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吉本新喜劇と吉本坂46とSHOWROOMの架け橋にーー小寺真理が考える“新しい芸人の形”

2018年12月23日 16:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 仮装ライブ空間『SHOWROOM』にて、よしもと芸人による個人配信が続々とスタートしている。各自のルームでは、ネタや他愛ない雑談、稽古中の一幕など、様々な場面から放送を行なっているが、リアルサウンドテックでは定期的に同プラットフォームを使って新たなファンを多く獲得した芸人や、尖った配信を行なっている芸人などに話を聞く連載をスタートさせる。


(参考:お笑いコンビ・トータルテンボスは“いたずら”で世界目指す? YouTube『SUSHI★BOYS』の挑戦


 第一回は、吉本新喜劇の座員ながら、「よしもと×SHOWROOM」といえばこの人、というほど同サービスを活用し、吉本坂46のオーディションにも合格した小寺真理にインタビュー。その異色な経歴や新喜劇に革命を起こした活動、吉本坂46に入るまでの努力などについて、存分に語り尽くしてもらった。(編集部)


「実は私、NMB48のオーディションに落ちてるんです」


ーーまずは『SHOWROOM』で配信を始めたきっかけについて聞きたいのですが、元々は吉本坂46に入るためだったとか。


小寺:そうなんです。三次審査の時にネット投票に切り替わって、東京で活躍されてる方がたくさんエントリーされてるなかで、吉本新喜劇に出させてもらってるとはいえ、大阪にいる自分は何をやったら東京の人たちに勝てるんやろう、と思って。親友の有村藍里ちゃんと深夜に「こんなツールを使ったほうがいい」というやりとりをしていくなかで、「『SHOWROOM』とかどう? 多分一番マッチングすると思うねん」って勧められたんです。


 そういえば、『SHOWROOM』は吉本ともコラボしてたし、会社に言えばやらせてもらえるかも!と閃いたものの、新喜劇はインターネットに疎い座員が多くて(笑)。伝統ある新喜劇のなかで、下っ端の私が「やりたいです!」って声を大にして言うのは憚られたんですけど、川畑(泰史)座長が「そんなこと言ってられへん。これは戦いやねん。マネージャーに直接言うてみい!」とサポートしてくださったので、始めることができたんです。


ーー『SHOWROOM』を始める以前も、色々考えて“対策”はしていたんですか?


小寺:そうなんですけど、インターネットを活用するわけでもなく、新喜劇の合間に日本橋でチラシを配ったりとか、そういう感じでした(笑)。『SHOWROOM』を始めてからも、NGK(なんばグランド花月)の周りとか近所のお店にチラシを置いてもらえるようにお願いしたり、アナログとデジタルは使い分けてたかもしれないです。とはいえ、ダイレクトにお願いしてその場で投票してもらえる『SHOWROOM』が、やっぱり一番反響がありました。


ーーそもそも、吉本坂46に入りたいと思ったのはなぜ?


小寺:吉本と秋元康さんのコラボなんて、滅多にないことですから。それに……実は私、NMB48のオーディションに落ちてるんです。その時はコンビで活動もしてたし、つぼみというグループにもいたのに、マネージャーから「受けてみよう」と言われて。でも、実際は事務所に入ってる人は通れない審査基準だったんです。なのに密着番組でも「吉本のやつが受けてる!」と取り上げられて、ネットが荒れてて……。あれは私なんですよ(笑)。


ーーああ、そんなことがあったような……。


小寺:そういった形でお騒がせしたので、秋元さんとはもう永遠に関わることがないんだろうなって思ってたんですけどね(笑)。でも、こうして5年越しに改めてチャンスが巡ってきて、座員としても小籔千豊さんのように活躍して、新喜劇を全国に広めるチャンスだなと!


ーー先ほど“つぼみ”の名前が上がりましたが、その時にアイドルとしてやり残したものもあったり?


小寺:私が所属してたころのつぼみは、女性タレントコースの卒業生というだけで、アイドルではなかったんですよ。なのに、私らが卒業してからアイドルって名乗りだして、コントもしなくなって(笑)。なので、アイドルとしては一からスタートしている感覚なんです。


ーーあら、そうでしたか(笑)。ほかにも小寺さんはメイド喫茶でのアルバイトなど、“新喜劇っぽくない”面白い経歴もありますよね。


小寺:メイド喫茶に関しては、高校の文化祭でメイド喫茶をやることになったけど、クオリティの高いものを作りたくて、勉強しに行くつもりでお客さんとして行ったらハマっちゃったんです。通ってるうちにスカウトされて働きだして、それがすごく楽しくて。厳しい家庭だったので親には言えなかったんですけど、「部活にも入ってないのに土日になったら出かける。何してるかわからへん」と心配するようになって、「着付けとかお花を学べます」って書かれたNSCの女性タレントコースのパンフレットをお母さんが持ってきたんです。場所もメイド喫茶の近くで通える動機になると思って、不純な気持ちで入学しました(笑)。


