■平手友梨奈の不在と、穴を埋めたメンバーたちが見せた新たな局面
師走を賑わす音楽番組が次々と放送され、2016年のデビュー以来3年連続3度目の出場となる『NHK紅白歌合戦』の放送が差し迫るいま、2018年の欅坂46を振り返ると、欅坂46とけやき坂46の合同曲“W-KEYAKIZAKAの詩”で「肩で息をするくらいに険しい勾配になった」と歌われるように昨年にも増して「受難」の年であったように思われる。
平手友梨奈だけ異なる衣装、異なる動き、平手を中心としたカメラワークなどが示しているように欅坂46の楽曲の多くが、平手が楽曲の主人公を表現するというものであるため、欅坂46の1年を振り返ることはほとんど平手の1年を振り返ることに等しい。
これまでに発表された7枚全てのシングルにおいてセンターを務めてきた平手はしかし、昨年の『紅白』での怪我や、『第31回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞』新人賞を受賞した初主演映画『響 -HIBIKI-』の撮影により、1月の日本武道館公演の中止から4月のデビュー2周年アニバーサリーライブを経て七夕の夜の突如復帰までの半年超の間、2月の24h cosmeの新CM発表会や自身がパーソナリティーを務める『平手友梨奈のGIRLS LOCKS!』(TOKYO FM)を除いて表舞台に姿を見せることはなかった――それゆえ毎月第3週目に聞くことができる平手の声は荒涼とした魂を潤す束の間のオアシスのように機能し、それはいまもそうである。
そして平手不在の間は各メンバーがセンターを担うという形でパフォーマンスが行なわれ、とりわけアニバーサリーライブにおけるキャプテン菅井友香の“不協和音”や、学業のため現在活動休止中の原田葵が見せた“二人セゾン”の「可憐な」ソロダンス、また9月5日の『夏の全国アリーナツアー2018』千秋楽公演で平手の不在中に小池美波がアドリブで披露した“二人セゾン”のソロダンスは「険しい勾配」を登りゆく欅坂46を新たな局面へと導いた。
■今年の欅坂46を象徴する「起伏の激しい」平手のパフォーマンス
復帰後の平手のパフォーマンスでもっとも鮮烈な記憶として残っているのは、アリーナツアー千秋楽公演での“ガラスを割れ!”である。それがあらかじめ用意された演出であったのか、その場の即興であったのかわからないが、イヤーモニターを振り乱し何かに取り憑かれたかのように花道を突き進む平手の姿は戦慄を呼び、それとは対照的にその直後ステージから2メートル転倒落下した平手がアンコールで再びステージに帰ってきたときには憑き物が落ちたような表情をしていた。
ここで挙げたのは極端な例だが、こうした「起伏の激しさ」「振れ幅の大きさ」は、パフォーマンス面に限ったことではなく、以下に述べるように大小様々いたるところに見い出されるという意味で今年の欅坂46を凝縮している。
■今泉佑唯、志田愛佳、米谷奈々未の卒業と2期生9人の加入
11月に刊行されたグループ初の写真集『21人の未完成』の帯に「欅坂46は、いい意味でバラバラである。個性的なメンバーが、それぞれの方向に歩き出すからだ。面白いグループだと思う。この先がわからない。たまたま、何かの偶然でこの21人が集まった状態を“欅坂46”と呼んだだけのことかもしれない」という秋元康のコメントが綴られている。
2015年の結成以来およそ3年の間、誰も卒業することのなかった欅坂46から今泉佑唯、米谷奈々未、志田愛佳の3人が、坂道シリーズの先輩グループである乃木坂46のように卒業公演として華々しく送り出されることもなく――それも「欅坂46らしさ」なのだろうか……?――相次いで卒業することになり、原田葵の休業もあって、ついぞ1期生21人全員がステージ上で揃うことは叶わず、写真集にも集合写真は掲載されなかった(11月20日更新の織田奈那のブログではアニバーサリーライブの4月6日公演で実質的に休業中だった平手と志田が楽屋にサプライズでケーキを運び、このとき21人が揃っていたことが報告されている)。
そして3人の卒業と重なるように、例外的に途中加入した長濱ねるを除いてこれまで新メンバーを加えることのなかった欅坂46に2期生9人の加入が11月末に発表され、欅坂46は総勢27人となった(同じタイミングで3期生1人が加わったけやき坂46は学業のため休業中の影山優佳を含む21人となった)。
■新メンバー加入後も「21人」で披露されている“アンビバレント”。「この先がわからない」スリリングさ
新メンバーの増員は、多くのアイドルグループがメンバーの追加をすることで延命、新陳代謝を図ってきたように欅坂46にも新たな息吹が必要だという判断が下されたことを意味するが、新メンバー加入の発表から1週間も経たないうちに、12月4日放送の『うたコン』(NHK)および翌5日放送の『2018 FNS歌謡祭』(フジテレビ)では、2期生から武本唯衣、田村保乃、松田里奈の3人を加えた「21人」で“アンビバレント”が披露され、放送直後には早くも武本のダンスパフォーマンスが話題になっていた。
そうしたなか「腰部打撲・左仙腸関節捻挫による仙腸関節不安定症、両手関節捻挫による遠位橈尺関節痛」により治療に専念することが発表された平手の代わりに鈴本美愉がセンターを務めた12月21日放送の『MUSIC STATION SUPERLIVE 2018』(テレビ朝日)では新たに2期生の森田ひかるが加わり、土生瑞穂がセンターを務めた12月24日放送の『CDTVスペシャル!クリスマス音楽祭2018』(TBS)ではさらに藤吉夏鈴が加わった21人でそれぞれ異なる演出の“アンビバレント”が披露された(年内で卒業を発表している米谷奈々未のテレビ出演は12月21日まで)。
PVを含めてもともと18人で披露されてきた“アンビバレント”を21人でパフォーマンスすることは今後も「欅」の画数に合わせた「21人」に拘ってゆくことを意味するのか、そうであるならばこれまで「いい意味でバラバラ」な欅坂46を繋ぎ留め、無用な軋轢を生まないための優れたシステムとしてある種の「欅坂46らしさ」を形作ってきたとも言える「全員選抜制」が揺らぐことになるのか、といった疑問も生じてくるが、同時に欅坂46から目が離せないのも、楽曲、パフォーマンスへの評価や、メンバーの魅力に加えて、センターが代われば演出も変えてくるといったことにも表れているように、そのスリリングさ、つまりまさしく「この先がわからない」ということに由来しているのだとひとつに言えるだろう。
『紅白』までに12月28日の『COUNTDOWN JAPAN 18/19』と12月30日の『第60回輝く!日本レコード大賞』(TBS)が残されているが、『紅白』での“ガラスを割れ!”がどのような形でこの1年を締め括るのか、しかと目撃したい。
(文/原友昭)