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作詞家 zoppに聞く、平成カラオケソングの傾向「歌うのが難しい曲の方がたくさん歌われている」

2018年12月28日 19:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。


 第19回目となる今回は、「平成のカラオケソング」をテーマにインタビュー。第一興商が発表した1994年4月~2018年10月までのカラオケランキングを元に(第一興商公式HP)、平成に歌われていた楽曲の傾向や特性、カラオケソングとその時代との関係性などについて話を聞いた。(編集部)


■「やっぱり日本語詞が愛される」


ーー今回は平成を通して人気があったカラオケソングの特徴についてお伺いできればと思います。


zopp:ランキングを見ると、悲しい曲が多いですよね。日本人って悲しい歌が好きなんですよ。昨今ヒトカラ(一人カラオケ)が増えたことで、周囲を気にせずに1人で悲しい歌を徹底的に歌えるというのが、大きく影響を与えているのだと思います。カラオケにみんなで行くことが当たり前とされていた時代には、悲しい歌を歌いたいという需要は今より少なかったと思います。


 あとは、歌いやすい曲よりもむしろ歌うのが難しい曲の方がたくさん歌われている印象です。歌いやすい曲って、簡単に歌えてしまうので飽きてしまうんですよね。例えば、小室哲哉さんのプロデュース曲は、楽曲のキーを恐ろしく高くすることで、何回もカラオケに行って練習してもらうことを狙っていたとされています。歌が難しくなることで練習もたくさんするし、それをみんなに披露する。そして歌ってもらえる頻度が高くなる。メロディメイカーの人は、そういったことをすごく考えていますね。


ーー確かに、小室哲哉さんがプロデュースした華原朋美さんの「I’m proud」(1996年)や安室奈美恵さんの「CAN YOU CELEBRATE?」(1997年)も、年別の1位にランクインしてますね。


zopp:その他にも、GReeeeNさんもキーが高いですよね。絢香さんや坂本冬美さんも歌うのは大変だと思います。


ーー歌うのが難しい曲がよく歌われているというのは歌詞にもいえることなのでしょうか? 例えば、英語が多用されていたりとか。


zopp:いえ、歌詞の場合は逆で、歌いやすい言葉が多いと思います。なのでランクインしている楽曲に英語は少ないです。米津玄師さん「Lemon」(2018年)にも英語は入ってないですし、星野源の「恋」(2017年)、桐谷健太さんの「海の声」(2016年)にも入っていないです。三代目 J Soul Brothersさんの「R.Y.U.S.E.I.」(2015年)もほとんど入ってない。松たか子さんの「Let It Go~ありのままで~」(2014年)も原曲ではなく日本語訳しているものが2014年の1位になっています。キー的な歌いづらさとは違って、英語歌詞は日本人に馴染みにくいんです。やっぱり日本語詞が愛されるんだと思います。近年は特にその傾向があって、2002年以降ほとんどが日本語タイトルなんですよね。


ーーたしかにそうですね。


zopp:逆に1990年代は英語詞や英語のタイトルが多い。おそらくこの時代は、ダンスミュージック全盛期ということもあって、欧米志向が強かったんでしょうね。また、「小さな恋のうた」(2002年)からバンドや男性アーティストがフィーチャーされている傾向があります。


ーー歌手別ランキングだと、浜崎あゆみさん(1位)や倖田來未さん(6位)など女性ソロアーティストがランクインしていますね。


zopp:平成は女性がどんどん独り立ちして世に出ていく時代でした。そういう意味では、浜崎さんや倖田さんがその象徴になったように思います。


ーー浜崎さんと倖田さんの歌詞の特徴はあるのでしょうか?


zopp:共感できることももちろんあると思いますが、リスナーにとってはどちらかというと“憧れ”が強かったのではないでしょうか。“あゆと私って同じ気持ちなんだ”、“倖田來未もこんなこと思うんだ”みたいな。“憧れ”と“共感”の両方を兼ね備えていたからこそカリスマになったのだと思います。


■「2019年、2020年は応援歌が圧倒的に増える」


ーーなるほど。ランキングを見ると、近年リリースされた曲があまりランクインしていなかったのが驚きでした。


zopp:作詞をしていて思いますが、最近の曲は作詞しづらいんです。細かいメロディが多いので、カラオケにも不向きなのかもしれません。カラオケでよく歌われる曲って「ハナミズキ」(一青窈)や「チェリー」(スピッツ)、「天城越え」(石川さゆり)、「世界に一つだけの花」(SMAP)、「Story」(AI)などスローなテンポでキャッチーなメロディのものが多くて、それ以外だと盛り上がる曲とバラード曲の両極端なので。あと、ランキングに並んだ曲が時代を反映しているのかもしれないなとも思いました。


ーーというと?


zopp:一般的に悲しいときに明るい歌を歌う傾向にあるので、悲しい時代に悲しい歌は歌われないんです。一方でバラードが上位にある場合は、その時代が盛り上がっていたということ。そんな風に時代を反映しているのだと思いますね。


ーー最後に、今後どういった歌詞や曲が流行っていくと思いますか?


zopp:要注目なのは、平成生まれのメンバーによるHey! Say! JUMPというグループが出てきたように、次の年号に合わせたアーティストや楽曲の存在ですね。あとは、東京オリンピック前なので、2019年、2020年は応援歌が圧倒的に増えると思います。一方で、悲しい歌の存在もフォーカスされると思います。アーティストたちが、オリンピックに湧く日本をどう描写するか期待したいです。特にあいみょんさん、米津さん、星野さんのようなアーティストがこの2019年、2020年をどのように見ていくのか楽しみです。(取材:村上夏菜、北村奈都樹/構成:北村奈都樹)