トロロッソ・ホンダの2018年は、2度の中団トップ快走(第2戦バーレーンGP、第12戦ハンガリーGP)というハイライトがあった反面、結果はコンストラクターズランキング9位という残念なものに終わった。
この結果がマシンパッケージの実力通りのものでないことは確かだが、マシンの速さを結果に結びつけられなかったのはチームとしての実力不足だ。
各グランプリでのマシンの実力、そしてレース結果がどうであったのかを改めて振り返ってみたい。主に予選での速さで『実力』を、そして決勝で入賞できたのか惨敗かで『結果』を、それぞれ〇△×の3段階評価する。
『実力』の項目は予選Q3が〇、予選Q2が△、予選Q1が×として、不運やミスなどの例外も加味した。『結果』の項目は、入賞相当が〇、惜敗が△、惨敗が×で、中団トップのバーレーンとハンガリーだけは◎とした。
■第1戦オーストラリアGP:実力× 結果×
予選ドライビングミスでピエール・ガスリーとブレンドン・ハートレーのふたりがQ2を逃す。決勝はガスリーのMGU-H(熱エネルギー回生システム)トラブルとハートレーのフラットスポットで入賞できず。
■第2戦バーレーンGP:実力〇 結果◎
予選・決勝ともにガスリーが中団トップの快走し4位。
■第3戦中国GP:実力× 結果×
風向き変化に弱いマシン特性が露呈、決勝はスワップ失敗で同士討ちも。
■第4戦アゼルバイジャンGP:実力△ 結果△
予選でチームメイト同士が交錯してQ1敗退、決勝は混乱に乗じてハートレーが入賞するがエネルギーマネージメントのセッティング不足が露呈。
■第5戦スペインGP:実力〇 結果×
ハートレーはFP3大クラッシュで最後尾、ガスリーは「レコノサンスで最高の仕上がり」も決勝1周目クラッシュ。
■第6戦モナコGP:実力〇 結果〇
ガスリーはQ3進出、決勝はタイヤマネージメントが良好で中団トップのエステバン・オコンを追い詰め7位。
■第7戦カナダGP:実力△ 結果△
パワーユニット(PU)スペック2投入で好走もガスリーはFP3にトラブルが発生し最後列。ハートレーは決勝1周目リタイア。
■第8戦フランスGP:実力× 結果×
セットアップ妥協点が見いだせず苦戦、決勝はガスリーが1周目リタイア、ハートレー14位。
■第9戦オーストリアGP:実力× 結果△
新型空力パーツ不発、ガスリーは接触でダメージを負ってタイヤがタレてしまい11位、ハートレーはリヤサスペンションのトラブルでリタイア。
■第10戦イギリスGP:実力△ 結果△
FP3でハートレーがフロントサスペンションのトラブルで大クラッシュ。「ストレートで0.9秒失った」というガスリーは、10位でフィニッシュもセルジオ・ペレスと接触でペナルティが科され13位に。
■ダブル入賞が一度もなかったトロロッソ・ホンダ
■第11戦ドイツGP:実力× 結果〇
ストレート速度とダウンフォースのバランスが取れず苦戦、決勝は降雨時のギャンブル成功でハートレーが10位。
■第12戦ハンガリーGP:実力〇 結果◎
ガスリー、雨の予選・ドライの決勝ともに好走を見せ中団トップを快走し6位。
■第13戦ベルギーGP:実力△ 結果〇
PUスペック2のままながら高速サーキットで快走。ガスリーは予選Q3進出目前までいき、決勝も中団勢と互角の走りで9位フィニッシュ。
■第14戦イタリアGP:実力〇 結果×
ガスリーが予選Q3進出も、決勝ではフェルナンド・アロンソにコーナー外に追い出され縁石でフロア破損し14位。ハートレーはスタート直後に接触でリタイア。
■第15戦シンガポールGP:実力× 結果×
トロロッソ・ホンダにとって自信ありのサーキットだったが、タイヤが上手く使えず完全なる不発に終わる。
■第16戦ロシアGP:実力△ 結果×
PUスペック3投入も予選・決勝で使えず、ガスリー、ハートレーともペナルティのため予選は本格的に走らず。決勝は両ドライバーともブレーキトラブルでリタイア。
■第17戦日本GP:実力〇 結果△
PUスペック3でハートレーが予選6位、ガスリーは予選7位の快走。しかしセッティングを予選に振りすぎたため、決勝はタイヤに苦しんでノーポイント。
■第18戦アメリカGP:実力〇 結果×
両ドライバーはQ3進出の実力ありながらも、日本GPでのパワーユニットへのダメージにより新PUが投入されペナルティ。ハートレーの決勝は、10位から30秒後れの11位フィニッシュ。しかし、ライバルの2台が失格となったことで繰り上がり9位入賞。
■第19戦メキシコGP:実力〇 結果〇
高地というメキシコの特殊な環境下で万全を期すためPUスペック2を使用。苦戦が予想されたため、ガスリーはスペック3を次戦以降に搭載するためペナルティを受けパワーユニットをストック。しかしその予想に反し、ガスリーはグリッド後方から快走し10位入賞。新空力パーツも効果を発揮していた。ハートレーは予選ミスと接触ペナルティでチャンス逃す。
■第20戦ブラジルGP:実力△ 結果×
