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『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/ スター誕生』の意外な共通点とレディー・ガガの歌唱力

2018年12月20日 16:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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■レディー・ガガがクイーンから受けた影響とは


 伝説のロックバンド、クイーンのボーカリストの生き様を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットを続けている。公開5週目週末も前週対比102%を記録。累計動員320万人を突破、累計興行収入約44億円を達成した。さらにゴールデン・グローブ賞(ドラマ部門)の作品賞、主演男優賞にノミネートされるなど、音楽映画の新たな名作として認知されつつある。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の魅力の中心はやはり、クイーンが遺した素晴らしい楽曲の数々だ。ハードロック、オペラ、ディスコなどを融合させ、独創的としか言いようがない音楽世界を作り上げたクイーン、そして、それまでの常識を覆すビジュアル、衣装、ステージングを取り入れ、希代のパフォーマーとなったフレディ・マーキュリー。その軌跡をリアルに追体験できる本作は、クイーンの新たなファンを掘り起こすことにもつながっている。


参考:レディー・ガガの華麗なる逆襲 『アリー/スター誕生』でオスカー&グラミーどちらも射程内に


 映画『ボヘミアン・ラプソディ』と並び、2018年を代表する音楽映画として注目されているのが、レディー・ガガ主演の『アリー/ スター誕生』だ。ブラッドリー・クーパー(『アメリカン・スナイパー』)が監督・主演をつとめた本作は、歌手を夢見ながら、自分に自信がなく諦めかけているアリー(レディー・ガガ)と有名ミュージシャンであるジャクソン(ブラッドリー・クーパー)の物語。全世界興行収入が400億円を超える驚異的ヒットを記録し、ゴールデン・グローブ賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、そして、メイン楽曲「シャロウ~『アリー/ スター誕生』愛のうた」が主題歌賞にノミネートされるなど、大きな注目を集めている。日本でも12月21日から公開されるが、大ヒットは間違いない。


 クイーンの代表曲「Radio Ga Ga」がアーティスト名の由来であることに象徴されるように、レディー・ガガは以前から、クイーンに多大な影響を受けたことを公言していた。セクシャリティを超越するような革新的なファッション性、既存のショービズのフォーマットに収まらないステージ、ジャンルの壁を打ち破る音楽性などが、その一例。そして何より、すべてのタブーを打ち破り、新たなスター像を作り上げたことこそが、ガガとクイーン(フレディ・マーキュリー)の共通点だろう。また、当初は“奇抜なイロモノ”として見られながら、作品とライブを重ねるなかで、本物の価値を持ったアーティストとして認知されたプロセスも似ているかもしれない。いずれにしても、クイーンをテーマにした映画『ボヘミアン・ラプソディ』とガガの女優デビュー作『アリー/スター誕生』が同じ年にヒットしたことは、両者の運命的なつながりを感じざるを得ない。


■サウンドトラックも魅力的


 『アリー/ スター誕生』のサウンドトラックも爆発的ヒットを続けている。2018年10月に発売されると、全米アルバム・チャート「Billboard 200」で3週連続1位を獲得。同チャートでサウンドトラックが3週連続1位となるのは、2007年9月に4週連続で1位となったTV映画『High School Musical 2』以来、じつに11年ぶり。さらに世界83カ国のiTunesで1位を獲得するなど、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』を上回るセールスを記録している。


 『アリー/ スター誕生』のサウンドトラックはもちろん、映画のストーリーと強くリンクしている。劇中でアメリカを代表するシンガーとして描かれるジャクソンの楽曲は、オーソドックスなブルースロックが中心。制作にはガガ、クーパーに加え、ウィリー・ネルソンの息子、ルーカス・ネルソンなどが参加し、“ロックスター・ジャクソン”にふさわしい楽曲を作り上げている。


 もっとも印象に残るのはやはり、アリー(ガガ)とジャクソン(クーパー)のデュエットによる「シャロウ~『アリー/ スター誕生』愛のうた」だ。ブルージーなアコースティックギターから始まり、ストリングス、ピアノを伴いながらドラマティックに展開していくバラードナンバー。特に〈I’m off the deep end,Watch as I dive in/I’ll never meet the ground〉というサビのフレーズにおける、ガガのダイナミックな歌唱は圧巻だ。10年代前半に先鋭的なダンスチューンと奇抜な衣装、ド派手なパフォーマンスでスターダムを駆け上がったガガが、“ベタな”ロックバラードを熱唱するこの曲は、『アリー/ スター誕生』のもっとも大きなポイントのひとつだろう。また、アリーとジャクソンが出会う場面で歌われる「La Vie En Rose」、アリーがスターへの階段を駆け上がるシーンで披露されるポップなエレクトロチューン「Hair Body Face」など、シンガーとしての彼女のポテンシャルの高さを改めて実感できるのも、本作の意義だ。


 全34曲のうち13曲の作詞・作曲に関わったガガにとって『アリー/ スター誕生』は、女優としての才能を証明すると同時に、アーティストとしての完全復活をアピールする作品と言えるだろう。映画、サントラの両方を鑑賞することで、『アリー/ スター誕生』の世界をさらに深く味わってほしい。(森朋之)