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髭、“ホーム”のリキッドルームで祝った15周年 音楽への愛溢れるツアーファイナルをレポート

2018年12月21日 13:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 活動15周年を迎えた現在の髭が醸し出す、この独自性溢れる魅力の根源は何だろうか? そういったことを頭の中でぐるぐると考えながら、この日は彼らのツアーファイナルの地へと向かった。今年彼らが発表したオリジナルアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』、ベスト盤『STRAWBERRY TIMES』とともに、全国8都市を回ってきた秋旅の最終地点、東京でのツアーファイナルは、2018年11月23日、彼らにとっての“ホーム”ともいえる恵比寿リキッドルームで開催された。虹色に光るライトと妖艶なミラーボールの煌めきが彼らを迎え、まずは「アップデートの嵐だよ!」からスタート。今夜も髭特有といえるツインドラムの鳴りがズシズシと身体に響き、三連休最初の金曜日の夜、恵比寿に集った人々は一気にいつもの髭ワールドへと引き込まれていく。須藤寿(Vo/Gt)が「どうも~、髭ちゃんだしー」と第一声を発し、さらに高まるオーディエンスからのハンドクラップ。さあ、今夜もパーティーを始めよう。


(関連:髭ライブ写真はこちら


 『STRAWBERRY ANNIVERSARY』収録曲と、これまでのライブでもおなじみといえる「ブラッディ・マリー、気をつけろ!」「ドーナツに死す」「黒にそめろ」「ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク」などの数曲を立て続けに披露。最新曲とオールタイムベストを見事に織り交ぜながら、甘くもサイケなめくるめく髭的世界観へとオーディエンスを誘って行く。それを各々自由に受け止めるフロア。彼らのライブに集うお客さんには、真の音楽好きだと感じられる人たちが多いのもまた、この自由な空気の所以だろう。この日は、幾度となく「サンキュー」「ありがとう」という言葉を繰り返し伝えている須藤が印象的だった。それは単なるロックスター、あるいはショウビズの世界のお決まりの謝辞ではなく、振り返ればバンドにさまざまな出来事があった中での、15周年ならではの重みがずっしりと響いてくる言葉だった。また同時に、バンドとしての豊かなロックのバックグラウンドを評価し、ここまでの15年の間、彼らとともにパーティーを楽しみ続けてきた観客たちへの「これからもともに楽しもう」の意が存分に込められていたに違いない。だからこそ聴いているこちらとしても、ライブの中盤、10曲目に披露したスローでロマンチックな「せってん」などでは、彼らのようなバンドがきっちりと残り自由に活動し続けているということ自体に感謝したくもなった。


 15曲目には、彼らの15周年における代表曲ともいえる「きみの世界に花束を」。〈願い事は叶えるものさ〉という言葉がとても印象的な1曲でもある。


 「1(イチ)と5(ゴ)で、イチゴ、だからSTRAWBERRYなんだよねえ」とおどけてみせた須藤だが、今夜はまさに、苺のごとき甘酸っぱい瑞々しさを醸し出しつつ、しかも駄洒落が込められているタイトル通りの、彼らの甘さと少しのファニーさが存分に込められている幸せなアニバーサリーだ。


 曲間、「この瞬間て、本当に本当に現実?」と笑いながら幸せそうに話す須藤は、「このツアーではっきりしたのは、俺ってミュージシャンだなって。そしてふたつめの職業は、移動する人、つまり旅人です」と周年のツアーを振り返った。さらに最後に彼は「あ、もう1つ職業思い出したよ。こうやってみんなの気持ちを1つにできるってことは、魔法使いなんじゃないかって」と話し、彼らをマジシャンのようだと考えていたので、こちらとしてもさすがに驚いた。そうか、やっぱりロックのライブというのは“魔法”なのかもしれない。自由に楽しんでいるだけのつもりなのに、気持ちの一致度が半端ではない。それが髭のライブの最たる魅力だろう。


 本編は、きっかり2時間。『STRAWBERRY ANNIVERSARY』に収録の10曲は全て、そしてそれ以外もさながら“オールタイムベスト”的な選曲で10曲、合計20曲を披露した5人。アンコールに応えて再びステージに戻ってきた時には、それぞれの手に缶ビールを携えていた。「心のシートベルトを外してしまいました。でも(ホームである)リキッドルームの時くらいは、安全運転やめましょうよ!」と斉藤祐樹(Gt)が言うと場内からは拍手と歓声が起こる。


 「もっとすげーすげー」「ハートのキング」の2曲を披露して一旦幕を閉じるも、客席からのアンコールは止まらない。そして迎えたダブルアンコール。


「15年前に髭を始めた頃は、ダブルアンコールをもらえるようなバンドになるとは思っていなかったです。ありがとう。20周年が今から楽しみです。少しでも長くここにいられるように」(須藤)


 願いのような言葉を添えてラストに披露したのは代表曲の1つである「虹」。彼らとともに〈虹の向こう側〉までやってきた、この日集えし音楽好き達はやっぱり幸せ者だったな、と確信するような瞬間だった。


 ロックが有する憎めなさとロマンチックさ、スイートネス、そして快楽・開放感を常に提供してくれる髭。よく考えたら髭というネーミングからしてファニーでやっぱり笑ってしまう。それでもこんな強力なロックを奏で続ける髭は最強である。バンドが長く続く時代になってきて周年を迎えるバンドも増えた昨今だが、肩の力を抜いて何かを成し遂げるというのは、本当はとても難しいことのはずだ。しかし髭はそれをサラリとやってのける。彼らが「ハートのキング」の中で歌う通り、〈確かなモノなど何もない〉。しかし、こうして15年間バンドを続けてきて、ほどよく肩の力の抜けた大人たちが、「この先も20周年までバンドを続けていけたら」という願望を、目を輝かせながら話している、そのこと自体がもう、ただただひたすらに、無垢なロマンチックさを放つ。今の髭にあるのは、そういうタイプの“浪漫”なのだろう。こんな素敵な音楽に囚われたまま生きている大人たちがいてくれるのなら、きっと人生オールライトだと思えてしまう。15周年を迎えてなお、若い世代からも髭が支持される理由も改めてよくわかる。


 この日彼らが演奏した1つ1つの曲を振り返り、噛みしめ、思い出すたびに、何度でも幸せな気持ちになれる。そんな彼らにとっての記念すべき15周年の締め括り、そして2018年最後のライブだった。これでもかというほどの音楽への濃密な愛と、ほんの少しのファニーさで満ち溢れた髭の世界がこれからも末長く続いて行くことを祈りたい。(鈴木絵美里)