。


 今考えてみたら、『大恋愛』と『今日から俺は‼』を同時期に出演するなんて仕事ぶりそのものも、なんと粋な話ではないか。否が応でもバイタリティを見せつけられるというものだ。先日出演したニンゲン観察バラエティ『モニタリング』(TBSテレビ系)でも、次々と仕掛けられるドッキリに、誰も傷つかない見事な切り返しを披露し、そのアドリブ力が称賛された。また、Twitterでは、これまで共演してきた俳優仲間の誕生日を縦読みで祝ったり、ドラマ放送日には自身でチェックした感想と共演者を称えるコメントを添えるなど、これまた粋な一面が垣間見える。


 ムロツヨシが、粋な男であることが改めて発見された2018年。そして、今年はさらに男前な一面を見せてくれそうだ。3月にはテレビ東京開局55周年特別企画 ドラマスペシャル『二つの祖国』(テレビ東京系)に出演することが発表された。主演の小栗旬から「この役を演じるにあたって、主演の小栗君から“ムロさんなりにやってほしい”と言ってもらいました」とコメントも寄せているムロツヨシ。すでに「好きにやって」の信頼関係が気づかれた共演者とのライバル役にどんな名演技が生まれるか楽しみだ。


 そして、「どうか今回ばかりは笑わない準備をして、役者・ムロツヨシを見ていただきたいと思います」とも。ああ、2019年も、まだまだ私たちが気付いていないムロツヨシの魅力が見つかってしまうかもしれない。(佐藤結衣)