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中国発、次に来るサービスは? デリバリー&ピックアップ専門「Luckin Coffee」の魅力

2018年12月27日 08:12  リアルサウンド

リアルサウンド

 「キャッシュレス」、「デリバリー」、「コーヒー」……これらは今、中国で若者がよく利用している人気のアイテムだ。本稿では、その全てを融合して大ヒットしている「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」について、現地より紹介する。


(参考:D&G、PR動画と“侮辱的発言”で上海ショー中止&品物が中国全土から消えた その背景事情を探る


 中国の「キャッシュレス社会化」が話題になっているが、特に上海、広州、深圳といった沿海都市では、モバイル決済が主流で、ほぼ現金に触れないで生活ができる。飲食店や百貨店をはじめ、支払いはモバイル決済(アリペイやウィーチャットペイ)で、もう財布を持ち歩かなくてもよくなった。実際、昼休みのオフィス街で見られるのは、スマホを片手に歩く姿がほとんどだ。逆に財布をもっていたり、レジで精算するときに「現金で」と言うのは、肩身の狭い思いすら抱く。


 そして急速に普及しているキャッシュレス化が支えているのは、店舗での精算だけではない。フードデリバリーやスーパーのデリバリーなど、デリバリーサービスも大きく変化してきた。現金を扱わなくてよいという管理の手軽さもあるが、どこでも、何でも、すぐに、しかもほぼ無料に近い料金で手軽にデリバリーしてもらえるという生活習慣が若者を中心に定着して、新しいマーケットを生み出し、スマホ同様に今や、中国の生活に欠かせないサービスとなっている。24時間体制のデリバリーサービスを体験すると、リアル店舗に行くことの必要性をほとんど感じなくなる。


 キャッシュレス化やデリバリーサービスといった新しいシステムを上手く活用し、さらに、ここ最近、前述の沿海都市で巻き起こっているコーヒーブームをのせたのが、新星のごとく現れた「ブルーの鹿」マークの「Luckin Coffee」だ。中国語では「瑞幸珈琲(ルイシン•カーフェイ)」と言い、ペーパーカップが青いことから、「小藍杯(シャオランベイ)」とも呼ばれている。


 この「Luckin Coffee」は、デリバリー&ピックアップ専門のコーヒーショップで、若者から絶大な人気を誇り、短期間でその知名度とブランドを一気に上げた。


 これまで、中国のコーヒーブームを牽引してきたのは間違いなくスターバックスで、外資系社員をはじめ、若者の間では、スターバックスのペーパーカップを持って出勤することがある種のステイタスになっていた。ここ最近のコーヒーブームで、個人経営のカフェ、ブックカフェなどおしゃれなカフェも増えてきたが、その中でもスターバックスの地位は揺るぎないものだった。


 ところが、ある時期から、街中で見かける若者が手にしているカップが、スターバックスから青いカップ「Luckin Coffee」に変わり、その注目も「人魚」から「ブルーの鹿」に移っている。若者のステイタスに変化があらわれてきたのだ。なぜ「Luckin Coffee」は、若者の圧倒的支持を集めているのか?


 その背景にあるのが、このコーヒーショップの最大の特徴ともいえるその運営システムだ。市場ニーズや若者の嗜好を見事にとらえ、いまどきの消費スタイルを確立している。


 この「Luckin Coffee」、実はできてから日が浅く、2018年5月に正式オープンしたばかりで、正式オープンしてまだ一年とたっていない。にもかかわらず、すでに全国21都市に約1400店舗展開(2018年10月現在)という驚異の出店スピードで、コーヒー業界をざわつかせた。


 具体的な利用方法は、というと、事前にモバイル(アプリ)で注文と決済をして、デリバリーか、店頭でのピックアップかを選ぶ。運営はいたってシンプルで、しかも店舗での接客対応がない。つまり、店舗に行っても、スタッフは基本的に接客してくれない。ひたすら、注文の入った商品をつくり、作業にとりかかっている。だから、実際に店舗に行っても、カウンターにあるQRコードをスキャンしてアプリで注文する。使い方がわかっていれば、スタッフと全くコミュニケーションせずに、指を動かすだけで全て完了する。


 モバイル決済を使いこなしている若者からすると、「並ばずに飲めるコーヒー」「余計な会話がいらない」で、時間が有効に使えて便利だし、おしゃれだと人気になった。店舗も基本的にオフィスビルに近い位置に出店しているため、自らピックアップする人も少なくない。


 価格でみると、スターバックスのトールサイズラテが31元(約520円)で、「Luckin Coffee」は、同じサイズでも24元(約403元)とコストパフォーマンスも良い。


 もちろん、価格差以外にも、魅力なのが、これでもか!と続く割引サービス。まずモバイル注文&決済での最初の1杯は無料。ここまでは通常、他店でもしていると思うが、この「Luckin Coffee」のすごいところは、最初の1杯だけで割引サービスが終わっていないところだ。


 次々とこれでもかと、攻めてくる割引サービスがすごい! 友人に紹介すると1杯無料とか、不定期でさまざまなサービスの割引クーポンが付いてくる。そのうちのひとつが、「2杯注文でさらに1杯無料、5杯注文でさらに5杯無料」。店頭やアプリ画面で見かけるキャッチコピーだが、5杯分の金額で10杯買えるわけだ。


 「コーヒー飲む?」「じゃあ、まとめて注文しておくね」という会話がSNSアプリでの朝の挨拶がわりになっていたり、会議室でも鹿のブルーカップが定番となっていたりする。


 便利でコストパフォーマンスが良いことはこれで分かるが、コーヒーの味はどうか?というと、これも評価が高い。オフィシャルサイト上では、上質のアラビカ種のコーヒー豆使用で、イタリア、日本そして中国国内のWBC(ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ)チャンピオンによるブレンド、と紹介されている。


 味も悪くなく、手軽で便利なので、若者受けしているのもうなずける。その人気ぶりに「スタバ越えしているのでは?」との声があがるほどだ。


 朝の5分は昼夜の30分にも匹敵するほど貴重とよく言われるが、まさに出勤時の慌ただしさを考えると、並んでコーヒーを待つ時間を別のことに使えたら、それはそれでうれしい。


 例えば、バスや地下鉄など乗り物に乗りながら、あるいは何かしながら、ちょっとモバイル注文しておけば、会社の最寄り駅のコーヒーショップに立ち寄って、数秒ですぐに温かいコーヒーをピックアップして出勤、なんてことを考えると、とてもスマートで便利な気がする。


 ただただ、難点は、スマホアプリやモバイル決済を使いこなせないと「Luckin Coffee」は飲めない、という裏返しの不便さ。もちろん、目の前にカウンターがあって、スタッフがいても、アプリを操作しないと注文できないということを不便に感じるかどうかだが、現金NGなので、高齢者や外国人観光客にはハードルが高い。


 これは、「Luckin Coffee」のシステムに限らず、今ほとんどのサービスに、モバイル決済が使われているので、共通の課題ではあると思う。消費力の強い若者世代をのぞき、全体として考えた場合、「キャッシュレス社会化は便利か否か?」は常に考えさせられるテーマでもある。


 とはいえ、明確に他社と差別化したサービスを打ち出している「Luckin Coffee」。中国はスピード社会とよくいわれるが、人気やブームが去るのもはやい。これからどう成長していくか、「ブルー旋風」の行く末が楽しみでもある。


(フライメディア)