ーーNSCの近くというと、日本橋あたりですか。


小寺:そうです! でも実際はそんなに上手いこといかなくて、NSCに入ってみたら先生から「漫才せえ」と言われ、面白いエピソードを求められ……。そんなときにメイド喫茶のエピソードを話したら「それは自分の個性と思って活かしたほうがいい」と言ってもらって、今につながっています。


ーーその時の経験も『SHOWROOM』に活きているような気がします。


小寺:確かに。賛否両論あるグループということもあり(笑)、誹謗中傷に近いコメントもたまにあったりするんですけど、そこもメイド喫茶の経験を踏まえて、ほったらかしにせずにコメントを拾って取り上げたりしています。放置したまま、リスナーさん同士が喧嘩になるのは見たくないですし。その辺りの「アカンところを見つけて伸ばしていく」ことに関しては、新喜劇の経験もあると思います。


ーー新喜劇の経験もメイド喫茶の経験も、全部が活きる場所になっているわけですね。


小寺:こんなに繋がるとは思わなかったです。今までは自分の中で点でしかなかったんですけど、『SHOWROOM』がそれを線にして繋げてくれました。


ーー側から見ると、小寺さんは『SHOWROOM』を始めてから一気に勢いづいてきたし、全国的に知名度も上がっていったように思えるんです。本人としてはどういう感覚なんでしょう。


小寺:でも、最初は200人とかでしたし、「吉本新喜劇」って看板を見て物珍しそうに見てくれる方ばっかりでしたから。アイドルの配信を見る人は多いけど、お笑い枠はあんまり見られるイメージもなかったですし。だって、他の芸人の配信とか見てたら、汚い部屋で窓際にパンツ干してる人とかいるんですよ。今でもたまに見つけるんですけど、そんな配信見たいと思います?(笑)


ーー確かにそれは……(笑)。その200人から徐々にリスナーを増やしていくにあたって、自分の中で試行錯誤したことは?


小寺:私自身は全くわからない手探りの状態から始めて、徐々にリスナーさんが教えてくれたんです。


小寺が新喜劇に起こした“革命”


ーーこれまでで一番リスナーさんに「教えられたな」と思った瞬間は?


小寺:初めて参加したイベントですね。それまでは軽い気持ちで毎日配信してただけなんですけど、ある日「渋谷の大きい看板に出れるかもしれないイベントがあるから、参加してみたら?」ってリスナーさんから教えてもらって、興味本位で参加してみたんです。1日2日やったら1位になって、そこから自分のスケジュール感で配信してたんですけど、最後の3日で一気に抜かれてしまって。「何これ!」ってショックを受けてたら、今の軸になってくれてるリスナーさんが現れて、「絶対3時まで配信する」とか「忙しくても1日15分はやる」とか「配信の時間はちゃんとスケジュールを組んで、前もって教える」「星集めの時間も計算しないとダメ」というイベントでの勝ち方を教えてもらって、一気に意識が変わりました。


ーーリスナーさんが、『SHOWROOM』ならではの戦い方を教えてくれたと。でも、そういう“戦い”はイベントのときだけで、普段はリラックスした配信も多いですよね。


小寺:そうですね。忙しいのをわかってくれて「映像とかもなくていいから、適当な配信でも大丈夫!」って声をかけてくれたり、一緒になって部屋を作ってくれているんです。


ーー自分だけの部屋だったはずのものが、だんだん人も増えて、自分だけのものじゃなくなってきてる感覚があるんですか。


小寺:本当に私がやってることといったら、時間を予告してその通りに配信するぐらいなので。あとはもうみなさんにお任せ(笑)。あとは、自分がやりたいことを一緒に叶えてくれたりもしますよ。「ラジオをやりたい」という目標を話したら、「じゃあここでラジオみたいなコーナーを作ろう」って提案してくれて、実際にやってたらMBSさんからラジオのお誘いがあったんです。『SHOWROOM』での企画が吉本の社員さんの耳に入ったみたいで。ちょうど『SHOWROOM』とラジオをコラボさせようと言っている時期だったので、私の名前を挙げてくださったそうなんです。


ーーそういう時に名前が挙がってくるようになっただけでも、十分成果がでてるといえます。


小寺:ホントですよね! しかも、同時に前田裕二さんの『SHOWROOM主義』(TOKYO FM)に出られるイベントにも参加していて、ほぼ同時に2番組が決まるという嬉しい誤算もありました。


ーー前田さんとハヤカワ五味さんと共演した回ですね。


小寺:2人とも文化人なので、私にはわからない単語が飛び交っていて。携帯も手元になかったからその場で調べられなくてパニックになってたんですけど、前田さんがそれを察して解説しながら話してくれるようになって。懐の広い方だなと改めて思い知らされました。


ーー逆に、『SHOWROOM』での活動が新喜劇に活きたことはありますか?


