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『Spotify』2018年間ランキングにみる、世界の音楽シーンの変化とは?

2018年12月26日 08:31  リアルサウンド

リアルサウンド

 音楽ストリーミングサービスの『Spotify』が、2018年の音楽シーンを振り返るランキング(集計期間:2018年1月1日 – 11月29日)を発表した。今年の「世界で最も再生されたアーティスト」は、2015年と2016年にも首位に立ったドレイクが再びトップとなったほか、ラテン系のアーティストが世界で最も聞かれたアーティストランキングのトップ10に3組(4位 J.バルヴィン、7位 Ozuna、8位 バッド・バニー)するなど、世界の音楽シーンの変化を如実に表した内容となっている。


(参考:Spotifyが2018年ランキングを発表 最も聴かれたアーティストはドレイク、2位はBTSに


 この今年を振り返る世界的な指標について、音楽ジャーナリストの柴那典氏に話を聞いた。彼は「男性アーティスト・女性アーティスト・グループと分かれているアーティストランキングの形式では計りづらいので、楽曲ランキングから紐解いていきたい」と前置きをしつつ、下記のランキングについて述べた。


世界で最も再生された楽曲
1. God’s Plan / ドレイク
2. SAD! / XXXテンタシオン
3. rockstar (feat. 21 Savage) / ポスト・マローン
4. Psycho (feat. Ty Dolla $ign) / ポスト・マローン
5. In My Feelings / ドレイク


「まずは何といってもドレイクの圧倒的な強さについて。これは彼がストリーミング時代の最も強力なポップスターであることを端的に表した結果でしょう。もちろん、ドレイクはデビューアルバム『Thank Me Later』から初登場全米1位を獲得していますが、4thアルバム『Views』あたりから、彼のやることがインターネットミームになっているんです。例えば、ミックステープ『More Life』を“プレイリスト”と名付けたり、今年1位に輝いた「God’s Plan」は、MVのなかで学校や一般の方に1億円以上寄付している様子を映して話題を集めるなど、音楽の評価と世間の関心の両方を手中に収めました。また、音楽的には彼の登場でシンガーとラッパーの境界線があやふやになったとも思っています」


 続けて、2位にランクインしたXXXテンタシオン、3位のポスト・マローンについてもこう話す。


「先日ハワイに行く機会があって、レンタカーのラジオを聴いていたら、ロックだけが流れるチャンネルに合わせているのに、この2人の曲が掛かってきて、驚きと同時に納得しました。彼らのスタイルのことを僕は”グランジ・ラップ”と銘打って紹介しましたが、実際に海外のメディアでは“エモ・ラップ”と言われ、昔ならロックバンドが担っていた、アメリカのある種内省的・自己破壊的な感性を受け継ぎ、世界中でヒットしています。さらに、この2人は2017年にSpotifyを介して世に出たニューカマーでした。ストリーミングサービスの普及前は『すでに名のあるアーティストに有利なサービス構造だ』と言われていましたが、実は起こっているのは世代交代だったということも改めて証明できたのではないでしょうか」


 また、今年は世界の多様な音楽文化を紹介する人気プレイリスト「Global X」でラテン系音楽が全面的に取り上げられたり、J.バルヴィンやOzuna、バッド・バニーなどのラテン系アーティストがランクインしたことについても「世界的に見逃せない潮流」と述べる。


「昨年はルイス・フォンシの『デスパシート』がバズを起こしましたが、今年そのポジションにいるのはJ.バルヴィンの『ミ・ヘンテ』と言えるでしょう。こうしたスペイン語楽曲のヒットもそうですし、アメリカの王道的な流れから少し外れたところから世界的なヒットソングが出てくる流れにあります。かつては西海岸と東海岸で分かれてニューヨークとロサンゼルスに中心があったシーンも多様化し、フューチャーやミーゴスを輩出したアトランタを筆頭に、XXXテンタシオンのフロリダ、トラヴィス・スコットのテキサスなど、アメリカ南部からスターが登場している。その一方でカナダのトロントを拠点にするドレイクやザ・ウィークエンドが世界中のシーンを席巻し、プエルトリコやコロンビアからレゲトンや“ラテン・トラップ”という新たなジャンルのヒット曲も生まれている。アメリカ大陸全体に音楽シーンの発信源が点在する状況に変わっているような気もします」


