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岡田将生が竜星涼と成海璃子に繋いだバトン 『昭和元禄落語心中』が描いた強い絆と芸の力

2018年12月15日 06:02  リアルサウンド

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 八代目有楽亭八雲(岡田将生)の一生を10話かけて描き切ったNHKドラマ10『昭和元禄落語心中』。ひと言でいうのならば八雲は幸せな生涯を送ることができ、笑ってその寿命を全うした。“落語と心中する”と決めていた八雲の最後は、与太郎(竜星涼)や小夏(成海璃子)といった大切な者たちに自分のバトンを受け渡すという形になった。


【写真】最後に向き合った八雲(岡田将生)と助六(山崎育三郎)


 小夏は助六(山崎育三郎)とみよ吉(大政絢)の死の真相を探っていた。そんな中、助六と菊比古が二人会を開いたときの映像が見つかり、与太郎らとともに見ることに。そこには彼女たちが知らない、楽しそうに落語をやる若い頃の八雲の姿が映されていた。


 小夏は助六の「芝浜」を見て、自分がパニックに陥り、結果的に両親を殺してしまったことを思い出す。そして同時に自分の罪を八雲が何十年も背負い続けてくれたことにも気がついた。これまで隠し続けてきたことをようやく全て打ち明けることができ、八雲と小夏は、本当の家族としての絆を手に入れた。小夏は八雲に弟子入りを志願し、女性落語家としての道を歩み始める。


 かつて落語のために孤独を選んだ八雲だったが、気がつけば、与太郎、小夏、松田(篠井英介)、信之助と多くの家族がそこにはいた。縁側で小夏と信之助と笑い合いながら、ラジオから流れる与太郎の「のざらし」を聞いていた八雲は自分でも気づかぬ間に冥土へとたどり着いていた。


 冥土には助六とみよ吉の姿があった。助六の「おめえは落語を信じて人を愛した。おかげで俺も成仏できる」という言葉に八雲は涙する。このセリフに八雲がかつて助六とした約束が思い返される。


 その約束とは「ふたりで落語の生き残る道を作る」というもの。助六と果たせなかったこの約束を与太郎と再び交わしたのが本作の第1話だった。そこから50年以上が経ち、与太郎は九代目八雲を襲名、小夏は女性真打として実力をつけた。さらに孫の信之助も二ツ目の落語家として修行中だ。


 孤独を選んだはずだった八雲だが、自分の芸をしっかりと次の世代へと継承することとなったのは、家族という自分の居場所を見つけられたから。家族がいることで苦しんだこともあったが、最終的には、与太郎たちのおかげで八雲は笑いながら最期を迎えられた。かつて八雲ひとりによって支えられていた落語界は、とても危ういものだった。与太郎の言った「たった一人で滅ぼせるなら、たった一人でも繋いでいける」というセリフはポジティブな与太郎らしい考え方だ。


 九代目八雲の襲名披露で「死神」をかける与太郎とそれを見届ける八雲、助六、みよ吉の3人のカットで本作は幕を閉じた。八雲と助六が先代から落語を教わり、与太郎たちに受け継いだように、時代が変わろうが芸はしぶとく、先人の生き様として繋がっていく。ラストの「死神だよぉ」という与太郎のセリフとリンクする八雲の口元にはそんな途切れることのない強い絆と芸の力が表れていた。


(馬場翔大)