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年末企画:辰巳JUNKの「2018年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 豊潤な作品が揃った黄金期

2018年12月26日 15:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優・女優たちも紹介。海外ドラマの場合は2018年に日本国内で放送・配信された新作ドラマ(ストリーミング、シーズン2以降含む)から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第10回の選者は、ポップカルチャー・ウォッチャーの辰巳JUNK。


参考:<a href=”https://www.realsound.jp/movie/2018/12/post-290693.html”>年末企画:麦倉正樹の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”をめぐる問題と“脱構築”の動き</a>


1.『ジ・アメリカンズ シーズン6』
2.『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語 シーズン2』
3.『アトランタ:略奪の季節』
4.『バリー』
5.『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』
6.『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング シーズン2』
7.『KIZU-傷-』
8.『ベター・コール・ソウル シーズン4』
9.『親愛なる白人様 シーズン2』
10.『マーベラス・ミセス・メイゼル シーズン2』


(豊潤な作品が揃った黄金期ということで、アメリカ製ドラマに絞った。『ボージャック・ホースマン』のようなアニメーション、『グッド・プレイス』S3のような日本リリースが未完了の作品は対象外としている)


 エミー賞快勝デビューを飾ったコメディ『バリー』『マーベラス・ミセス・メイゼル』は、どちらも表現者の話だ。PTSDを抱える帰還兵バリーは演劇に希望を見出す。演技とは嘘、だからこそ真実が映る。一方、50年代NYの性差別に晒されるミセス・メイゼルにとってのスタンダップコメディは、世界に対抗する真実の声だ。


 『GLOW』S2で提示される表現者たちの物語は非常に複雑になっている。このショーが描写する80年代女子プロレス団体は「人々をエンパワーメントした差別的コンテンツ」なのだ。リング上の彼女たちの輝きは本物だ。しかし、観客席で目を輝かせる少女の存在があそこまで残酷な作劇も中々ないだろう。


 2018年最も評価されたドラマのひとつ『アトランタ』S2には、有名黒人音楽家の兄弟が登場する。その男、テディ・パーキンスは、異様に肌が白く、南部の奴隷主のような邸宅に住んでいる……彼がアメリカ音楽界、ひいてはポップカルチャー史の暗部のメタファーであることは、もうおわかりだろうか。


 世はSNS社会、差別問題の是非や線引きが毎日のように討論される時代だ。混乱のなか悩める人には、学園ドラマとしても秀逸な『親愛なる白人様』S2からこの言葉を贈りたい。「この世界は不可解な場所で、人間は最も奇妙な生き物だ だから物事が複雑に思えるならば、きちんと理解したことになる」。


 『侍女の物語』S2は怪物のような躍動を見せた。法によって主人公と娘が引き離されるエピソードが放送された当時、アメリカで議論を巻き起こしていたのはトランプ政権の移民親子分離政策だ。「社会を反映」などという領域はとうに超えている。


 残る4作は、すべて「家族と喪失」の物語だったように思える。『KIZU』も『ヒルハウス』も凍てつくような家族の系譜を描いている。「古き良き」、そう言われてきたアメリカの伝統的白人家庭像の崩壊を示すように。


 米国に潜伏するスパイ夫婦を描いてきた『ジ・アメリカンズ』ファイナルは、エレガンスで崇高だった。筆舌に尽くしがたい家族とアイデンティティの物語だ。そして、ある景色を前に発せられた主人公の言葉は、2018年アメリカドラマ界の締めくくりに相応しいかもしれないーー「妙な気分だ」。


 来年には巨頭『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンが放映され、ディズニーのストリーミングサービスが始まる。きっと、TV界の景色は大きく変わる。『ベター・コール・ソウル』の前身『ブレイキング・バッド』が打ち立てたドラマ黄金期は、2010年代と共にひとつの終わりを迎えるだろう。それはなんだか、とても「妙な気分だ」。今はひとまず、2018年の輝かしい名作たちに賛辞を贈りたい。 (文=辰巳JUNK)