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藤川千愛は歌の世界に一瞬で没入させるーーまねきケチャ卒業後のワンマンライブを見て

2018年12月28日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年9月24日に開催された日本武道館公演をもってまねきケチャを卒業した藤川千愛が、12月22日に渋谷WWWXにて、ワンマンライブ『~Starting Over Live 2018~』を行なった。


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 グループ時代からアイドルの枠を軽く飛び越えた確かな歌唱力を示してきた藤川千愛。ソロシンガーとしての活動をスタートさせることへの期待に満ち溢れた超満員のフロアに、彼女はアコギを抱えて登場した。ステージ全体を覆う紗幕に鼓動する心臓と歌詞が映し出される中、配信シングル第1弾としてリリースされたラブソング「勝手にひとりでドキドキすんなよ」の弾き語りでライブをスタートさせた。これは、藤川千愛の卒業ライブとなったまねきケチャの日本武道館公演で初披露されたソロ曲だ。歌いだす前に何度も肩を回して上半身のコリをほぐしていたが、フルバンドのワンマンライブは今回が初ということもあり、間違いなく緊張はあっただろう。女の子の素直になれない気持ちを表現した楽曲に続いては、グループ卒業後初のオリジナル楽曲「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」へ。誰かのせいにして前に進めない自分の弱さや苛立ちをパワフルにぶつけた。この2曲は、ポップバンドのボーカリストのようなストレートで伸びやかな歌唱となっており、グループ時代のコブシの効いた歌い回しは、彼女の引き出しの一部に過ぎなかったことを再確認させられた。


 紗幕が落ちた後の最初のMCではライブのタイトルについて「私はアイドルをやめて、これから文字通り、再出発していくぞという意味を込めてつけました」と説明した後、観客との距離を縮めるために「今日から敬語をやめていいですか」と宣言。「上京して3年経っても岡山弁が抜けないけど、普段話してる言葉の方が本当の気持ちを伝えやすいなと思って」と語り、ついつい敬語になってしまうところを観客に突っ込まれながら、笑顔で進行した。「クリスマス気分を味わって欲しくて選曲しました」というクリスマスコーナーでは、自身のばあばとのクリスマスの思い出を岡山弁で語りながら、槇原敬之「冬がはじまるよ」や山下達郎「クリスマス・イブ」、AI「ハピネス」、back number「クリスマスソング」とカバーを立て続けに披露。ロングトーンの中に“らしさ”が詰まったスロウテンポなナンバーから、自然とクラップとシンガロングが沸き起こったアップテンポのR&Bナンバーまでを歌いこなす強さと自信を見せつけ、ライブは後半に突入。


 「サブスクのランキングの上位に行きたいんです。みんな、ランキングから聴くから、みんなが聴いてくれたら、ずっとランキングにおれるわけですよ。じゃけ、みんなに延リピ(延々リピート)してほしいです。自分でこんなこと言うのはあれなんですけど」と笑いながら語りかけ、デジタルシングル第3弾として大晦日にリリースされる楽曲で、TVアニメ『盾の勇者の成り上がり』(TOKYO MXほか)のEDテーマに起用されたハートウォーミングなバラード「きみの名前」を優しくも高らかに歌い上げた。地に足のついたローのどっしりとした響きから始まり、歌声だけで次第にスケールを広げていき、サビで心を一気に解放する見事な歌いっぷり。楽曲の世界観に引き込む吸引力に、早くも本格派ボーカリストしての貫禄のようなものさえ感じた。


 そして、「再出発と名付けたライブにいっぱい集まってくれて、いっぱい盛り上がって、笑ってくれて、本当に今日はみんなに背中を押された気持ちです。頑張っていこうと思いました。まだまだカッコつかないところもたくさんありますが、私は23年間、歌手になりたい、ただそれだけを目標に生きてきました。歌手になって、叶えたい夢が山ほどあるので、これからみんなと一緒に夢を叶えたいです。みんな、ついてきてください」と観客に呼びかけ、最後に新曲「ライカ」を初披露。ヒップホップを経由したフォーク色の強い楽曲で、藤川千愛なりの憂鬱や嫌気の世界観を表現。後半の叫びのようなロングトーンには、この歌を絶対に届けるんだと言う執念にも似た情熱を感じ、フロアからは、彼女の新たな挑戦と決意、ソロの歌手としての門出を祝う大きな拍手が沸き起こっていた。


 アンコールでは再び、クリスマスイブにリリースされた「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」をリラックスした表情でパフォーマンス。「これからもみんなの毎日を応援できるような、ハッピーにできるような、支えられるような曲をたくさん歌っていきたいなと思います。ライブをたくさんやって、どんどん成長していきたいです」と意気込み、柔らかな笑顔でライブを締めくくった。歌の世界に一瞬で没入させるパワーを持つ藤川千愛がどんなシンガーに成長していくのか、今から楽しみでならない。(取材・文=永堀アツオ)