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「バの音楽事情」第8回 キズナアイ、ミディ、かしこまり……バーチャルYouTuberと音楽の関係性を考察

2018年12月10日 08:22  リアルサウンド

リアルサウンド

 バーチャルYouTuberの音楽シーンを楽曲紹介という形で追っていく、「バの音楽事情」第8回。今回は少し趣向を変えて、一度楽曲紹介をお休みし、現状のバーチャルYouTuber界隈と音楽の関係性を俯瞰していこうと思う。


参考:「バの音楽事情」第7回ーー月ノ美兎、ときのそら、樋口楓、ミディ、ファンソングの公式化が魅力の良曲たち


バーチャルYouTuberと音楽の交わり


 そもそも、バーチャルYouTuberと音楽はどこから交わり始めたのか。原点について語るということは必然的にキズナアイについて語ることと同義である。調べてみたところ、キズナアイが初めて歌ってみた動画を投稿したのは、2017年9月29日の『メランコリック』であった。


 そこからキズナアイ初のオリジナル楽曲である『Hello, Morning』が投稿されるまで約10ヶ月。初期のうちからオリジナルの楽曲を制作せず、長い期間をおいてからの発表となったのは、あくまで彼女が「YouTuberである」という前提を大切にした結果なのかもしれない。なお、オリジナルという点においては、2017年10月に企画された動画ED楽曲の公募にも触れておきたい。


 おそらく、バーチャルYouTuberと「オリジナルの楽曲」が表立って結びついた初めての瞬間だろう。事実、バーチャルYouTuberが増えに増えた現在において、楽曲周りは本人のアイデンティティを構築する上での大きな要素になりつつあり、筆者のもとにもBGMやEDの制作依頼は多く舞い込んでくる。バーチャルYouTuberの隆盛によって音楽家に対する需要が増えたことは間違いない。無論、バーチャルYouTuberという「動画」を扱う総合的なコンテンツは、音楽だけでなく様々な分野のクリエイターの需要を高めている。


作曲バーチャルYouTuberの登場


 バーチャルYoutuberというコンテンツのブームが始まった2017年12月頃は、ある種の枠取り合戦のようなものが巻き起こっていた。端的に言えば「世界初〇〇系バーチャルYouTuber」というやつである。その中でも音楽に特化したバーチャルYouTuberとして先んじて登場したのが「ミディ」である。


 彼女は作曲家であり、講座系の動画やオリジナル楽曲の投稿などを軸に活動している。普段の動画ではボイスロイドを用いて喋っているが、初のオリジナル楽曲として投稿された『ハイカラ浪漫』が生歌での楽曲だったことが話題になった。


 ハイカラ浪漫はバーチャルYouTuberの歴史の中で一番最初に広く知れ渡ったオリジナル楽曲と言っても過言ではないだろう。カラオケがフリー配布されていたことから、他のバーチャルYouTuberによる歌ってみた動画も盛んに投稿された。この頃から、バーチャルYouTuberが「クリエイター」として認識され始めたような印象がある。クリエイター的な話題においては、筆者とミディ氏で軽く語った動画があるので興味があれば参照してほしい。


歌ってみたがメインストリームへ


 バーチャルYouTuberが音楽と最も気軽に交わることができるのは「歌ってみた動画」に他ならない。この連載ではあえて歌ってみたの動画は紹介していないが、歌ってみたの流行がバーチャルYouTuberを「音楽特需」の状況へと押し上げたのは間違いないだろう。そしてその中には「歌うま系バーチャルYouTuber」の活躍がある。とりあえず筆者が印象にあるのは『かしこまり』と『YuNi』である。


 両名とも、歌を軸に活動するバーチャルYouTuberであり、特にかしこまりに関してはその走りと言ってもいいだろう(酒飲みバーチャルYouTuberの走りでもあるが)。この二人には面白い違いがあり、「かしこまり」はあくまでもYouTuberであるのに対し、YuNiは「バーチャルシンガー」として活動している。この違いはチャンネルにアップロードされている動画にも如実に表れており、かしこまりは歌ってみた動画以外にもゲーム実況など様々な動画を投稿しているが、YuNiはほぼ全てが「歌」の動画である。このことから、バーチャルYouTuberはすでに「YouTuber」の文脈に囚われない方向へとシフトしていることがわかる。YouTubeというプラットフォームから逃げきれていないのもまた事実ではあるが、いちアーティストやタレントとしての認知を目指しているバーチャルYouTuberが増えているのは間違いない。


 また歌ってみたに関して、『田中ヒメ』と『鈴木ヒナ』の活躍にも触れておきたい。


 元々は歌うま系でもなんでもない、YouTuberとしての活動が多かったヒメヒナだが、この「劣等上等(ギガP)」のカバー動画は現時点で450万再生を超えており、聞くところによれば「バーチャルYouTuber」という括りの中で最も再生されている動画らしい。実際に動画を見てみればその理由もわかると思うが、ただ単に「歌う」だけでなく、ダンス、編集、アレンジなど、「バーチャルYouTuberという付加価値」が詰め込まれている。筆者は元々あまり「歌ってみた」には興味を示していなかったが、既存の広く知られた楽曲に彼女たちなりのオリジナリティを組み込んで披露する手法はバーチャルYouTuberの活動として非常に正しいものを感じた。


 次回はバーチャルYouTuberの世界における「歌ってみた」のブームから、現在の音楽事情に至るまでの経緯を考察していきたいと思う。


(じーえふ)