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乃木坂46は新たなフェーズへの一歩を踏み出す アンダーメンバーが示した過去の葛藤を乗り越える姿

2018年12月28日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 乃木坂46にとって2018年最後のライブイベントとなる『アンダーライブ全国ツアー2018 ~関東シリーズ~』が、12月19と20日に東京・武蔵野の森総合スポーツプラザで開催された。公演の座長を務めたのは北野日奈子。今年7月の『真夏の全国ツアー2018 ~6th YEAR BIRTHDAY LIVE』以降、本格的にライブに復帰し歩んできた彼女が再び中心に戻ってきての大会場ライブとなる。


参考:乃木坂46、相次ぐメンバー卒業の先にも広がる未来への“希望” アンダーライブ北海道シリーズを見て


 冒頭、「初恋の人を今でも」「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」でセンターに立つ北野の風格はすでに、活動を休止・抑制していた時期の跡を感じさせず、楽曲の中心として際立った存在感を見せる。同時に序盤のパートでは、「My rule」の樋口日奈、「ブランコ」の寺田蘭世、あるいは「自由の彼方」での鈴木絢音ら、ここ数年のアンダーセンターを担ってきたメンバーたちを中心に、乃木坂46のアンダーライブがいくつもの核をもつことを証明していた。


 また、2018年は3期生がアンダーライブに合流し溶け込んでいくという、新たな展開を告げる年でもあった。そのことを印象的に示したのがライブ前半、主としてユニット曲で展開したパートである。岩本蓮加がセンターを務めた「遠回りの愛情」、久保史緒里が伊藤かりん、伊藤純奈とともに歌唱した「私のために 誰かのために」等は、3期生が1、2期生に追随してゆく象徴的なナンバーとなった。アンダーライブ初参加となった久保は伊藤かりん、伊藤純奈とともに、互いに共鳴し合うようにコミュニケーションを交わしながら、楽曲のイメージを分厚く作り上げていく。歌唱力に定評のある3人によるパフォーマンスは、「私のために 誰かのために」という楽曲の像を作り変えるようなドラマティックさを含んでいた。


 このように、オリジナルバージョンとは異なるイメージを楽曲に吹き込むさまを、乃木坂46のアンダーメンバーはその蓄積の中で幾度も描いてきた。アンダーライブの歴史が厚みをもつのは、そうした新鮮な発見をたびたび見せてくれるからでもある。


 それは、「左胸の勇気」や「13日の金曜日」「狼に口笛を」といった、アンダーにとってクラシックとなった楽曲についても同様だ。「左胸の勇気」は山崎怜奈が、「13日の金曜日」は岩本がセンターに立ち、楽曲の陽性な魅力はそのままに新たな表現を見せる。また他方では、オリジナルバージョンのメンバーでもある和田まあやが「狼に口笛を」でセンターポジションに立ち、今日の彼女だからこその力強さを突きつける。1~3期生それぞれが中心になり、乃木坂46初期の楽曲を連続して披露するセットリストは、グループの歴史と循環とを映し出すものだった。あるいは、このライブをもって卒業を迎えた川後陽菜がアンコール時の最終ナンバーとして披露した「ハルジオンが咲く頃」もまた、グループの歩みと移ろいを描き出す重要な瞬間を作った。


 そしてこの歩みの中でも、近年のアンダーメンバーの状況を体現しながら中央に立っていたのが、北野日奈子だった。ライブ後半パート、かつて彼女が背負った「アンダー」という楽曲を起点に始められることで、彼女自身そしてアンダーメンバーたち自身の立場や葛藤は否応なく前面に打ち出される。北野自身が本公演のMCで、「アンダー」という曲をどのような感情で歌えばいいか、「今も、何が正解かはわからない」と語りながら前向きな解釈を見出そうとしていたように、この楽曲が担わせるものはいまだ決して軽くはない。


 ただし、今回のアンダーライブで重要なのは、昨年来の「アンダー」をめぐる葛藤の物語に終始することではない。センターとしての風格を手にした北野を中心に、各日1万人を集めた大会場で見せたセットリスト終盤の畳み掛けこそが、このアンダーライブの本領だった。北野のソロダンスから「嫉妬の権利」、そして「制服のマネキン」からシームレスに「インフルエンサー」へと繋がり、「ここにいる理由」「日常」で締めるクライマックスのパフォーマンスは、アンダーライブが本来持つ緊張感と切実さを伝えるものだった。彼女たちのパフォーマンス力や潜在能力は、「アンダー」という曲の歌詞が描いた想像力よりもずっと先にある。


 昨年、『乃木坂46 真夏の全国ツアー2017 FINAL! 東京ドーム公演』のアンダーパートでは、彼女たちが描いてきた歴史のハイライトをたどってみせた。その時点でもやはり、「アンダー」は乃木坂46アンダーメンバーの現在を見据える曲として存在していた。そこからおよそ1年、「アンダー」は今回もセットリストの鍵になっている。けれども、北野が本領を発揮し始め、幾人ものメンバーがセンターとしての強さを見せ、3期生の加入によって新しい表現を手にした現在の彼女たちには、この曲の葛藤をある意味で過去のものにしてしまうことこそ相応しい。乃木坂46というグループ全体が大きく組織のバランスを変えていく2019年、アンダーメンバーの表現もまた新たなフェーズに入る。今公演で見せた力強さは、新しい布陣で臨む次なるアンダーライブにとっても基盤となる。そして、彼女たちのパフォーマンスの冴えに対して、新たな楽曲がどのような世界観をほどこすことができるのかも、重要なポイントになるはずだ。(香月孝史)