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萬平(長谷川博己)は3度目の拘束にどう立ち向かうのか 『まんぷく』終戦後も“戦い”は続く

2018年12月23日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 英文の判決文、しかも難解な言葉であふれたその内容を読み込んだといい、見るからに頭の切れる弁護士である。東京帝国大学の法科を首席で卒業したというその弁護士は、福子(安藤サクラ)たちに降りかかる問題に対して、次々と現実的な対処策を提案してきた。


 菅田将暉演じる弁護士・東太一は、『まんぷく』(NHK総合)の新たな登場人物の1人である。少し人見知りではあるものの、福子や萬平(長谷川博己)たちの力になりたいという気持ちはとにかく強い。死にかけていた妹はダネイホンで救われたというから、その気持ちはひとしおなのだろう。


 そんな東にとっても特別な思いがある栄養食品の開発は、栄養失調の人々を目の当たりにしたことにさかのぼる。第45話で、「戦争はまだ終わっていないんだ」と萬平は言った。ダネイホンのおかげで、1人、また1人と戦争で抱えた苦しみから解放されていったのだ。


 ところが皮肉なことにと言うべきか、萬平たちにとっては栄養失調とは違った意味での“戦い”が続いているのだ。萬平は本作の中で、憲兵に1度、進駐軍によって2度身柄を抑えられている。戦争も終わり、あとは何事もなく“人の役に立つ”人生が開けているのかと思いきや、そうはいかなかったのだ。萬平たちを阻む“戦い”とは何度も隣り合わせ。『まんぷく』では朝ドラ特有の和やかで温かみのあるシーンももちろんあるだけに、あの不穏なBGMが流れたときには、いつも胸をざわつかせるものだ。


 こう考えると確かに、福子や萬平たちの道のりはとてつもなく険しいものに見えるかもしれない。ただ、『まんぷく』ではそれと同時に“希望”の存在をほのめかすシーンがちゃんとある。今週の場合、その“希望”の提示の役割を担った1人は、まさしく東である。東は“希望”に関する台詞を随所で口にしてきた。


 東と萬平が初めて対面したときのこと。アメリカの憲法裁判所の判決に不服申し立てはできないと東が説明すると、萬平は絶望の表情を浮かべてしまう。その時、東は「でも希望は捨てないでください!」と声をかけたのだった。あるいは、ダネイホンの商標と製造方法が売れたことを報告しにいったときのこと。その時にも、「どうか希望を捨てないでください」と口にした。


 捕らえられているために、萬平にはできることがほとんどない。でも、そんな状況でもできることがある。その1つは、“希望を捨てない”ということ。それが大きいもののときもあれば、小さいもののときもある。ただ、いずれにせよ“希望”はちゃんとそこにある。要するにその“希望”を捨ててしまうか、持ち続けるかの問題なのだ。口で言うのは簡単である。実際に萬平のような立場になってみなければ本当の辛さは分からないのだろう。“希望”を持ち続けるというのは、ある意味では極めて辛いことでもありうるのだ。


 だが、萬平は3回も捕らえられたものの、いずれの場合も周りの人間たちは萬平の解放のために力を尽くしてきた。自分がやっていることが、果たして解放につながるのかどうかなんて断言はできない。それでも、こうすることで萬平が助かるという“希望”をしっかりと持ち続けた。その意味において、塀の内側にいる人間も、外側にいる人間も共通して言っていることがあるのだ。“希望”がある限り、ただそれを抱き続けるということ。それこそが、福子たちの“戦い”を後ろで支えてくれる大きな武器なのだろう。


「戦いは終わっていない」


 今週の最後に口にした萬平の言葉である。ナレーションでは、「その戦いが想像を超えたものになる」と言っていた。しかし、ここは鈴さん(松坂慶子)が話を聞いた占い師、あるいは剛田(イッセー尾形)が予言した、「大器晩成」という言葉を信じるしかない。(國重駿平)