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椎名林檎×宮本浩次、清 竜人×吉澤嘉代子、ミセス×井上苑子……2018年彩った刺激的な男女コラボ曲

2018年12月09日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年リリースされたDAOKO×米津玄師の「打上花火」に引き続き、今年も男性ボーカルと女性ボーカルによるコラボ楽曲がたくさん登場した。


(関連:エレカシ 宮本浩次、他者から引き出される“新たな顔” スカパラ、椎名林檎…コラボ続きの要因探る


 今年話題を掻っ攫っていったのは、やはり、椎名林檎と宮本浩次による「獣ゆく細道」だ。同曲は『news zero』(日本テレビ系)テーマ曲として椎名が書き下ろしたもの。作詞・作曲・編曲に宮本は関与しておらず、彼は椎名にプロデュースされた形である。よって、エレファントカシマシではまずありえないような宮本のボーカルを聴くことができるのがファンにとって嬉しいポイントだろう。ジャズテイストのメロを歌いながら、ビッグバンドを従え、女性ボーカルとハモる宮本。それは確かにこれまで聴いたことのないものだったが、同時に、ものすごく彼に似合っていると感じた人も多かったのではないだろうか。その根底にあるのは、椎名の、宮本への理解と敬意(歌詞を読めば一目瞭然)。そして、まさに獣と化し、椎名の想定の斜め上を行かんとする、宮本の表現力(『ミュージックステーション』でのパフォーマンスも見事だった。あれだけ大きく動き回っているのに音程が全くブレないなんて)。椎名林檎と宮本浩次は『第69回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に特別企画で出演することが決定している。こちらも楽しみだ。


 この夏、約5年ぶりにソロ活動を再開した清 竜人は、最新シングルの表題曲「目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)」で吉崎嘉代子とデュエットしている。前作から彼は“平成生まれの自分が昭和歌謡を制作したら、新しいものが生まれるのでは”というコンセプトで制作を行っているため、同じく平成生まれの吉澤をパートナーに選んだのだそうだ(参考:CD Journal)。吉澤は歌謡曲をルーツとしているわけではないが、歌詞において松本隆から影響を受けていることを公言していたり、井上陽水をオマージュした楽曲を制作したりしている。温故知新の精神は両者に共通しているようだ。2人が共に歌うのはこの曲が初めてだが、声質の柔らかさも息の抜き方もぴったりで、2つの歌声がよく混ざり合っている。あえて抑制を効かせた歌い方をすることで、別れたあとの男女の微妙な距離感、切ない感情を体現してみせた。


 Mrs. GREEN APPLEは、映画『青夏 きみに恋した30日』の挿入歌「点描の唄(feat.井上苑子)」でレーベルメイトの井上苑子をゲストボーカルに迎えた。互いに好意を抱いてはいるが、いずれ離れ離れになる日がやってくることを自覚している男女の気持ちを描いた、ミディアムバラードだ。先に紹介した「獣ゆく細道」や「目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)」と同様、招いた側が招かれた側をプロデュースするようなスタイル。井上のパートは、彼女が自身の活動で歌っている楽曲と比べて、全体的に音域が低い。そのため、従来の明るくてポップなイメージとはまた異なる、新たな一面を垣間見ることができた。また、これまでのMrs. GREEN APPLEのラブソングは、作詞作曲を務める大森元貴(Vo/Gt)自身の恋愛観を綴ったものが主だったが、この曲の歌詞は、1番が女性目線、2番が男性目線になっている。このような構成は今回が初。ソングライティング面でも新たなトライがあったのだ。


 さユり×MY FIRST STORYによる「レイメイ」は、作詞:さユり&Hiro(Vo)、作曲:さユり&Sho、編曲:MY FIRST STORYという共作曲。ゆえに、互いの存在により、互いの新しい表情が引き出されている感じがあるのが面白い。さユりがポエトリーリーディングするのも新鮮だし、〈痛む泥濘の中で祈りを描くよ〉といったフレーズはMY FIRST STORYの楽曲にはなかなか登場しないだろう。アニメ『ゴールデンカムイ』(TOKYO MXほか)第二期のオープニングテーマであるこの曲は、ラウドロック調のアッパーチューン。二声が一体になって――というよりは、それぞれが独立した個として存在しており、協奏しているようなイメージだ。これはアニメの主人公2人の投影ともとれるほか、それぞれ“孤独”をテーマにした楽曲を多く歌い、交わらずとも実は共鳴を繰り返してきた、さユりとMY FIRST STORYの関係性を反映しているようにも思える。夜明けを意味する「レイメイ」というタイトルも象徴的だ。


 調和するか。競り合うか。一方がプロデューサーにまわるか。それとも共作するか。一口にコラボといえども、やり方は何通りもあるが、“他者の介入により化学反応が発生する”という点はおそらく共通だろう。また、こうして振り返ってみると、映像作品へのタイアップや明確なコンセプトの存在が、男女コラボ楽曲の制作を後押ししているように思えるが、はたしてどうだろうか。刺激的なコラボ楽曲が、来る2019年にも生まれてくることを期待したい。(蜂須賀ちなみ)