F1最終戦アブダビGPが終了した2日後から同地で始まったピレリタイヤの合同テスト。このテストにホンダももちろん、トロロッソにパワーユニットを供給する形で参加した。
しかし、そこにホンダF1活動の現場責任者である田辺豊治F1テクニカルディレクターの姿はなかった。同じようにレッドブルのテクニカルディレクターを務めるピエール・ワシェもテストには参加せずに、アブダビGP終了後に、「大切なミーティングがある」と言ってイギリスに帰っている。
アブダビでテストが行われているころ、田辺TDら数人のホンダスタッフはイギリス・ミルトンキーンズにあるレッドブルのファクトリーを訪れ、ワシェらレッドブル・スタッフと、2019年からスタートするレッドブル・ホンダに向けたミーティングを行っていた。
田辺TDはアブダビGPのレース終了直後にこう語っていた。
「来年のPU(パワーユニット/エンジン)搭載に向けて、すでにレッドブル側とインストレーションミーティングを始めています」
このミーティングは夏休み前からスタートしていたと聞く。つまり、すでに複数回は行われている。その過程で、ホンダとレッドブルの関係は少しずつ理解が深まってきていると田辺TDは語る。
「『こうできたらいいなあと』という段階から、現在では『こうしたいなあ。なぜならばこうだから』という段階に入っています。ただし、『こうしなければならない』という関係でもない。むしろ、『PU側はどうしたいかをきちんと言ってほしい』と言われています。『このスペースに収めてほしい』とか、『これで(PUを)作ってほしい』という無理強いは一切、言われていません」
ただし、2018年シーズンまでレッドブルにパワーユニットを供給していたルノーのレミ・タフィンは、「レッドブルは来年苦労するだろう」と語る。
「なぜなら、ホンダはわれわれのPUとはまったく異なるレイアウトでデザインしているからだ」
タフィンが言うように、ホンダはルノーと異なり、コンプレッサーがエンジンの前方にレイアウトされている。ホンダもこのレイアウト変更を行った2017年は、信頼面でさまざまな障害にぶち当たった。
だが、アブダビGPでワシェはその件は、心配していなかった。ただし、ホンダに対して、ひとつだけ要求を出していた。
■信頼性だけでなく、高いパワーを発揮するパワーユニットを求めるレッドブル
「ホンダが行うPUの設計に関して、われわれは一切、口を挟むつもりはない。またアブダビGPでは信頼性に関して、問題を変えてしまったが、それについてもわれわれは心配はしていない」
「われわれがホンダに期待しているのは、ただひとつ。それはパワーだ。できるだけ高いパワーを発揮するPUを供給してほしい。パワーがなければ、信頼性があっても意味はない」
ホンダPUスペック3の投入によって、ホンダはルノーを上回る性能に達したという人もいる。終盤戦でルノーPUを搭載したレッドブルがメルセデス、フェラーリと互角の戦いを演じていたことを考えると、2019年のレッドブル・ホンダへの期待は高まるばかりだ。しかし、レッドブルとのミーティングを重ねている田辺TDは、緊張感を保っている。
「周りが期待しているほど、簡単ではありません。むしろ全部、不安です。信頼性に関しては、改善されたとはいえ、まだ十分ではありません。大きな取りこぼしだけでなく、小さな取りこぼしも全部クリアしていかないといけない」
「性能に関してもトップとはまだ差がある。敵も止まってはいないので、全然、楽観視はできません。またレッドブルの車体作りは素晴らしいですが、2019年は空力のレギュレーションが一部変更されるので、安心はできません」
「レギュレーション変更はチャンスであり、失敗するリスクもあります。だから、皆さんが思っているように『レッドブルと組めば楽勝でしょ』とは全然考えていません」
世界一を目指すためには、世界一のエンジンを目指して、開発を行わなければならない。レッドブルと組むということは、そういうことなのである。その覚悟が現場のスタッフだけでなく、研究所で仕事するスタッフ全員が共有しなければ、メルセデスやフェラーリと戦うことはできないだろう。