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年末企画:杉本穂高の「2018年 年間ベストアニメTOP10」 脚本家・吉田玲子の年として記憶される

2018年12月19日 12:02  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2018年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに加え、今年輝いた俳優たちも紹介。アニメの場合は2018年に日本で劇場公開された映画、放送されたTVアニメの作品から、執筆者が独自の観点で10本をセレクト。第2回の選者は、神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人であり、現映画ライターの杉本穂高。(編集部)


参考:年末企画:杉本穂高の「2017年 年間ベストアニメTOP10」 他作品では見られない“光るモノ”


 アニメにせよ、映画にせよ、漫画にせよ、ゲームにせよ、年間ベスト10を選ぶ作業は年々難しくなっている。なぜなら、あらゆるコンテンツが増加しているので、もはや専門分野でも全ての作品に目を通している人間はほとんどおらず、それぞれの識者によって観測範囲も異なる。アニメーションについて言えば、深夜アニメは相変わらず膨大な本数が放送され、近年は劇場作品も増加傾向にある。そこに加えて今年はNetflix配信が加わった。正直に申し上げるが、筆者は今年公開・放送・配信されたアニメーション作品全てをチェックできてはいない。FGOのプレイ時間を削ればもっとチェックできたんじゃないか、という反省はあるが。


 それでも筆者の観測範囲でなんとか10本を厳選してみた。納得いただける方も、そうでない方もおられるだろうが、ご笑覧いただきたい。


1. 『リズと青い鳥』
2. 『若おかみは小学生!』
3. 『DEVILMAN crybaby』
4. 『生きのびるために』
5. 『さよならの朝に約束の花をかざろう』
6. 『宇宙よりも遠い場所』
7. 『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
8. 『ルパン三世 PART5』
9. 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
10. 『紅き大魚の伝説』


 選考基準は昨年と同じく、執筆時点で完結してない作品は除外した。なので現在放送中のアニメについては全て選考外としている。『SSSS.GRIDMAN』や『ゾンビランドサガ』あたりはベスト10に入れるポテンシャルはあると思うが、フィナーレがどうなるのかでまた評価も変わろう。『リズと青い鳥』については、シリーズの1本という見方もできるが、独立性が高い内容なので選考対象にした。


 2018年は、将来振り返れば吉田玲子の年として記憶されることになるだろう。1、2位に加えてTVシリーズの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、圏外となったが『劇場版のんのんびより ばけーしょん』や『ハクメイとミコチ』もあった。実写作品を含めても、野木亜紀子(『フェイクニュース』『獣になれない私たち』)と並んで今年最も輝いた脚本家ではないだろうか。来年も湯浅政明監督の新作映画の脚本を担当しているとのことで、今後もますます活躍が期待される。


以下、選考理由を1作品ごとにコメントする。


●『紅き大魚の伝説』
成長著しい中国アニメの実力を示した作品。日本アニメの模倣だけでは決してない、中国オリジナルの感性が映像に定着している。


●『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
TVアニメであんなに美しいものが観られるとは思わなかった。言葉が氾濫する現代に、シンプルな言葉の美しさを観る者に刻みつけた。


●『ルパン三世 PART5』
歴代TVシリーズでも最高傑作ではないか。デジタル時代の新しいルパンのあり方と、これまでのルパンらしさが高レベルで融合した傑作。不二子とルパンの関係の決着の付け方も最高。こういう大人のドラマがもっと観たい。


●『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
発展著しいアニメーション技術も、手法そのものに驚く機会は少なくなったが、これは久々に手法に唸った。原画枚数を減らさずにデッサン量を減らして、カットが連続することで初めて絵が浮かび上がる。映像でしか描けない絵のあり方だ。


●『宇宙よりも遠い場所』
昨年の『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』でも力を発揮した、いしづかあつこ監督の才能が花開いた記念すべき作品。京都アニメーションの山田尚子のようにマッドハウスの未来のエースになれる逸材だと思っている。吉田玲子に引けを取らない名脚本家、花田十輝の仕事も素晴らしかった。2人のコンビ作『ノーゲーム・ノーライフ』もぜひ観てほしい。


●『さよならの朝に約束の花をかざろう』
脚本家・岡田麿里の見事な監督デビュー作となった。主人公マキアが赤ん坊のエリアルを救い出すシーンが目に焼き付いて忘れられない。死んでも我が子を守る母の愛と、それゆえに死後硬直して母の手に囚われ身動きとれない赤ん坊。母の愛と呪いが同時に描かれていた。硬直した手を強引に引き剥がすのは、母の愛を知らずに育ったマキア。この人でなければ描写できない強烈なシーンだった。


●『生きのびるために』
Netflixはこういう作品を多くの人に届けるためにあると個人的には思っている。タリバン政権下、男の付き添いなしでは外出もできない女性たち、不当逮捕された父を救うために、男装して苦難の旅を乗り越える少女の物語。過酷な現実を生きるために少女は物語を思い出す。人はなぜ物語を必要とするのか、その答えがこの映画にある。


●『DEVILMAN crybaby』
Netflixはこの1本で日本のアニメファンに大きな存在感を示すことに成功した。現在のTVでこの企画は成立しないだろう。躊躇ない暴力描写はこの作品のテーマを描くために不可欠。湯浅政明監督は昨年から続く好調をキープしているようで何よりだ。来年の新作映画も楽しみ。


●『若おかみは小学生!』
この監督とこのスタッフなら傑作は当然、と終わってみれば思うのだが、鑑賞前にはここまですごい作品だとは予想していなかった。本作については詳しいレビュー(少女の通過儀礼から無我の境地までも描く 『若おかみは小学生!』がもたらす極上の映画体験)を書いたのでそちらを参照してほしい。


●『リズと青い鳥』
まるで即興芝居を観たような気分になった。アニメーションなので即興なはずはないので、狐につままれたような気になったが、たしかに即興芝居のように軽やかで変幻自在の芝居だった。山田尚子はアニメ界のロベール・ブレッソンだ。


 その他、惜しくも圏外になった作品を少し挙げておく。


 花田十輝の脚本力がすごい『シュタインズ・ゲート ゼロ』、バンクがかっこよく、ウテナを思い出した『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』、わからないことがあるって素晴らしい『ペンギン・ハイウェイ』、ドラァグクイーン×魔法少女という発想の勝利『スーパー・ドラァグ』、ひたすら勉強になる『はたらく細胞』、毎週爆笑してる、ずっと放送が続いてほしい『宇宙戦艦ティラミス』、上野に住みたくなる『三ツ星カラーズ』etc……。


 今年もたくさんの素晴らしい作品に出会えた。2019年も良い作品に巡り会えますように。(杉本穂高)