2018年12月13日 20:22 弁護士ドットコム
「性的指向による差別の禁止」を表明するオリンピック。日本でも、2020年に東京オリンピック・パラリンピックを開催するにあたり、性的指向や性自認による差別の根絶を目指す法制度への期待が高まる中、院内集会「レインボー国会」が12月13日、東京・永田町の衆院議第一議員会館で開かれた。集会には、超党派で構成するLGBT議連の国会議員と当事者、支援者らが多数参加したほか、他国の政策や各企業の取り組みなどが紹介された。
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国会では、立憲民主党など野党6党派が12月5日、行政機関や企業が性的指向や性自認によって差別的な取り扱いをすることを禁止する議員立法「LGBT差別解消法案」を衆院に提出。自民党内でも特命委員会が開かれ、来年の議員立法での提出を目指している。
会場の参加者からは、1日も早い法制度化を望む声が出た一方、国会議員に対し「与党案と野党案を一本化してほしい」という要望もあった。これに対し、LGBT議連会長の馳浩衆院議員(自民)は、「政治的な対立をあおるような問題ではない。早く成立できるように努力したい」と話した。
集会では、性的指向や性自認による差別の現状が識者や当事者から報告された。細野豪志衆院議員(無所属)も、「日本人が海外で外国人と同性婚をしても、パートナーを日本に連れてくることはできません。しかし、同性婚した外国人カップルの場合は、人道的観点から『特定活動』として認められ、日本でも家族として入国・在留ができます。つまり、外国人に対してはどうぞどうぞと外面がいいのに、日本人には何ら処置をしていない。極めて問題だと思います」と指摘した。
日本人と外国人の同性カップルの在留資格については、現在、日本人の男性と長年連れ添った台湾人の男性が2017年3月、国外退去を命じられたのを機に、性的指向にもとづく差別だとして違憲訴訟を東京地裁で起こすなど、大きな問題となりつつある。
また、国際的な法政策の動向について講演をした金沢大学の谷口洋幸准教授は、日本が国連LGBTコア・グループのメンバー国として重要な地位にあり、東京オリンピック・パラリンピックが開催されることにも触れ、「日本はアジアの中から代表として出ています。しかし、国内について、なかなか法政策が進まないというのは、少し問題があるかと思う」と指摘。国際社会における立場の重要性とその役割をあらためて明らかにした。
また、先進的な事例として、オランダ大使館の広報政治文化部のトン・ファン・ゼイランド副部長がオランダでの取り組みを紹介した。オランダでは2000年、世界で初めて同性婚が承認された。ファン・ゼイランド部長は、「法律自体があっても、実際に盗みがなくならないように、差別やハラスメントが全てなくなるというわけではありません。そうすると、どう法律を運用するかという問題になります。オランダでは、オンブズマンという制度があり、もしも国が違反した場合であっても、きちんと調査して制裁が行われるシステムになっている」と説明した。
同性婚がいち早く制度化されたオランダだが、「チューリップはいつも通り咲いていますし、オランダが変わることはありませんでした」とファン・ゼイランド副部長。「でも、人々は幸せになり、国としてまとまりがよくなったと思います。オランダは幸福度調査で高い指標を獲得しています。安心感をあげていくことが、幸福度をあげていくことにつなっています」
国内では、JR東日本の取り組みが紹介された。JR東日本の人事部業務革新・ダイバーシティ推進グループの尾上さやか部長は、2017年から社内で人権セミナーを行ったり、相談窓口を設置するなど、性的マイノリティへの理解と差別撤廃を進めてきたと説明。その上で、2018年4月にトランスジェンダーの社員が入社したことをきっかけに、人事制度や福利厚生の制度を見直したという。
「その社員には、女性のパートナーとお子さんがいました。人事制度や福利厚生の制度については、事実婚でも適応していましたが、戸籍上同性のパートナーにも拡大しようと進めています」という。しかし一方で、現場では問題も生じている。
「社員とパートナーの続柄の証明のいち手段として、自治体が実施している同性パートナーシップの証明書がありますが、あまり進んでいません。そこで、当社独自に承認の署名がある『宣誓書』を作成して、提出できるようにしています」
JR東日本の社員数は5万人を超える。「まだまだ、カミングアウトしている社員は少ないです。ただ、地道な取り組みをしているということで、職場で話をしてくれる社員は増えています。当事者のネットワークづくりも、社員からもやりたいとという声が上がっているので、取り組んでいきたいです」
集会では、当事者の声も多く上がった。トランスジェンダーという人は、「トイレもどちらに入っていいのかわからないので、外出時は飲み物をがまんして、できるだけトイレに行かないようにします。健康診断も数年間、受けていません。履歴書の性別欄で、男女どちらにつけていいかわからない。結局、つけずに提出しますが、男女で決まった制服がないような職場を選ぶなど、選択の幅が限られてしまいます」と苦しい状況を訴えた。
「自分が社会のルールにあてはまらないので、引きこもりになったり、鬱になったりすることがありました。どうして生まれてきたのか、親を恨んだこともあります。でも、自分の生きづらさを、誰かのせいにしても何も変わらない。当事者が声をあげて、なんとか法制度を変えられるように立ち上がりたい。特に次の社会をになっていく若い人たちが同じ思いを抱えないように、差別禁止の法制度をふくめて、より良い社会をつくっていければ」
集会では、2019年2月から3月にかけ、当事者である同性カップルが原告となって提訴を予定している同性婚をめぐる違憲訴訟についても話題となった。福島瑞穂参院議員(社民)は、「全力で応援していきたいと思っています。自治体も独自に条例をつくっていますが、同性婚法や差別撤廃法など、国政こそやらなければならないことはたくさんある。超党派でがんばっていきたい」と語った。
(弁護士ドットコムニュース)