トップへ

『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』20年の時を経て帰ってきた名作に感じる“ゲームの夢”と“違和感”

2018年12月21日 07:12  リアルサウンド

リアルサウンド

 みなさんは『シェンムー』をご存じだろうか。ゲーマー、とくにセガ派にとっては信仰の対象ともなっている『シェンムー』は、3Dオープンワールドゲームの元祖とも言われる名作だ。


(参考:欅坂46長濱ねる、大好きな麻雀パズルゲーム『四川省』で世界記録に肉薄「来年中には世界王者に」


 そしてあの『シェンムー』がPS4用ソフトになって帰ってきた。『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』タイトル通り『シェンムー 一章 横須賀』と『シェンムーⅡ』がセットになった移植版で、この1本だけで未完の名作『シェンムー』を味わいつくせる代物だ。


 だが、未プレイの方のなかには「『シェンムー』ってどこが面白いの……?」とお考えの方もいるだろう。そこで、この記事では元祖オープンワールドである本作の魅力についてお届けする。


舞台はスカジャン発祥の横須賀


 革ジャンを着ているガタイのいい兄ちゃんが、本作の主人公である芭月涼だ。彼はこう見えても高校生である。


 『シェンムー』での涼の目的は、父親を殺した謎の男に復讐すること。涼の復讐心はすさまじく、彼は父親が殺されてから1度も学校に行かずに父の行方を探そうとする。たまに息抜きにゲームセンターで一日中遊んだり、フォークリフトのバイトをしたりしているが、それでも学校にだけは行かない。


 涼の住む町は神奈川県の横須賀市、古くから軍港として栄えてきた横須賀には、船員や海兵として働く外国人も多い。


1に聞きこみ、2に聞きこみ、3・4で遊んで、5に聞きこみ


 『シェンムーⅠ』はとにかく“聞きこみゲー”だ。事件当日に犯人の乗っていた車を探す→乗っていたのは中国人→同じ中国人に聞いてみる→中国人はどこだ? という風に様々な人から情報を聞いてはまた新たな情報が必要になり、涼はひたすら町中をたらい回しにされる。


 ちなみに『シェンムー』には『バーチャファイター』のシステムを下敷きにしたバトル要素もある。だが“バトル要素もある”という言い方からわかるように、本作はバトルが本筋のゲームではない。


 むしろ『シェンムー』の楽しみの大部分はストーリーを進めることや不良と殴り合うことよりも、その辺をブラブラほっつき歩くことにあると言っていい。


 シェンムーには“役に立たない”アイテムやイベントが多い。たとえばゲームセンターや駄菓子屋の前に置いてあるガチャガチャは実際にお金を払って引ける。


 聞きこみに飽きたら、ゲームセンターで『ハングオン』や『スペースハリアー』のようなセガ往年の名作を遊ぶこともできる。


リアリティがあるからこそ“違和感”がある


 『シェンムー』は当時にしては異常なまでのクオリティで、リアリティある世界とキャラを作り上げた。本作は全編フルボイスとは思えないほどのテキスト量は、それこそ『レッド・デッド・リデンプション2』を彷彿とさせる。


 だが、『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』にはリアリティがあるからこそ感じてしまう違和感のようなものがある。たとえば、ゲーム内でタトゥー屋を探さなければならない状態のとき、涼は誰に話しかけてもタトゥー屋の場所を聞く。


 同じ質問を執拗に色んな人にし続ける涼の姿は、いくら自分で操作しているとはいえ滑稽だ。


 そして、滑稽を通り越して泣けてくるのが、名前のないモブに話しかけたときの反応。モブも見た目はリアルに作りこまれているのだが、会話はできず“いまちょっと忙しいから”と断られる。


 この断られ方のバリエーションが異常なまでに豊富で、筆者は町ゆくモブキャラにひたすら話かけて断られるのを楽しんだ。


 モブとまともに会話できないなんて、当時ゲームなら当たり前ではあるのだが『シェンムー』の全編フルボイス+モブキャラの顔の作りこみが、滑稽さともの悲しさを加速させている。


 もちろん、筆者は『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』を“モブキャラに拒絶されるのが楽しいから買うべき!”と勧めたいわけではない。


 だが、筆者が断られることにおもしろさを見出したように、『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』は自分自身でおもしろさを見つけ出す、見つけ出さなければならないゲームだ。


 ゲーセンにこもって『スペースハリアー』に打ちこんでもいいし、日がな一日セガサターンで遊んでもいい。バイトに明け暮れて100万円貯めてもいい(使い道はほぼないが)、『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』には紛れもなく自由がある。


 ゲームそのもののおもしろさを犠牲にしてまでリアリティを追求するのは何故なのか? オープンワールドというジャンルを理解するのに、『シェンムー』ほどうってつけのタイトルはない。現実とは違うもうひとつの現実を作り出すというゲームの“夢”が、『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』にはわかりやすい形で詰まっている。


 個人的には最新のオープンワールド『レッド・デッド・リデンプション2』を遊んだ後に、ぜひ『シェンムー Ⅰ&Ⅱ』をプレイしてみてほしい。意外にも2作には多くの共通点がある。それは、両作がどちらも同じゲームの夢を追いかけているからではないだろうか。


 仮想現実の横須賀や香港で、寅さんのようにぶらぶらしてみていただきたい。


(脳間 寺院)