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年末企画:藤原奈緒の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 鮮烈かつ多幸感に溢れる傑作

2018年12月20日 12:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第3回の選者は、今年ドラマに関する記事を数多く執筆したライターの藤原奈緒。(編集部)


1.『女子的生活』(NHK)
2.『アンナチュラル』(TBS)
3.『あなたには帰る家がある』(TBS)
4.『昭和元禄落語心中』(NHK)
5.『おっさんずラブ』(テレビ朝日)
6.『半分、青い。』(NHK)
7.『中学聖日記』(TBS)
8.『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』(フジテレビ)
9.『anone』(日本テレビ)
10.『バイプレイヤーズ-もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら-』(テレビ東京)


 志尊淳主演『女子的生活』は全4話という短さで、生きづらい現代の世の中をさりげなく示しつつ、トランスジェンダーのヒロイン・みき(志尊)が同級生・後藤(町田啓太)と共同生活を送ることで起こるちょっとした変化を描いた、鮮烈かつ多幸感に溢れる傑作。町田の好演が光った。


参考:『女子的生活』が描いた“他者との距離”


 野木亜紀子脚本・塚原あゆ子演出、石原さとみ主演の『アンナチュラル』は1話完結型の法医学ミステリーでありながら、働く女性を取り巻く問題提起、社会問題を織り込みつつ、遺体1人1人、そして登場人物たちそれぞれの物語が、終盤にかけて少しずつ繋がっていく構造が見事だった。


 『あなたには帰る家がある』は、木村多江の怪演が特に強烈だったが、4人のオトナたちによる上質な心理劇、小道具のように散りばめられた映画の数々が印象的だった。「夫婦あるある」という共感要素を詰め込みながらも、不倫話から始まる、全くタイプが異なる2組の夫婦のあり方をとことんまで突き詰めた秀作。


 『昭和元禄落語心中』は、実に見事な山崎育三郎の落語、そして、若い頃から老いて死に至るまでを演じきった岡田将生の色気と凄み、引き継いだ竜星涼の愛嬌と、俳優たちに目が釘付けになる1本だった。6話で華々しく散った助六(山崎)とみよ吉(大政絢)、残される菊比古(岡田)の3人の場面も鮮烈だったが、生きながらえてしまった八雲(=菊比古)の、“死神”助六を前に、生きることの苦痛を語りながらも生に縋ってしまう人間の業は、巧妙にリンクし続けた落語の世界としっかりと交わっていた。


 『おっさんずラブ』は優しすぎる人たちの、性別も年齢も立場も越えた「好き」と、“自分にとって、あるいは相手にとって一番大切なこと”はなにかを考えることの大切さを描いた。そういう意味では、『中学聖日記』もまた、共通した部分があると言える。禁断の恋の結末うんぬんよりも、有村架純や吉田羊が、いかに型やルールに囚われず“自分にとって一番大切なこと”を掴み取ることができたかということが重要だった。


 『半分、青い。』は人生のあらゆる煌きと残酷さを凝縮した異色の朝ドラ。シーナ&ザ・ロケッツの「YOU MAY DREAM」と共に忘れられない名場面が多かった。『モンテ・クリスト伯-華麗なる復讐-』は、西谷弘の演出もさることながら、岸井ゆきの、山口紗弥加、高橋克典が強烈だった。


 坂元裕二脚本『anone』は、時に幽霊も加わって、ニセモノの家族たちが、身を寄せ合ってニセ札を作る、どことなく淋しく、優しい一本。風車が回る情景の美しさと、死の光景が心にいつまでも残る。


 『バイプレイヤーズ-もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら-』は、おじさんたちのわちゃわちゃした会話をひたすら楽しむためのドラマだったのだが、大杉漣が途中で亡くなってしまったことで全く違う様相を見せることになった。最終回、現実と、現実に限りなく近いフィクションだったはずのものが大きく乖離し、それをなんとか繋ぎ止めようとする作り手の思いを、視聴者が祈りながら見守るかのような、そんな時間を共有するドラマ体験は、皮肉にも、大杉が与えてくれた1つの優しい奇跡だったのかもしれない。


(藤原奈緒)