ストレート速度とダウンフォースのバランスを見いだせず苦戦も、予選では雨に乗じてガスリーがQ3進出、しかし決勝ではトップ10から大きく後れを取る。
■第21戦アブダビGP:実力× 結果×
3日間ともPUスペック3で戦うがガスリーは予選・決勝ともにPUトラブル、ハートレーも入賞圏に遠く届かず。
データをまとめると全21戦で『実力』は〇が8回、しかし『結果』の〇は6回のみ。実力・結果ともに〇というレースはバーレーンとハンガリー以外に2回のみ(モナコ、メキシコ)で、実力がありながらも結果に結びつけられなかったレースが4回もあった(スペイン、イタリア、日本、アメリカ)。
逆に『実力』×が7回なのに対して『結果』×は10回と、実力を結果に結びつけられていないレースが多かったことが改めてはっきりとする。
そしてダブル入賞が一度もなかったことも2018年のトロロッソ・ホンダの特徴のひとつだ。マシンパッケージの実力にかかわらず、チームのレース運営にミスがあったり、ドライバーにミスがあったりと安定感を欠いた。そういう意味では、チームとして全くのノーミスのレース週末は一度たりともなかったということになる。
加えて、『実力・結果』ともに×という箸にも棒にもかからないレースが5回(オーストラリア、中国、フランス、シンガポール、アブダビ)。フランスGPやドイツGPではガスリーが「コーナーでは速いのにストレートで大きく失っている」と不満をぶちまけるなどセットアップ面でダウンフォース量と最高速の最適なバランスを見いだすのに苦労したレースが多かったが、ストレート主体のカナダやベルギー、イタリアでは充分な実力を発揮していることから、パワー不足だけに原因があったわけではないことは明らかだ。
セットアップの最適な妥協点を見出す作業には、終盤戦まで苦労していた。レース週末を迎えるまでのシミュレーションと、金曜走行後のデータ分析によるセットアップ修正という点で、トロロッソの手腕はライバルチームに劣っていたと言わざるを得ない。
■2018年はテクニカルディレクターのジェームス・キー離脱が痛手に
2018年のトロロッソ・ホンダは、シンガポールなど得意と思っていたサーキットで振るわず、スパやモンツァ、メキシコなど予想外のところで速いということも多々あった。
これはコーナリング中の風向き変化に弱いトロロッソ・ホンダSTR13の空力特性にも原因があった。左右に切り返すようなコーナーではその途中でダウンフォース発生量が過敏に変化してしまい、ドライバーが攻めて走ることができない。しかし鈴鹿のS字で快走を見せたように、車体の前傾姿勢を含めたメカニカルセットアップを見直すことでその問題は解決をみた。
パワーユニットはカナダGP、ロシアGPでアップデートが投入され、開幕戦で使用したスペック1も含めていずれも投入初期は細かなトラブルがいくつか発生している。そのしわ寄せが終盤戦のペナルティとなって表われ、実力を結果に結びつけられない要因になった。
最終的に2台とも年間8基を使用したが、致命的なトラブルはICEが2回(日本、アブダビ)、MGU-Hが2回(オーストラリア、カナダ)。それ以外はクラッシュやストック作りのための新品投入で、昨年までのようにトラブルが多発したわけではない。
スペック3は2019年シーズンに向けた実戦テストであったため耐久性は充分ではなかったが、それを除けば2018年のホンダ製パワーユニットに発生した大きなトラブルは2度のMGU-Hトラブルだけだった。パワーでもルノーに追い付くところまで来たが、実質的な信頼性の向上は大きな前進だったと言える。
車体面ではシーズン序盤戦から空力開発のペースがやや遅れがちで、第9戦オーストリアGPにようやく持ち込まれたフロントウイングなどの空力アップデートは期待通りの効果を示さなかった。そのためこれに続いて予定していた開発計画を全て見直すこととなり、それと前後してテクニカルディレクターのジェームス・キーが離脱したこともあって、シーズン中盤戦のSTR13の開発は停滞してしまった。
それでも風洞およびCFD(コンピューター流体解析システム)と実走のコラレーション(相関)を取り直し、アメリカGPとメキシコGPに投入した新型空力パーツは想定通りの効果を発揮。チームとしての開発方向性を取り戻すことができたのは好材料だ。
結果だけを見れば、極めて厳しいシーズンだった。
しかし内容に目を向ければトロロッソ・ホンダの2018年は決して悪くはない。マシンの実力を結果に結びつけられなかった理由、自分たちのチームとしての充分でなかったところを見つめ直すことで、トロロッソ・ホンダはさらに強くなれるポテンシャルが見えた。
ホンダとしても、しっかりとそれをやることによってレッドブル・ホンダとして戦う2019年へと繋がる。それはレッドブルからの技術供与を受けるトロロッソにとっても大きな資産になる。
トロロッソ・ホンダとして戦った2018年は、新たな時代への土台固めだ。結果には繋がらなくとも、それは果たされた。あとは2019年に高く羽ばたくだけだ。