小寺:あります! 大きい仕事を『SHOWROOM』でいただく度に、座員のみんなが「次はあれに出るんやろ?」って知ってくれていて。みんなも「こんなやり方があるんや!」と気づいたみたいで、一番若手の女性座員は、全員『SHOWROOM』をやることになったんですよ。


ーー新喜劇に革命を起こしているじゃないですか。


小寺:そうやったらいいんですけど。「吉本新喜劇」って名乗ってやるからには先輩とのエピソードトークも求められますし、結構大変やなと思うんですけど、意外と抵抗ないんですよね。そういう世代ってことかもしれないですね。


ーー確かにSNS慣れしてる世代だと、配信に抵抗はなさそうですね。


小寺:上の方たちはどうしても抵抗があるんですけど、私が楽屋で配信してるときには、パッと一緒に入ってくださるんです。最近は吉本坂のレッスン合間に配信することも多いですね。この間も大阪でダンスの練習をトットの多田(智佑)さんとやってたんですけど、その合間に汗だくで配信してたり(笑)。


ーーああ、それは見てました。


小寺:私、結構マジメなので「こういうときのギフティングは半々にしたほうがいいのかな……」みたいな心配をずっとしているんですけど(笑)。


ーーなかなかそこまで考える人はいないような。


小寺:吉本芸人はお金のことを気にしがちなので……。とはいえ、そこを収益にしてどうこうしようとは思ってないんです。若手の子から「小寺さんは『SHOWROOM』だけで生計立ててるんですよね?」とか、「イベントの最終日にタワーが立ち過ぎて、小寺さんの下に街が出来てた」って言われたことがあるので、念の為に言っておきます(笑)。


ーーそうやって言われるくらい、チェックされる存在になったということですね。


小寺:ありがたいことです。お笑い枠はアイドルさんや声優さんに比べたらまだまだ弱いし、イベントに対してがっつり取り組んでる人も少ないこともあって、「圧勝になるからイベントに出ないでほしい」と言われたこともあります(笑)。『SHOWROOM』としては強くしていきたいジャンルらしいんですけど、芸人は照れ屋さんも多いし、投げ銭をもらうスタイルも定着してないし、「芸人だから面白いことをしないといけない」というスタンスも強くあって、なかなか配信に踏み切れる人がいないんだと思います。


ーー今お話いただいたようなことを、後輩から相談されることはありますか?


小寺:劇場でやってる方は少ないんですけど、新喜劇の若手からは聞かれるようになりました。でも、私はただただ運良く吉本坂のオーディションという大きなタイミングがあっただけで、テクニックどうこうって話じゃないと思うんですよね。そんななかでも「しっかりコメントを読むこと」は大事にしてね、と伝えています。「今日1日どんなことがあったの?」って聞いてくる人が1人はいてくれるので、自分の話もするんですけど、「今日は歯医者に行ってきたよ」とか「明日病院行くんです」とか……私のルームのリスナーさんは年齢層が高いから、病院に行く人が多いんですけど(笑)。そこに対して丁寧に反応することで会話も生まれるし、関係性ができてくれば反射的に返すだけも楽しんでくれますから。あとは「背景を綺麗にしてる?」というのも結構言ってる気がします。


「自分がもっと世に出ていけば、全部に注目してもらえる」


ーー吉本坂に受かったことについて、新喜劇メンバーからの反応は?


小寺:喜んでくれてはいますけど、あんまり詳しいことは分かってません(笑)。でも、今別府(直之)さんはすごく乃木坂が好きなので、「小寺ちゃんは今からセンターになれなくていいんですよ、秋元真夏さんみたいにちょっとずつ頑張っていきましょう」とか「握手会も色んなところにレポートが上がってるから、それを見て勉強してほしい」とか「兼任して、新喜劇に連れてきて欲しい」なんて言ってますが……(笑)。


ーー今別府さんが参謀に付いていると(笑)。現状、グループ活動の方は順調ですか?


