2018年12月14日 17:02 リアルサウンド
■存在しているがしていないVTuber楽曲の唯一無二性
バーチャルYouTuber略してVTuberに歌わせるというのは今どき誰でも思いつきそうなことではある。アニメキャラだってキャラソンをせっせとリリースするようになって久しいわけだから、当然だ。
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しかしVTuberの場合、3Dモデルがぐりぐり踊ってみたりするということができてしまう。というか、それ込みで楽曲がリリースされていると言える。
要するに、VTuberの楽曲は、曲そのもの=曲単体で成立していない。曲が、キャラクターと強固に結びついている。キャラの歌う姿が、曲とセットになっている。
もちろんアニソンやキャラソンだって、原典となる物語やキャラクターを思い浮かべながら聴くことはできる。そこには強い結びつきがあると言ってもいい。ライブ会場などで生身の人間にキャラソンを歌わせることもできる。いわゆる「2.5次元」的な表現というのは、そういう類のものだ。
だが、VTuber楽曲は、やっぱりそれらとは違う。ついでに言えば10年ほど前に勃興した初音ミクを初めとするボカロ系楽曲が、動画+曲+キャラクターという三位一体で成り立っていたのとも、ちょっと違うだろう。
なぜならVTuberがその曲を歌う映像は、フィクションではなく、たしかに「現実として存在している」ということになる。しかしそれを歌っている場所は「現実ではない」のだ。この奇妙なねじれが、VTuber楽曲を唯一無二のものにしている。
そんなわけで、今どき、MVとセットでバズる曲なんてのは山ほどあるが、日本でいまどこまでも広がっていきそうな可能性を期待させる例といえば、VTuber楽曲につきるだろう、と僕などは思う。
■オルタナ/ヒップホップを意識した「Dirty Party feat. エビーバー」
さて、そんな中でリリースされたのが輝夜 月の「Dirty Party feat. エビーバー」。上記のような「VTuber楽曲とは何か」という文脈にきっちり則った、というかそこを強調してすらいる、これは踏み込んできたなと思わせる曲なのだ。
具体的に言おう。たとえばこの曲は有り体に言えばラップだ。ギターが強くフィーチャーされていて、Beastie Boysみたいなオルタナティブ/ヒップホップを意識したとも言えるだろう。歌詞に歌われるのも、ヒップホップもしくはパンクイズムを意識した、現実に対する仮想空間からの突き上げだ。
しかしこれはむしろ、ヒップホップとかパンクというジャンルの選択から重視すべきだろう。つまり、これは第一にストリート感を意識してる、ってことが重要だ。
しかし、そこで引っかかる。VTuberにとってのストリートって、何だろう? つまりこういうことなのだ。”輝夜 月が歌っている仮想空間はたしかに存在している。しかし「そこ」は現実世界という表舞台には存在しない。「そこ」をこそ輝夜 月は新たなストリートとして再解釈して、破天荒きわまるボーカルスタイルで熱唱してくれるのだ。
■VR空間でのライブも実現させたVTuberとしての整合性
こういう話をすると、要するにそれは「現実 VS.バーチャル」みたいなわかりやすい構図を用意して暴れてみせてるだけじゃんと思う人もいるかもしれないが、そうとも言い切れない。なぜならこのラップの歌詞は、タイトルからもわかるように、全体としてはパーティーラップになってる。つまり輝夜 月が扇動してフロアを揺らそうとしているということだ。
では、VTuberにとってのフロアって、何だろう。そこもまた、やっぱり存在しないけど存在するハコとして、輝夜 月は盛り上げているのだ。彼女は先日、本当に観客も招いてのVR空間でのライブも実現させている。つまり彼女がこの曲を歌う場所は、やっぱりある(だけど、ない)と思わされる仕組みになっている。そういう活動全体のシンクロ具合も、ばっちり感じられるわけだ。
こうやって、ストリートとかフロアみたいなものを意識させるような曲をあえて展開するあたりが、「こいつ、わかっててやっとんな~」と思わせるわけだ。それが、ないけどある場所だっていう事実へと、聴く者を立ち返らせるような曲を、わざと作って、その虚空へ向かって叫んでいる。
さらに、前述したBeastie Boysや、パンクカルチャーからはSEX PISTOLS、Hi-STANDARDが、かつて音楽とストリートファッションをリンクさせてユースカルチャーを形成したように、輝夜 月はバーチャルなストリートから、音楽とファッションのリンクを感じ、オフィシャルアパレル「Beyond The Moon」を展開するなど、新たなユースカルチャーまでも創造している。
今後ますます、VTuberが歌う曲は増えていくだろうが、こういう「うまい落としどころ」みたいなものを見出した曲が先行して生まれてしまうと、このシーンは加速度的に面白くなりつづけていくんじゃないかなと思える。期待したい。(さやわか)