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年末企画:麦倉正樹の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 “多様性”をめぐる問題と“脱構築”の動き

2018年12月23日 12:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第6回の選者は、無類のドラマフリークであるライターの麦倉正樹。(編集部)


1.『透明なゆりかご』(NHK)
2.『女子的生活』(NHK)
3.『アンナチュラル』(TBS)
4.『dele』(テレビ朝日)
5.『おっさんずラブ』(テレビ朝日)
6.『中学聖日記』(TBS)
7.『僕らは奇跡ででている』(カンテレ/フジテレビ)
8.『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)
9.『anone』(日本テレビ)
10.『獣になれない私たち』(日本テレビ)


参考:年末企画:麦倉正樹の「2017年 年間ベストドラマTOP10」 “関係性”を主軸に置いた作劇が際立った年


 振り返ってみると、2018年は“多様性”と“脱構築”を意識したドラマが数多く見受けられた一年だったように思う。“多様性”とは、自分とは異なる価値観をもった他者を受け入れること。“脱構築”とは、既存のドラマ構造を超えて、新しい物語を描き出していくことである。その両者が複雑に入り混じりながら、作り手たちのあいだでさまざまな試行錯誤が行われたのが、2018年のテレビドラマ界だったのではないだろうか。


 トランスジェンダーを主人公とした『女子的生活』はもちろん、流行語大賞にノミネートされるほど注目を集めた『おっさんずラブ』、あるいは『隣の家族は青く見える』に登場したゲイカップルや、『中学聖日記』に登場したバイセクシャル。それらはいずれも、「LGBTをテーマとしたドラマ」と言うより、むしろそれらの人々をドラマ内に配置することによって、その他の登場人物たちの“反応”や“戸惑い”を視聴者と同目線で描き出し、それを彼/彼女たちがどう乗り越えていくのか? という点に主眼が置かれたドラマだった。そのことは、“多様性”とは社会の問題である以前に、個々人の“寛容性”の問題なのだという当たり前の事実を、改めて視聴者に理解させてくれたように思う。


 そのなかでも『女子的生活』は、全4話と短いドラマながら、志尊淳と町田啓太の好演もあって、最終的には、まるで青春物語のように爽やかな余韻を残す、実に忘れがたい作品となった。1位に選出した『透明なゆりかご』も、そんな“多様性”と無関係ではない。町の産科医のもとにやってくる人々が、それぞれに抱えている事情。それはときに、容赦ない現実を我々の前に突き付ける。けれども、それを既存の価値観で測るのではなく、“看護師見習い”の女子高生という、まだ何者でもないフラットな視線で描くことによって、本作は同系のドラマである『コウノドリ』(TBS系)とはまた違う、爽やかな感動を視聴者にもたらしていたように思う。本作が初主演となる清原果耶の瑞々しい演技も光っていた。


 これまでと少しだけ視点をずらすことによって、物事の新たな側面に光を当てること。法医学という決して目新しくはない題材を、リアルで能動的な“女性目線”で描き出すことによって秀逸な現代性を獲得していた『アンナチュラル』も、そんな視点の新しさを感じるドラマだった。毎回抜群のタイミングで流れる米津玄師の「Lemon」の記憶ともども、こちらも忘れがたい一本だ。


 “多様性”をめぐる問題は、ステレオタイプには陥らない新しい感性をもったドラマをーーという“脱構築”の動きとも関連しているのだろう。とりわけ、名前と実績のある脚本家たちにとっては。その筆頭が、北川悦吏子の『半分、青い。』(NHK)になるのだろうけど、野島伸司の『高嶺の花』(日本テレビ)同様、個人的にはあまり成功していたようには思えなかった。「結局、何の話を見せられたのだろう?」。そんな素朴な疑問が、最後に残ってしまったから。坂元裕二の『anone』、野木亜紀子の『獣になれない私たち』にも、同じような“脱構築”の意識を強く感じた。この2つ関しては、役者陣の好演もあって、心奪われるシーンも数多くあったが、やはり全体としては、何か釈然としないもどかしさが残ってしまった。無論、両者とも実に見応えのあるドラマではあったけれど、もし仮にそれが成立しているのならば、脚本よりもまずは役者の好演を称賛すべきではないだろうか。


 その一方で、『dele』や『中学聖日記』は、作劇の構造によって“脱構築”するというよりも、むしろ役者の魅力を十全に活かしながら、丁寧な演出とカメラワークによって既存の枠組みを打破しようする作り手たちの野心が感じられ、個人的には、むしろこれらのドラマのほうに好感を持った。そして、主題歌や小ネタの数々が若干のノイズとなっているのが少し気になったけれど、主演の高橋一生をはじめ、個々の役者の魅力と、“多様性”に関する明確なメッセージ性が胸に響いた『僕らは奇跡でできている』は、もっと多くの人に観られてしかるべきドラマだったと思い、最後に加えさせてもらった。


 ちなみに、海外ドラマに目を向けると、『13の理由』、『ナルコス』など人気作品の新シーズンが、いずれも期待値を超えるものではなかったの対し、『オザークへようこそ』S2と『マーベラス・ミセス・メイゼル』S2は、いずれも期待を上回る秀逸なシーズンだったように思う。そして、忘れてはならないのは、やはりドナルド・グローヴァーの『アトランタ』だ。毎回約30分程度の短いスケッチでありながら、既存の枠組みには決して収まらないその先鋭性に、とにかく衝撃を受けた。真の“脱構築”とは、こういうものなのかもしれない。とりわけ、S2E6「テディ・パーキンス」は、今年最も衝撃を受けたエピソードだったので、気になる方は是非チェックしていただきたい。


(麦倉正樹)