二輪部門に挑むホンダ、立ち向かうは“ペルーの軟らかい砂”。対策はエンジン耐久性向上 2019年1月6日~17日に行われるダカールラリー第41回大会の二輪部門に参戦するホンダのワークスチーム、Monster Energy Honda Team(モンスター・エナジー・ホンダ・チーム)。マシンはホンダCRF450 RALLYで挑む。2019年型CRF450ラリーはどのようなマシンに仕上げているのだろうか。また戦略面ではどのような対策を取っているのか。チームの本田太一代表に聞いた。
ダカールラリーは、“世界一過酷なレース”として知られているモータースポーツ。約2週間に渡り砂漠や山岳地帯などの悪路を数千kmに渡って走破する。
2018年の第40回大会はペルー、ボリビア、アルゼンチンの3カ国を舞台に争われたが、2019年の第41回大会はペルー1カ国のみを舞台に開催。総走行距離は5541km、スペシャルステージが2889kmと前大会より短くなったものの、競技の70%が砂地という構成で、これまでと変わらない厳しい環境が待ち受ける。
ペルーの砂地を走る際はどのような難しさがあるのだろうか。
「砂と言ってもいろいろあります。アフリカだったり南米だったり地域によって違いがありますが、そのなかでもペルーの砂は非常に難しい砂です。とにかく軟らかく、歩けないほど細かいんです。普通に歩くのもすごく大変な軟らかさで、(足が)埋まっていってしまう状況でレースは走ります」と本田代表。
「朝、昼、夕方でコンディションが大きく変わっていきます。朝は比較的砂が締まっていますが、昼になると日があたっているせいで砂がとくに軟らかくなり、夕方になると少しずつ硬くなっていきます。さらに、夜になると風が吹いて別の砂が乗ってくるので、一晩経つとコンディションはガラッと変わってしまう。非常に特殊なコンディションです」
また、砂地ではダカールラリーに復帰した2013年に苦い思い出もあるという。
「2013年の復帰した年では、砂地でエンジンメンテナンスをしなければいけなかった場面がありました。砂漠のなかでテントをしっかり張ってという準備でしたが、テントだと横から砂が入ってきてしまったんです。なので、クルマのなかで作業したという苦い思い出があります」
「そのときは外気温が45度くらいでクルマのなかはエアコンは効かないので最悪でしたね(笑)。当時は復帰したばかりで事前準備ができていなかったのですが、今は問題ありません。メンテナンスサイクルも見直して、そういうことをやらないことにしています」
砂地ではつねにトラクションをかけて走らなければタイヤが埋まってしまい失速してしまう。そのため2019年型のCRF450ラリーは、つねにアクセルワークを必要とする砂地に向け、エンジンの耐久性を改良したと本田代表は語る。
「(砂地では)スロットルを開けて(エンジンの)回転を上げないとバイクが進まないんです。例えば、バイクで一般道を走っているときは、エンジンのおいしい回転数で走りたいですよね。そのために、回転が上がってきたらギヤチェンジをする。砂地の場合は、それを行った瞬間に失速してしまうんです」
「逆にエンジンの回転数が下がってしまったら、ギヤを落とそうとシフトを下げますが、そうすると今度は一気にエンジンの回転が上がりすぎてしまいます。砂地ではエンジンの回転数の上がり下がりが繰り返し起こるんですよ。そういったハードなアクセルワークに対応するために、エンジンの耐久性をさらに詰めています。また、各ライダーに合わせてギヤを変えたらつねに前に進むというセッティングの合わせ込みも行っていきます」
ハードなアクセルワークでつねにエンジンを回転させているということは、当然、燃費も大きな要素となってくる。この部分については電子制御でコントロールしているという。
「砂地ではスロットルがつねに開いているし、回転も高いので、燃費が悪くなります。ですが、その部分に関しては計算済みです。できるだけ燃費が悪くならないようにフューエルインジェクションの方でコントロールしています。また、プログラムもつねに更新していくので、ライダーの要求に合わせて変え、最適なところを狙ってやっています」
タイヤに関しては、2018年まで使用していたミシュランからメッツラー、ピレリを使用。状況に応じて最適なタイヤを選択していくようだ。
「タイヤは去年までミシュランだったのですが、今年はミシュランは使っていないです。2019年のダカールラリーは砂地がほとんどということで、砂に対する有利なタイヤ、かつうちのバイクのエンジン特性に当たったタイヤをチョイスしています。(ふたつのメーカーのタイヤは)状況に応じて良いタイヤを使ってレースを行うということになります。役割もしっかりしていますし、特性も事前に十分テストをやっています」
■チームのミスをなくすために行った運営面の強化
ダカールラリーでは、ルートや競技を行うにあたっての注意点が書かれたロードブックと呼ばれる指示書を基にステージを走行する。四輪では、ナビゲーションを行うコドライバーが存在するが、二輪の場合はライダー自身がライディングに加えナビゲーションを行わなければならない。
そのため、ライダーはロードブックに書かれた内容を正確に把握するナビゲーション能力が必要となる。二輪のロードブックはA5版サイズの巻物状の地図で、メーターの上付近に取り付ける。
2019年は、ライダーマネージメントを新たに2名起用し運営面を強化。ふたりは主にナビゲーションの面をサポートするとのことだが、どのような役割を果たすのだろうか。
「ロードブック上に2本目の道を右に曲がりなさいと記されていても、現場に出てみると目印がなく、どこにでも道があるので、2本目の道なんてものはないわけです。その道を判断するための細かいところのアドバイスをふたりにやってもらいます」
2018年はナビゲーションのミスにより優勝を逃したと語っていた本田代表。2019年は「甘かった箇所を強化した」と盤石の体制を敷いている。
最後に本田代表はこう締めくくる。
「ダカールラリーへの挑戦は7回目。今回は勝つ準備をしっかりしてきたので、あとはそれを計画通り実行して、本当に勝つということだけです」