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年末企画:加藤よしきの「2018年 年間ベスト映画TOP10」 アジア映画が熱い方向へ進化

2018年12月28日 12:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優・女優たちも紹介。映画の場合は2018年に日本で劇場公開された(Netflixオリジナル映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第12回の選者は、ライターの加藤よしき。


参考:監督が運転するタクシー“ソン・ガンホ”に乗り光州事件を追体験 『タクシー運転手』の普遍的な希望


1. 『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』
2. 『オペレーション:レッド・シー』
3. 『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』
4. 『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』
5. 『オンリー・ザ・ブレイブ』
6. 『The Witch/魔女』
7. 『犯罪都市』
8. 『ランペイジ 巨獣大乱闘』
9. 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
10. 『マンハント』


 今年の私に刺さった映画は、奇しくもアジア映画ばっかりになりました。いや、普通にハリウッド超大作でも凄い映画はたくさんあったんです。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』や『レディ・プレイヤー1』なんて、こんなバケモノみたいな映画をよく作ったなと度肝を抜かれましたし。ただ、胸に突き刺さった映画で言いますと……こういう感じになります。


 まず『マンハント』ですが、これは香港映画界の偉人ジョン・ウーが手掛けたワンパク大らか陰謀アクション。「レストラン鳩の里」なる今から何が起きるか100%予想できる看板が出てきたとき、「今年の10位は決まったな。むしろ10位以外はありえない」と思ったものです。


 次に『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』ですが、これは個人的に過去の自分と非常に重なる部分があり、麻薬戦争の話ながら他人事とは思えず、観ている間はずっと「お前は俺だ!」と叫びたい気持ちでいっぱいに。


 続く『ランペイジ 巨獣大乱闘』は、脳にイイ映像集ですね。怪獣が特殊部隊を壊滅させ、ドウェイン・ジョンソンがデカいゴリラと共闘する。映画に求めるものが全てあります。


 7位に置いた『犯罪都市』も脳にイイ映像。今や韓国映画の顔となりつつあるマ・ドンソクが刑事に扮し、狂犬ヤクザをブン殴って追い詰める。ギャグのキレ味も最高でした。


 韓国映画が続きますが、『The Witch/魔女』! 私は『スプリガン』『ARMS』『海王ダンテ』などで知られる皆川亮二先生が好きなのですが、あの感じが完璧に映像化されてはたまりません。その上、アイドルを目指す女の子のドタバタ劇や熱い友情まで絡められては、もう全面降伏。3部作の1作目らしいのですが、これは絶対に完結させてほしいですね。


 そして『オンリー・ザ・ブレイブ』は、あまり語らない方がいいでしょう。あのラストは忘れられません。


 4位にはインド映画から『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』。これは……ひたすら圧倒されましたね。言葉で説明するより観てもらう方が早いと思います。いつの時代のどこの国の話でも、ドえらい奴がドえらい事をする話は観ていて気持ちがいいものです。


 3位に輝いたのが『SHOCK WAVE ショックウェイブ 爆弾処理班』。これは久しぶりに私が大好きな香港映画がきたな、という感じでした。『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)という映画史上に残る極悪映画を撮ったハーマン・ヤウが、血糊を火薬に変えて作り上げた爆破アクション大作。敵味方どっちもヤケになっての銃撃戦は至福の時間でした。腕が飛んで苦しみもがく人間に、刑事が「このクソ野郎!」と蹴りを入れるシーンは、こういうのが見たかったんだよね、と思わずガッツ・ポーズ。


 堂々の2位は『オペレーション:レッド・シー』。これはかなり特殊な映画です。中国軍全面協力の、言ってしまえば国威発揚的な映画なのですが……いかんせん、監督が世界でも類を見ない熱血監督、ダンテ・ラムだったせいで、奇跡的な傑作が誕生しました。妥協なきスタイルで知られるダンテ監督は、本作で戦場のリアルを徹底追及。「迫撃砲が直撃した満員バスがどうなるか?」など、過酷な戦場を堂々と映像化。さらに登場人物も顔が半壊しても戦い続ける熱血ぶり。これを観て「俺も中国軍で頑張ろう!」と思う人が何人いるのか? たぶん「これは真似できねぇ」となると思うので、国威発揚として逆効果なような気もしますが……面白いので結果オーライ。


 そして、こうした数々の映画を抑えて一番私に刺さったのが『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』。韓国で実際に起きた「光州事件」を題材に、現地に向かうドイツ人記者と、彼を乗せたタクシー運転手の友情と戦いを描いた1本です。この映画については、とにかく主演のソン・ガンホ。彼の演技に魅了されました。韓国の国民的俳優として知られるガンホですが、これは彼のベスト・パフォーマンスなんじゃないでしょうか。うどんを食べるところからの一連のシーンは号泣必至。本当に素晴らしい映画だったと思います。


 駆け足で振り返ってみたのですが、いかがだったでしょうか。そんなわけで今年の私の映画歴を一言でまとめるなら「アジアの熱にやられた」という感じです。しかし、現在、アジア映画は国内での公開規模が縮小しています(『魔女』も『オペレーション~』も特集上映というイベント的な公開でした。『オペレーション~』は仕方ないとも思いますが)。昔のジャッキー映画のように、身近な存在ではなくなってきていますが、その一方で映画はドンドン熱い方向へ進化しています。たしかに劇場で観る機会は少なくなりましたが、ソフトは全国で流通しているので、お手すきの時に試しに観てみるといいかもしれません。きっと私が感じたような「熱」を感じることができると思います。


 来年はどんな映画に出会えて、どんな熱にやられるか? 今から楽しみで仕方ありません。(加藤よしき)