トップへ

『アリー/ スター誕生』初登場6位 大ヒットスタートを切れなかった3つの誤算

2018年12月27日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 先週末の映画動員ランキングは『シュガー・ラッシュ:オンライン』が、土日2日間で動員35万人、興収4億5400万円をあげて初登場1位に。この数字は、2013年3月に日本公開された前作『シュガー・ラッシュ』に対して興収比で133%。金曜日の初日から今年は祝日となった12月24日のクリスマスイブまでの4日間の累計では、動員62万5000人、興収7億9600万円という大ヒットスタートとなった。


参考:ブラッドリー・クーパーが明かす、監督挑戦への本音 「恐怖を抱いて躊躇してしまっていた」


 一方、同じ先週末公開作品で少々期待外れのスタートとなったのがブラッドリー・クーパー監督(兼主演)、レディー・ガガ主演の『アリー/ スター誕生』だ。同作は週末の動員ランキングで、公開7週目の『ボヘンミアン・ラプソディ』や、同じワーナー配給作品である公開5週目の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』の後塵を拝する6位に初登場。初日から12月24日までの4日間の動員24万8000人、興収3億4200万円というのは決して低い数字ではないものの、映画興行において最大の書き入れ時となる正月映画の初動成績としては、物足りないと言わざるを得ない。


 『アリー/ スター誕生』はブラッドリー・クーパーの初監督作品としても、レディー・ガガの初主演作品としても、こちらの予想をはるかに上回る素晴らしい出来の作品で、自分としても今年の正月映画の本命の1本になるのではないかと思っていた。10月に公開されたアメリカ国内では大ヒットを記録。レディー・ガガは日本においても本国と同レベルの知名度がある数少ない同時代のポップスターの一人。さらにここ数年、日本における外国映画の興行において、音楽映画は国外と同程度かそれ以上のヒット実績を残してきたジャンル。そんな好条件が揃っていながら、今回どうして『アリー/ スター誕生』がスタートダッシュを切れなかったのかについて、3つの理由に分けて考察してみたい。


 まったく予兆がないわけではなかった。というのも、10月にリリースされた『アリー/ スター誕生』のサウンドトラックが、世界中で大ヒットを記録していたにもかかわらず、日本ではセールスが伸び悩んでいたのだ。『アリー/ スター誕生』は日本以外のほぼすべての国で10月中に公開されていたので、日本ではリリース・タイミングで映画との相乗効果が生まれないのは無理のないことではあったが、映画が公開された後も大きな状況の変化は起こっていない。『アリー/ スター誕生』のサントラは海外では人気に陰りが見えていたレディー・ガガの近作をはるかに上回るセールスと再生回数を記録して、ガガにとって初となる「全米3週連続1位」という記録をもたらした。しかし、「人気に陰りが見えていた」という認識自体があまり共有されていなかった日本では、本作の背景にある「ガガ復活」の物語性が伝わりにくかったのかもしれない。


 2つめは、「歌って、恋して、傷ついてーー私は生まれ変わる」というコピーをはじめとする日本での宣伝が、本作を「音楽映画」なのか「ラブストーリー」なのか「ガガのスター映画」なのか曖昧にしてしまったのではないかということ。実際に『アリー/ スター誕生』は様々な側面を持った作品で、個人的にはブラッドリー・クーパー初監督作として大きな驚きと喜びをもたらしてくれた作品なのだが、極端に単純化した宣伝が効果を生むとされる日本で作品を広めるにあたっては、「音楽映画」か「ラブストーリー」のいずれか一つに焦点を当てるべきだったのではないか。ちなみに、日本の宣伝では、本作が『スタア誕生』の3回目のリメイク作品であることには極力触れないよう対策がとられていた。それが興行面に与えた影響を推し量るのは難しいが、少なくとも作品の成り立ちや映画の歴史に対しては不誠実な姿勢であったと指摘しておきたい。


 そして、3つめの理由は2つめの理由ともリンクするのだが、公開時期が『ボヘミアン・ラプソディ』というモンスター級のメガヒットを記録中の「音楽映画」と重なってしまったことだ。これは単純に「音楽映画被り」という問題だけではなく、実際にスクリーン数の違い以上に上映館のキャパシティにおいて、公開7週目に入った『ボヘミアン・ラプソディ』がいまだ大きなスクリーンを占有している状況が続いていて、『アリー/ スター誕生』が割りを食ったかたちとなってしまった。映画の興行分析は、言うまでもなく結果論である。「あとからだったらなんでも言える」と言われれば、返す言葉はない。しかし、『アリー/ スター誕生』が全米公開とほぼ同時に日本でも公開されていれば(つまり、全米公開の翌週に日本公開された『ボヘミアン・ラプソディ』の1か月前に公開されていれば)、状況は少し変わっていたのではないかと思わずにはいられない。(宇野維正)