2018年12月14日 08:42 リアルサウンド
12月1日、福岡市の九州産業大学にて『CEDEC+KYUSHU 2018』が開催された。本稿では、基調講演「『ドラゴンクエスト』32年の歩み」の模様の一部をお伝えする。
(参考:任天堂・宮本茂「あくまでソフトウェアに対する課金を」 開発者に向けてゲームの過去と未来を語る)
『ドラゴンクエスト』32年の歩み
登壇者は『ドラゴンクエスト』(以下、DQ)シリーズ生みの親であるゲームデザイナーの堀井雄二と、福岡市に本拠を置くゲーム会社レベルファイブ代表取締役社長/CEOの日野晃博である。
モデレーターを務めた日野にとって堀井は「僕の人生を変えてくれた人であり、恩師というか道を示してくれた人」。日野がゲーム業界に入るキッカケとなったのは『DQIII』で、「レベルファイブ」では『DQVIII』と『DQIX』を開発したことでも知られる。
講演は『ドラゴンクエスト』の歴史とともに、制作秘話、新しい作品の秘密を語るという進行になった。
『DQI』が世間に響いた理由は「自分に対するリアクション」
「『DQI』が世間に響いた理由とは?」。先に『DQXI』までのシリーズを振り返った後、まず日野からあった質問である。堀井は「ロールプレイングゲーム(以下、RPG)自体は面白いと思っていたところ、『ファミコン』が出てきたので作ってみようと。分かりやすくすれば、ヒットするという感触はあった」と述懐した。
堀井は続けて「レベルアップするのが楽しいというのもあるが、最初に名前を入れたら王様が『自分の名前を呼んでくれた!』となること自体が当時としては画期的だった。ゲームをしている人は自分に対するリアクションがほしい。友達や兄弟と遊んだ思い出とか、周りの環境も含めて」と、ヒットした理由を分析した。
「わからせるんじゃなくて、わかった気にさせる」
ゲームについて「楽しいのは当たり前」と語る堀井。ユーザーに対して「何をしたらいいのか分からないというのをなるべくなくそう」という配慮から、「『この時にはこうすればいいんだ』という安心感を与えてあげる。『これであってるの?』という手探り状態から『これが正しい』」と安心して遊べるゲームデザインを心がけた。
それから「初めから詳しいことは説明しない」というポイントを挙げた。「全部わかってもらおうとする長いチュートリアルのゲームもあるけど、要点を4つぐらいに絞ってとりあえず遊べるというところから、あとは自分で遊んでわかってくる感じ」を大切にしている。
「よく言っているのは、ユーザーにわからせるんじゃなくて、わかった気にさせることが大事。ここから先は自分の力だけでいい。レールは敷くけど、安心して脱線できる。何にもレールがないと不安だけど、レールがあった上で安心して脱線できるというのは楽しいかな」(堀井)
歴代のナンバリング作品を振り返っている際の一幕。『DQIX』が「“まさゆきの地図”でユーザーまで有名にしちゃうなんてね」(堀井)。
『ドラゴンクエスト』の課題は海外展開
堀井は『ドラゴンクエスト』について改めて「日本ではかなり有名だけど、海外だとイマ1つ。海外にそれほど展開してなかったのもあるけど、言葉の壁もあった」と話した。「テキストの面白さを再現するために翻訳が遅れて、海外で同時発売できなかった」という背景もあったとか。
それでも堀井は「面白さは世界共通だと思う」と、ユーザーの掘り起こしに期待している。日本においてマンガ誌の「週刊少年ジャンプ」でゲームを紹介したのも、「ライトユーザーを見つけたかった」からだった。「海外にはライトユーザーが少ない。ゲームを遊ぶ側に才能を要求される」といった事情を変える必要がある。
「私には合わないって思っている人が潜在的にいると思うけど、『DQなら遊べる、楽しい!』って思える人がいっぱいいると思う。そのあたりに向けてうまく展開できたら」(堀井)
クリエイターに必要なものは「柔軟性」
日野の質問は、徐々にゲーム開発に関するものへ移行した。堀井はクリエイターが優秀であるかどうかの評価に関して、「みんな発想は色々と面白いことを思いつくと思うけど、形にするのが結構大変。忍耐力も大事」とした。また開発中に「色んな問題が起きてくると思うけど、はじめのアイデアに固執しないで、大体似たようなのが実現できたらいいんじゃない?と思えること」と柔軟性について補足した。
「僕自身は柔軟性があるんで、誰とでもやってけると思う。できないって言われても、『こうすればいいんじゃない?』ってバシバシ言えるんで。怒りはしない。(堀井)
堀井の原画と鳥山のイラストを比較する一幕。あまり詳しく描くと鳥山のインスピレーションを妨げてしまうという。『DQIII』は「妙にバニーだけ一生懸命描いてしまった」と会場を盛り上げた(堀井)。
シナリオは「ただの段取りではない」
「イチビリというか、人が一生懸命にやっているのをイタズラしちゃう」。堀井は『DQ』でシナリオを活かすテクニックを、そのように明かした。どう反映されているのかというと「一生懸命ボスを倒しに行こうとしているのに、イタズラが起こる。魔王を倒すという大きなストーリーがあるけど、途中でどんなストーリーがあれば面白いか、この町にいけばどういうことが起きてどう驚くか意表を突く」というプロセスだ。「魔王を倒すのはわかっているから、どういうイベントを起こそうか」と考えた結果になる。
また堀井は「登場人物を考えて、どういうエピソードだとキャラクターが立つか」にも言及。ナンバリング最新作の『DQXI』では「喜んで城に行ったら捕まっちゃった。捕まったら囚われている仲間がいた。『このあとどうなるのかな?』と思わせるように、主人公に感情移入させる」という例になった。
「例えば『転校生がやってくる』だと、ただ来るだけなら誰でもわかる。そこで『強い奴が来ると聞いてたのに、ヒョロヒョロの痩せた奴が来た』というギャップを作る。『どういうこと?』と思わせる事情がある。ただの段取りじゃなくて、どうなれば面白いのかを考える」(堀井)
「ユーザー視点で見られるというのが大事」 堀井雄二のメッセージ
堀井は最後に「作る側の視点になるとユーザーの視点がわからなくなる人が多いと思う。自分の作ったものをユーザー視点で見られるというのが大事」と、ゲームデザインの質問で触れた内容に念を押し、「手取り足取り教えてユーザーの不安を取り除いて、しかも教えすぎないように良い感じで手を離れるような楽しいゲームを作ってほしい」と講演を終えた。
このほか日野からの「ドラクエXの次のオンラインはあり得ますか?」「ドラクエでないものを作る予定は?」「XII」という、堀井が答えにくいキワドい質問に会場が沸いていた。
なお12月20日にはナンバリング作品ではないが、『ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』が発売される予定だ。これを遊びながら次なる展開を楽しみに待ちたい。
(真狩祐志)