2018年12月19日 17:52 弁護士ドットコム
アスベスト(石綿)が原因で発症する「中皮腫」で2016年に亡くなった舞台俳優の男性(当時70=埼玉県=)について、池袋労働基準監督署が労災認定していたことが、12月19日わかった。認定は2018年7月。
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労災は、労働者が対象のため、一部を除き個人事業主扱いされる実演家の労災認定は珍しい。舞台俳優のアスベスト被害での労災認定は初とみられる。
遺族と「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」が厚労省記者クラブで会見を開き、明らかにした。
舞台俳優の男性は、劇団東京芸術座に所属(1974年3月~1980年1月)していた加藤大善さん。
労基署は、1974年3月~1978年12月にかけて、加藤さんが地方公演中、体育館や市民会館のアスベストが吹き付けられた天井裏で、照明の取り付けなどをしていたことから「間接的なばく露が認められる」と認定した。
同会によると、過去にも舞台設営などの舞台スタッフのアスベスト被害で労災が認められたことはあるそうだが、舞台俳優は初だという。
加藤さんは、労災保険に加入していなかったが、(1)キャスティングへの拒否権がなかったこと、(2)劇団内の演出家・舞台監督の指示に従っていたこと、などから労災の対象となる「労働者」と認められた。
労災認定にあたっては、当時を知る劇団員が証言するなど、劇団側の協力もあったという。
加藤さんの妻みはるさん(68)は、教員のアスベスト被曝などが問題視されていることから、「学校の体育館に行くことが多かった」として労災を申請した。「俳優は床に散ったアスベストを吸い込む可能性もある。舞台が原因だと考えたこともない人が気づくきっかけになれば」と話した。
長女のみさきさん(35)は「あれだけ元気だった父が、あっという間に衰弱して亡くなる現実を目の当たりにして、アスベストは恐ろしいと思いました」とコメントした。
「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の事務局員・澤田慎一郎さんは、「労災保険に加入していなかったという問い合わせを多く受けるが、当時の実態が判断の材料になる」と述べ、認定にあたり労災保険の加入は問われないことを強調した。
松島恵一副会長は、「氷山の一角。被害者の掘り起こし、救済に努めていきたい」と話した。
同会は12月20、21日にアスベスト被害について、全国一斉の電話相談も実施する。午前10時~午後7時まで。電話番号は0120-117-554。詳細は同会HP(https://www.chuuhishu-family.net/w/archives/2833)。
(弁護士ドットコムニュース)