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『まんぷく』岡崎体育が見事なハマり役! 一筋縄ではいかない存在感が今後も重宝される?

2018年12月13日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 12月3日から12月8日、岡崎体育とMONKEY MAJIKのプラント兄弟が出演する週の『まんぷく』(NHK)が終わった。朝7時半のNHK BSプレミアムと8時からのNHK総合の2回視聴しているこの番組、昼の再放送も足して1日3回視聴体制になった私の1週間が終わった、ということだ。「ことだ」じゃねえよバカ。と自分でも思うが、このキャスティングが発表になった時の邦楽ロックファンのザワザワ感、相当なものだったし、放送中も同じくだった。僕も最初に知った時は驚いたし、放送を観て岡崎体育とプラント兄弟、双方の違和感のなさにさらに驚いた。そして、そもそもなんでこのキャスティング? ということを、改めて考えたくなった。『ごちそうさん』のTKO木本のように、自らオーディションを受けに行った(とテレビで話していた)とは、どちらも考えられないし。


 まず、MONKEY MAJIKプラント兄弟の方は、まだ推測が立てやすい。


 白人であり、進駐軍にいて違和感のない年格好であること。日本語堪能だがネイティブではなく、英語圏の人が後天的に学習した感じであること。と考えると、日本在住の白人の俳優だと、選択肢がとても狭くなる。なので、芸人とかミュージシャンとかも含めて探した末に、彼らに白羽の矢が立ったのではないだろうか。


 今調べたら、弟のブレイズの方は、2008年にNHK仙台の単発のローカル・ドラマ『お米のなみだ』に出演していた。MONKEY MAJIK、仙台で結成され、デビュー後も仙台在住のまま活動を続けているので、地元ではみんな知ってる有名人、よってNHK仙台放送局の人がキャスティングしたのだろう、と推測します。


 ということを、朝ドラスタッフが10年前から知っていたのかあとで調べたのかは定かではないが、「いた! しかも兄弟、いっぺんにふたり、ちょうどいい!」ということになったのではないだろうか。役柄上はむしろ兄弟であってはまずいのだが、パッと見て「あ、兄弟だな」というほど瓜ふたつではないし。でも、ツイッターを眺めていたら、MONKEY MAJIKを全然知らない人が「あのふたり似てるけど兄弟なのかな?」と見抜いていて、その鋭さに唸りました。


 さて、問題は岡崎体育だ。いったいなんで、演技経験のない、しかもデビュー間もない(とまだ言っていいと思う)彼を、いきなりキャスティングしたのか。『ひよっこ』で、シシド・カフカ演じる早苗さんをアメリカから迎えに来る恋人役が古市コータローだった時以来のびっくりだ。いや、彼の場合、島田角栄監督の映画に何本も出演経験があったわけだが(ということをあとで調べて知りました)、岡崎体育、そういうのもないし。


 1.日系二世であること。2.だから英語をしゃべれること。3.その上で日本語は関西弁であること。というあの役の条件の中で、彼がわかりやすくクリアしているのは3.だけだ。あ、本人の発言によると、「英語堪能だと勘違いされていた」そうなので、2.も付けるとして、1.に関しては、この条件を文字通り受け取ると「彼であってもいいけど彼じゃなくてもいい」としか解釈できない。ヤバイTシャツ屋さんと一緒に『テンゴちゃん』にレギュラー出演しているなど、NHKと縁のある人だったので目に留まりやすかった、というのはあったかもしれないが、だとしても、なぜ岡崎体育?


 ならば、もっとせばめて考えてみよう。たちばな塩業(現在の社名は、たちばな栄養食品)一同が入る雑居房を見張る、日系二世の進駐軍のアーミー、チャーリー・タナカとは、どういうキャラクターなのか。見た目は単なる関西のあんちゃんだが、タレ目グラサンをかけて英語をしゃべる、というギャップが必要。だからシュッとした男前よりも、コミカルな見た目の方がいい。つまり、フックとなるわかりやすいファクターが、外見にあった方がいい。その上で、タレ目サングラスかけると観る者をナチュラルにイラッとさせるような、ふてぶてしい面構えである方が望ましい。


 そして、アメリカで人種差別でつらい思いをしてきたので日本に対する複雑な思いを抱えている。で、最初はたちばな塩業の面々に対していばり散らすイヤな奴だったが、どうやら本当にこの人たちは無実であることがわかってくると、内心では彼らに同情的な気持ちが生まれる。つまり、根はいい奴であることが、観る側にもだんだんわかってくる。というキャラクターであり、ふてぶてしいツラに、そのような微妙な感情がにじむことも、増えてくるーー。


 どうだろう。こうして書いているうちに、どんどん岡崎体育一択しか考えられなくなってきた気がしないか。たとえば他に「チャーリー・タナカ役、ありかも」と思える役者、誰かいるだろうか。加藤諒。ダメ。「日系二世」以外のファクターが強すぎだし、そもそも彼が出るにはちょい役すぎる。塚地武雅も同様の理由でダメ。とろサーモン久保田。ダメ、「実はいい人」感が見えにくい。サンドウィッチマン伊達。ダメ、ストレートに怖すぎる。『半分、青い。』に出ていたばかりだけど矢本悠馬。ダメ、ふてぶてしさが足りない。駒木根隆介……お、一瞬「いいかも」と思うが、外見からいい人っぽさがわかりやすく出すぎなので、やっぱりダメ。


 と考えていくと、キャスティング側が岡崎体育を見て「ああっ、こいつだ!」となったのも、頷けはしないだろうか。


 なお、岡崎体育、懸念だった英語のセリフも、日本語のセリフも、「こいつ役者じゃないな」という違和感を特に醸すことなく、普通に言えていた、というのも大きい。さっき例に出したコータローさんは、正直「本業じゃなさ」がにじむセリフの言い回しでした。


 今後、ピエール瀧や浜野謙太のように「役者業もひっぱりだこのミュージシャン」になるかどうかまではわからないが、芝居をする彼をもうちょっと観ていたい、と思ったのは、僕がミュージシャン岡崎体育を好きだからというだけではない気がするのだった。


※追記:以上のテキストを編集部に送った翌日、白石和彌監督・斎藤工主演の映画『麻雀放浪記2020』に岡崎体育が出演していることが発表になった。さすが白石監督! と言わざるを得ない。公開は4月5日。楽しみに待ちます!(文=兵庫慎司)