 そして、今回の発表は日本のランキングについても触れられている。柴氏はまず、アルバム・アーティストランキングを見渡しながらこのように分析した。


「アーティスト・アルバムランキングはともにBTS(防弾少年団)が獲得しました。彼らは2018年のアジアを代表するアーティストであり、グローバルなスターとなりました。日本では“第三次韓流ブーム”という声もありますが、彼らをそこの枠組みに入れるのは、個人的に間違っていると思います。わかりやすく言うならレディ・ガガに近いロールモデル、とでも言えるかもしれません。どちらも『Little Monster』『ARMY』と、名前の付いた強いファンダムを形成していますし、それぞれマイノリティを中心にしたファンダムが力を付け、ソーシャルメディアで発信することで周囲を巻き込みマジョリティまで押し上げました。『Born this way』や『Love Yourself』のように自己を強く肯定するコンセプトを持った楽曲をリリースし、発言にも影響力がある。出自は全く違いますが、若者への影響という意味では、両者はかなり近い位置付けとして考えることができるでしょう」


 続いて、「海外で最も再生された国内アーティスト」という項目について、柴氏は下記の順位を見ながらこう推察する。


2018年 海外で最も再生された国内アーティスト
1. ONE OK ROCK
2. RADWIMPS
3. Nujabes
4. 坂本龍一
5. BABYMETAL
6. 久石譲
7. Aimer
8. FLOW
9. 米津玄師
10. 小瀬村晶


2018年 海外で最も再生された国内アーティストの楽曲
1. Tokyo Drift (Fast & Furious) / Teriyaki Boyz
2. Stillness Speaks / Yuki Sakura
3. Unravel / TK from 凛として時雨
4. Peace Sign / 米津玄師
5. Best Part Of Us / AmPm
6. 前前前世 – movie ver. / RADWIMPS
7. Inside River, Pt. 2 / 小瀬村晶
8. Asphyxia / Cö shu Nie
9. なんでもないや – movie ver. / RADWIMPS
10. スパークル – movie ver. / RADWIMPS


「海外で再生された国内アーティストがONE OK ROCKである、というのは納得の数字です。現行のポップスのシーンに真っ向から挑んでいるのは彼らだと思いますし、日本人として、というよりはニューヨークに拠点を置くレーベル〈Fueled by Ramen〉の一員として、世界の音楽市場で勝負していることが新曲からも伺えます。個人的に気になるのはNujabesですね。これはSpotifyというプラットフォームの特性だと思うのですが、プレイリストを経由して聴かれることにより、言語に依存しない、音色の気持ち良さや心地よさを持った音楽が世代や国境を超えて聴かれる、という現象が起こっていて、Nujabesや坂本龍一、久石譲はその影響でここまでランキングを上昇させた、という認識です。彼ら以外にも、アーティスト・楽曲ランキングにそれぞれヒーリングミュージックに近い楽曲が入っていることからも明らかでしょう」


 続けて、アニメソングのランクインが多いことについても触れながら、世界における日本の音楽の現状について持論を述べる。


「インドにおけるボリウッドと同じように、日本のアニメもある種の民俗的な大衆文化であり、そこに紐づくアニメソングはアメリカにもイギリスにもアジアにもない独自の音楽性を持っています。世界のランキングと乖離したものであることに憂いを覚えないとは言えませんが、決して悲観するだけのものではないとも考えています」


 最後に、来年以降への期待を込めて、柴氏はこう提言した。


「ただ、楽曲面で10年以上前にリリースされた『Tokyo Drift (Fast & Furious)』が2017年に続いて1位という状況を変える人を待ち望んでいることも事実です。今年はストリーミングへの楽曲解禁を行うアーティストも多い一年でしたから、来年以降はこのランキングを良い意味で狂わせてくれる日本人アーティストが登場してくれることを楽しみにしたいですね」


 状況も好転しつつあると考えられる2019年、国内からこのランキングを変動させるゲームチェンジャーが現れることに期待したい。


(中村拓海)