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『NHK紅白歌合戦』の楽しさはアプリで倍増? 充実のWEBコンテンツから時代に合わせた進化を読む

2018年12月31日 19:12  リアルサウンド

リアルサウンド

 12月31日の19時15分から放送される平成最後の『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合/以下、『紅白』)。先日には星野源の冠番組『おげんさんといっしょ』(NHK総合)とのコラボレーション企画や、米津玄師の初出場、サザンオールスターズが“特別企画枠”として大トリを務めるという追加情報もアナウンスされ、ますます放送への期待が高まっている。


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 ここ数年で『紅白』の出場歌手は大きく変化してきた。かつて主力だった演歌歌手の枠は減り、アイドルやロックバンドなど主に若い世代から多くの支持を集めるアーティストの枠が増加。さらには、白組の司会は毎年ジャニーズが務めるのが恒例にもなっている。これは若い世代からも『紅白』への興味関心を集めるためのシフトチェンジだと考えられるが、近年の“若者のテレビ離れ”は加速していく一方だ。この傾向は今に言われ始めたことでもないが、スマートフォンが普及してからは余計にテレビに依存する必要はなくなった。テレビは決まった時間に決まったチャンネルでしか視聴することが出来ないが、ネット番組は外出先でも手元のスマホを使って気軽に楽しめる。例えもし観たいテレビ番組があったとしても、今は動画サイトやアプリで“見逃し配信”という手段を使えば自分のタイミングで視聴することが可能であり、録画する必要さえない場合が多くなった。


 そんな世の中の流れからテレビ業界は、番組とインターネットを連動させた施策を次々に生み出してきた。生放送の際にTwitterのハッシュタグ機能を利用し、リアルタイムで視聴者参加型の企画が行われるのはすでに珍しいことではない。NHKの番組もまた、積極的にネットを活用する施策を取り入れてきたと言える。9月に放送された音楽番組『シブヤノオト』(NHK総合)では、地上波の生放送と同時進行で楽屋裏の様子がネット上にストリーミング配信されており、スマホを片手に番組を視聴するのを推奨していた。さらに同番組内でDA PUMPの出演時には、Twitterの「いいね+RT数」でパフォーマンスの際にステージで使われる特別効果(特効)の種類が変化するという内容の企画が行われ、たった数分間で1万5千を超える「いいね+RT数」を記録。「#シブヤノオト」というワードがTwitterのトレンド入りを果たすなど、大きな反響があった。


 Twitterのトレンドと言えば、8月に放送された『おげんさんといっしょ』でも「#おげんさん」がトレンド世界1位を獲得し、ニュースになっていたのも記憶に新しい。テレビを観る際にはスマホを片手に持ち、番組の感想はSNSを使ってリアルタイムで呟くのが通常の感覚となっている今、地上波とネットの組み合わせはもう切り離せないところまで来ているのだろう。


 『紅白』でもSNSを活用しての情報発信が行われており、Twitterは40万人以上、Instagramは26万人近くのフォロワーがいる。さらに数年前からは“公式アプリ”もリリースされている。今年は特に同アプリの利便性に注目が集まっていて、Twitter上でも「ダウンロードした」という声が多く見られた。一番の目玉と言えば、観たいアーティストをあらかじめ設定しておくと出番の数分前に通知が届く機能である。『紅白』は長尺の番組となるため、どうしても見逃したくないシーンがある場合はテレビの前から離れ難いものだが、この機能を使うことによって目当てのシーンだけを確実に観ることが出来るのだ。そのほかにも、番組の進行に合わせた放送連動タイムラインが搭載されているなど、スマホを片手に『紅白』を視聴することを想定したコンテンツ内容となっている。これら『紅白』が仕掛けるネット施策の数々は今では当然のように活用されており、アプリもようやく広く浸透してきたように感じる。


 少し話がそれてしまうが、そもそも『紅白』は普通のテレビ番組とは大きく異なる性質を持っていると思う。大晦日に家族、もしくは親しい人たちだけでお茶の間に集まり、『紅白』を観ながら年を越すことは、年末の風物詩とも言える日本の伝統的な光景だ。そうは言ってもこれは筆者ならではの感覚であり、20代前半もしくはそれよりも下の世代にとってはその感覚すら希薄なのかもしれない。SNSやアプリを活用した『紅白』のネット施策の数々は、“年末にお茶の間で『紅白』を観る”という伝統を若い世代に継承するための一手とも言えるだろう。


 上記で述べた施策が浸透してきたことにより、平成最初の『紅白』と最後となる今回では、視聴者側のスタンスに大きな違いが生じている。近年、番組放送中にSNS上が盛り上がっていることからもわかるように、家族や親しい人だけではなくネットを通じて大勢の人と感情を共有しながら『紅白』を楽しむことが一般的になってきているのだ。


 “若者のテレビ離れ”が加速している現在も、老若男女問わず観られている『NHK紅白歌合戦』。“年末にお茶の間で『紅白』を観る”という伝統が今なお続いているのは、時代に合わせて形を変えているからなのかもしれない。(渡邉満理奈)