2018年12月26日 10:52 弁護士ドットコム
会社やめるならボーナスを返せーー。パワハラで退職に追い込まれた人が、このようなことを会社から求められて困っているという相談を、弁護士ドットコムに寄せました。
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相談者によると、会社の給与規定には「ボーナスは来年度がんばることができる人に出す」という趣旨の記載がある一方、年度の途中で退職した場合に返さなければいけないとは書かれていません。
これまでに会社は退職者が出ると、「本人が自主的に返却する」という文書にサインさせ、返させていたといいます。返さない場合には裁判を起こすとの通知も出していたそうです。
パワハラで退職に追い込まれ、ボーナスの返却まで迫られてはたまったものではないですが、どのように対処すべきでしょうか。村松由紀子弁護士に聞きました。
ーー会社の行為についてどのように思われますか
「『パワハラにより退職に追い込む』『退職するなら賞与を(全額)返せ』というのは、どちらも、従業員の立場を全く考えない、問題のある行為ですね」
ーーボーナス返却に際して「自主的に」という文書にサインさせていたあたり、会社として対応に問題があると認識していたフシもあろうかと思いますが、いかがでしょうか
「賞与(一時金)の支給は、支給対象期間の勤務に対する賃金という意味のみならず、功労報償的意味や将来の労働に対する期待や意欲向上を促すという目的で支給されています。
法律上、会社に賞与の支払義務は無いことから、支給条件は基本的には会社の自由ですが、『賃金』としての性質上の制限があります」
ーーどういうことでしょうか
「賞与の返還を求めるのであれば、当然、就業規則等に定めがある必要があります。また、退職予定者の賞与を一定額減額する規定は有効と考えられていますが、全額となると賃金の性質を無視するものでその規定の一部が公序良俗(民法90条)に反し、無効となります。
本件会社の『ボーナスは来年度がんばることができる人に出す』との規定は、そもそも意味が一義的に明らかでないという問題があります。
退職予定者には一切支給しないという意味であれば、その規定の一部が無効となり、仮に裁判になった場合は、何割減額するのが妥当か、裁判所が判断することになりますが、2割程度の減額が相当とした裁判例があります。
今回のご相談者は、パワハラによる退職ですので、一切の減額が認められない可能性もあります」
ーー会社はあえてサインさせて「自主的」に返還している形をとっているようです
「会社としては、このような問題があることを理解した上で、文書にサインをさせていると考えられます。仮に、サインをしたとしても、約束自体、公序良俗に反し無効となる可能性もありますが、まずは、サインをしないことです」
ーーこの相談者はどのような対応をすべきでしょうか
「『自主的』な賞与の返却には応じないことを明確に述べ、賞与の返却が就業規則等の根拠に基づくものかを尋ねてください。根拠に基づかない場合は、一切の返還は不要です。
仮に就業規則等の根拠がある場合でも、全額の返還は不要ですので、ご相談者としては、会社から提示された文書を持って、管轄の労働基準監督署や弁護士等に相談された方が良いでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村松 由紀子(むらまつ・ゆきこ)弁護士
弁護士法人クローバー代表弁護士。同法人には、弁護士4名が在籍するほか、社会保険労務士3名、行政書士1名が所属。交通事故をはじめとする事故、相続等の個人の問題から企業法務まで幅広く扱う。
事務所名:弁護士法人クローバー
事務所URL:http://www.yun-ken.net/