小寺:ダンス選抜のメンバーに入ったんですけど、あまりにレベルが高くて苦戦しました。オーディションのダンス審査では知り合い経由で振付師の先生に教えてもらって、水着審査は有村藍里ちゃんに写真を撮ってもらったり、今回もA-NONさん、SHUHOさん、まちゃあき(エグスプロージョン)さん、HIDEBOHさんとダンスのスペシャリストたちがいたので、お力をお借りしながらなんとか乗り切ったんですけど。


ーーそういう背景があったんですね。冠番組『吉本坂46が売れるまでの全記録』でも取り上げられる機会は多いですし、デビュー後はより注目されることが増えるのでは?


小寺:なぜか番組で密着してもらう機会が多いんですよね。前田さんもインタビューを受けてくださって、「『SHOWROOM』を外で宣伝してくれてる」とコメントいただけたりして。合格発表の時にも「吉本新喜劇と『SHOWROOM』のおかげで受かりました」と言ったんですけど、その言葉に嘘はなくて。これから取り上げていただくことが増えるのであれば、積極的に新喜劇と『SHOWROOM』のことをお話しして、少しでも恩返しになればと思います。


ーーお話を伺っていて、小寺さんがこれから新喜劇と『SHOWROOM』と吉本坂の架け橋になっていく未来がハッキリ見えてきました。


小寺:そうなれたら最高なんですけど、とにかく今は自分をなんとかしなきゃ、と思うんです。


ーーというと?


小寺:自分がもっと世に出ていけば、全部に注目してもらえるじゃないですか。実際に『SHOWROOM』で興味を持って新喜劇を見にきてくださった方もいますし、その逆もあれば、吉本坂の番組経由で『SHOWROOM』に遊びに来てくれる方もいるので、その人数をもっと目に見える形で増やしたいです。


ーー他のインタビューでも、「新喜劇で出てきた瞬間に拍手をされる人になりたい」という目標を話していましたね。


小寺:それに関しては、この間まさに悔しい思いをしたばっかりで。ダイアンさんの単独イベントの「西澤(裕介)の親友を決めよう」って企画に出させてもらったんです。最初は新喜劇の帯谷孝史さんが出て行って、お客さんからも「おー!」と反応があったんですけど、次に私が出て行ったら「あれ、誰?」みたいな空気になって。そのあとのちゃらんぽらん冨好さん、ギャロップの林(健)さんではちゃんと盛り上がってて、もっと頑張らないといけないなと実感しました。津田さんも「これからグーン!て来る子なんです!」ってフォローしてくださったんですけど。


ーーでも、そこに声がかかるようになっただけでも、大きな進歩だと思いますよ。


小寺:お誘いは確かに増えましたし、社員さんも「『SHOWROOM』の子や」って覚えてくださってるので、一旦結果を出すことは大事だと改めて感じました。社内だけじゃなくて新喜劇のことを知らない方に知ってもらうために、これからは頑張ろうと思います。吉本坂もしばらくは続くと思っているので、その間に結果を出したいですね。あと、前田さんの本に成功事例として名前を載せてもらうのも目標です。


ーーその辺りは近いうちに達成できそうな気がするので、長期的な目標も聞かせてもらっていいですか?


小寺:最終的には新喜劇に還元したいと思っているので、そのなかで今までにない動き方をする芸人になりたいですし、芝居のお仕事も増やしたいし、東京に来る機会も多いので、今のうちに爪痕は残したいし……やりたいことだらけですね。でも、吉本坂のオーディションで秋元さんと向かい合ってから、舞台度胸がついて以前よりも緊張しなくなりましたし、審査の段階で毎日500人くらいにLINEを送ったりしてたら、少しだけあった邪魔なプライドもなくなりました。素直にいろんなことを聞いたり挑戦したりできるようになりましたし、関西のテレビの仕事も少しずつ増えてきましたし、個人マネージャーさんも付いたので、これから伸びしろを見せれるんじゃないかと思ってます!


ーー関西ではすでにその機運があるということですね。関西の芸人は「大阪と東京で2回売れなきゃいけない」ってよく言われると思うんですけど、小寺さんは今までにない売れ方をする芸人のロールモデルとして、今後の吉本に大きな影響を与えるんじゃないかと期待しています。


小寺:ありがとうございます。そういえば、この間うちのお父さんがゴルフでたまたまオール巨人師匠と同じコースを回ったらしいんですよ。ハーフを回ったところで「うちの娘、新喜劇の座員なんです」って挨拶したら、「知ってる! 俺が見てきた芸人の中でナンバー3に入るぐらい美人や。でも、そのタイプの人が今までうまくいったのを見たことがないから、もっと自分の人生を考えたほうがいいって伝えてあげて」と言われたみたいで。あと、「吉本坂に入ったかもしれんけど、吉本のすることなんか信用したらアカン」ともおっしゃってたみたいなので(笑)、その辺りも肝に銘じつつ、頑張りたいと思います。


(中村拓海)