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年末企画:田幸和歌子の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 新時代への意気込み感じる作品揃う

2018年12月25日 18:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第8回の選者は、テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子。(編集部)


1.『記憶』(フジテレビ)
2.『おっさんずラブ』(テレビ朝日)
3.『透明なゆりかご』(NHK)
4.『中学聖日記』(TBS)
5.『アンナチュラル』(TBS)
6.『シグナル 長期未解決事件捜査班』(カンテレ/フジテレビ)
7.『義母と娘のブルース』(TBS)
8.『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ)
9.『dele』(テレビ朝日)
10.『青と僕』(フジテレビ)、『結婚相手は抽選で』(東海テレビ)


 平成の終わりとともに、新たな時代への意気込みを感じさせる、新たな切り口や視点を持つ作品や、既存のフォーマットをぶち壊そうとする意欲作が多数登場した年でした。


 大きな収穫がいくつもありました。一つは、恋愛ドラマが流行らないと言われる現代だからこそ生まれた、純度の極めて高いラブストーリー『おっさんずラブ』『中学聖日記』です。


 片やおっさん同士のラブコメ、片や最初は「気持ち悪い」と酷評された教師と中学生男子の恋ですが、様々な偏見や常識に包囲されつつも、ひたすらに相手を思う純粋な気持ちに、恋をする素晴らしさを思い出させてもらったという人も多かったのではないでしょうか。


 「結婚」「出産」を題材とし、現代の女性たちが抱える様々な事情や思いを繊細に、リアルに描いた『透明なゆりかご』『結婚相手は抽選で』は、固定観念を覆す秀作でした。


 また、閉塞感あるドラマ界に大きな風穴を開けたのが、『モンテ・クリスト伯』です。浮世離れしたディーン・フジオカを主軸に置くことで、時間や国境を軽々と飛び越えるエンタメが誕生しました。これまでクローズドな空間である舞台では成しえた遠い世界観を、TVドラマに持ち込んだ功績は大きい。海外の古典名作は山ほどありますから、今後のドラマの可能性が大きく拡大されたと思います。


 また、山田孝之と菅田将暉という二人の実力派の役者を「素材」とし、毎回異なる演出家・脚本家が調理しつつも、一つのストーリーを紡いでいく『dele』。条件云々ではなく、役者にほれ込み、「企画」に賛同するクリエイターたちを巻き込むことができれば、こんな贅沢なドラマを地上波で見られるのかとうならされました。


 毎クール1作はぜひとも欲しい「ミステリー&サスペンス」分野の佳作には、キャスティングと脚本、演出、音楽、映像の瑞々しさと美しさが突出していた『青と僕』などを挙げました。骨太サスペンスドラマの『記憶』『シグナル』は、もともと「サスペンス」に強い韓国ドラマを高い熱量で本気でリメイクしたことにより生まれた傑作です。韓国ドラマリメイクの成功例として、新たな鉱脈の発見になったのではないでしょうか。


 ところで、上位10作に絞り切れずに11作となってしまった優柔不断な自分が、即決で1位に挙げたのが、先述した中井貴一主演の『記憶』です。


 若年性アルツハイマーを患った敏腕弁護士が、徐々に失われていく「記憶」というタイムリミットと戦いつつも、事故で息子を失った過去の未解決事件に、弁護士人生のすべてをかけて挑むストーリーでした。


 テーマは決して「病」ではありません。むしろ記憶を失っていくことで再確認できた「仕事への誇り」と「家族再生」の物語でした。病状が進行し、焦り苦しむ一方で、主人公はこれまで見逃してきた小さな幸せを発見していきます。子どもを失ったことで過去に縛られ続ける元妻の悲しみにも、夫の病を知った妻の覚悟にも、最初は胡散臭く見えた週刊誌記者や管轄外の刑事が仲間に変わる頼もしさにも、頼りなかった部下の成長ぶりにも、いじめから救ってくれた父への尊敬ととともに、病を抱えた父に代わって家族を守ろうとする息子の強い思いにも、涙が出ます。恥ずかしながら、全12話を3回ずつ観て、3回とも毎回泣きました。感動と「1話ずつ終了に近づく」悲しみからです。


 2018年の最高傑作として自信を持って押したいですが、残念なのは認知度が低いこと。それもそのはず、3月にフジテレビNEXTライブ・プレミアムとJ:COMプレミアチャンネルで放送された後、地上波では11月に「メディアミックスα」枠で午後3時50分から~、12月にBSフジで午後6時から放送された作品なのです。


 なぜこんな秀作をゴールデン・プライム枠で放送しないのか。様々な事情はあるのでしょうが、今年のドラマ全体を見ると、フジテレビ系列の健闘ぶりが目立つだけに、良作が深夜枠やBS・配信ドラマに集中していることは少々惜しまれます。新時代には、どうか自信を持って、ゴールデン・プライム枠でぜひ冒険を!  (文=田幸和歌子)