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『おっさんずラブ』『中学聖日記』『アンナチュラル』……“名台詞”で振り返る、2018年傑作ドラマ

2018年12月31日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年も数多くのドラマが生み出された。社会現象的なブームを巻き起こした作品、高視聴率を記録した作品、挑戦的な試みをした作品、視聴率はふるわなくとも熱心なファンを獲得した作品など、多種多様な作品の中からそれぞれの印象的なセリフをピックアップし、駆け足ながら2018年のドラマシーンを振り返ってみたい。


【写真】『中学聖日記』晶が聖への思いを伝える観覧車シーン


■恋愛ドラマの新境地


・「お前が俺をシンデレラにしたんだ」
ーー黒澤武蔵(吉田鋼太郎)/『おっさんずラブ』(テレビ朝日)


 ここ数年、刑事ドラマ、医療ドラマ過多だったことの揺り戻しか、2018年は恋愛ドラマが数多く放送された。それもありきたりなものではなく、社会の動きにあわせながら、さまざまなアプローチで新しい形の恋愛ドラマが模索されていた。


 その代表例が、男性同士の恋愛を描いた『おっさんずラブ』だ。そのストレートな“純愛ぶり”に女性視聴者が熱狂。「新語・流行語大賞」(自由国民社)のトップテンにも選出された。すでに映画化も発表されている。セリフは第2話での黒澤のもの。女性営業部員・瀬川(伊藤修子)の「好きになっちゃいけない人なんて、いないんじゃないかしら」というセリフも印象深い。


・「もう会わない。連絡もしない。でも、ずっと願ってる。幸せにって」
ーー黒岩晶(岡田健史)/『中学聖日記』(TBS)


 中学校の女教師と中学生の男子の恋愛という難しいテーマに果敢に挑戦した『中学聖日記』。視聴率は低迷したが、若年層を中心に人気を獲得。“黒岩ロス”も発生した。このセリフは最終回で高校生に成長した晶が聖(有村架純)に言ったもの。恋愛の衝動に押し流されるのではなく、相手を思い、守り続けることの大事さを訴えたドラマだった。


 「恋愛は幸福を殺し、幸福は恋愛を殺す。好きと幸せは両立しないってことかな」「誰かを好きになるとき、正しいも間違ったもない」など、原口律(吉田羊)が発する数々の“名言”も話題を呼んだ。


 ほかにも難病ラブストーリーでありつつ意外な展開を連打した『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS)、主要登場人物が老若男女全員不倫する不倫ドラマ『黄昏流星群』(フジテレビ)、妻と愛人が修羅場を繰り広げる『あなたには渡さない』(テレビ朝日)など、一筋縄ではいかない恋愛ドラマが多かった。『きみが心に棲みついた』(TBS)、『高嶺の花』(日本テレビ)なども同じ線を狙ったのだろうが、上手くいったとは言い難かった。


■野木亜紀子の時代


・「性別関係なく、人間同士でいられる相手がいるとしたら、貴重じゃないですか」
ーー根元恒星(松田龍平)/『獣になれない私たち』(日本テレビ)


 一筋縄ではいかない恋愛ドラマといえば『獣になれない私たち』を挙げねばなるまい。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)の脚本家・野木亜紀子と新垣結衣が再度タッグを組んだことで期待値が高かったが、現代社会の諸問題を反映させつつ、安易にスカッとさせない重い展開で視聴者を翻弄し、視聴率は振るわなかった。


 とはいえ、恋愛の持つプラスの面とマイナスの面をリアルに描き、“人間同士”という新しい男女関係まで提示した展開に目が離せなかった視聴者も少なくない。主人公・晶(新垣結衣)の「だったら恋愛はいらないや。相手にすがって、嫌われないように振る舞って、自分のことが消えていって、相手のこともわからなくなる。そんなの嫌だ」というセリフも印象に残る。


・「絶望? 絶望してる暇があったら、美味いもの食べて寝るかな」
ーー三澄ミコト(石原さとみ)/『アンナチュラル』(TBS)


 野木脚本のドラマをもう一つ。石原さとみ主演の法医学ミステリー『アンナチュラル』は従来の1話完結のスタイルを守りながら、ツイストを十分にきかせた息をもつかせぬ展開と、巧みに張った伏線による縦軸のドラマで視聴者を引っ張る高密度・過圧縮エンターテイメントだった。今年一番面白かったドラマとして推す声も多い。


 アクチュアルなところも魅力で、長時間労働問題、圧力による公文書の書き換え問題など、現実とリンクしていた点も多い。主人公たちのジェンダー観、労働観、人生観なども現代風にアップデートされていた。『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日)とは大違いである。


 単発ドラマ『フェイクニュース』(NHK)もあった2018年のドラマ界は、“野木亜紀子の年”だったとも言えるのではないだろうか。今後のさらなる活躍が楽しみだ。


■弱い立場の人たちに寄り添う


・「カメはぜんぜん頑張っていません。競争にも勝ち負けにも興味がないんです。カメはただ道を前に進むこと自体が楽しいんです」
ーー相河一輝(高橋一生)/『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ)


 これまであまりドラマの題材にならなかったテーマが取り扱われる作品が増えたのも2018年の特徴だ。すでに紹介した『おっさんずラブ』のほか、『女子的生活』(NHK)、『弟の夫』(NHK)、『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)でLGBTがテーマとして扱われていた。また、『半分、青い』(NHK)と『透明なゆりかご』(NHK)では、発達障害、あるいはそれに類する(グレーゾーン)と思われる主人公が登場している。『僕らは奇跡でできている』もそうした作品の一つだ。


 『僕らは奇跡でできている』は、マイペースすぎる主人公がいつしか周囲に影響を与えていく物語。このセリフは、「ウサギとカメ」の寓話に登場するカメはコツコツ頑張ったのではなく、ただ前に進むことに没頭していたのだと説明するものだが、カメとは一輝自身のことである。とはいえ、彼自身も幼少期は周囲との軋轢に苦しんでいた。理解者と出会い、社会に受けいれられることで、逆に社会に影響を与えるようになったのだ。


・「生きなくたっていいじゃないですか。暮らしましょうよ」
ーー林田亜乃音(田中裕子)/『anone』(日本テレビ)


 『anone』は、社会からこぼれおちてしまった人たちが偽札づくりを通して「ニセモノ」や「嘘」で救われていく様を描いた。『カルテット』(TBS)などで知られる坂元裕二脚本作として注目を集めたが、寓話めいたストーリーが受け入れられず、視聴率は低迷した。


 このセリフは第5話のもの。社会のどこにも行き場も居場所もないハリカ(広瀬すず)、青羽(小林聡美)、持本(阿部サダヲ)らと擬似家族を作って共同生活をおくる亜乃音がしみじみと呟く。生きる意味なんか考えるから窮屈になる。誰かと一緒に食卓を囲んで、ただ暮らしていければいい。そんなメッセージが込められたセリフだった。


 万能の主人公が登場し、強いものが勝つわかりやすいストーリーもスカッとしていいかもしれないが、弱い立場の人たちに寄り添うのもテレビドラマの一つの役割だと思う。2019年のテレビドラマにも期待したい。


(大山くまお)