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えつこ&ささみおが語る、サポートコーラスへの思い「川谷絵音くんの現場が今の私を作ってくれた」

2018年12月07日 16:02  リアルサウンド

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 indigo la End(以下、インディゴ)やゲスの極み乙女。(以下、ゲス乙女)にコーラスやキーボードとして参加し、現在ではレコーディングにもライブにも欠かすことのできないサポートメンバーとなっているえつことささみお。えつこはkatyusha名義でのソロ活動に加え、DADARAYのメンバーとしても活動、ささみおはインストバンドのゲストボーカルを務めるなど、それぞれ活躍の幅を広げている。サポートという立場で、インディゴとゲス乙女の両方に関わっているからこそ見える、二つのバンドの違いや、コーラスに対するこだわりなど、貴重な話を聞くことができた。(金子厚武)


(関連:川谷絵音が語る、“新しい音楽”を求め続ける理由「いつの時代も作る人は絶対にいる」


■「自分も楽器のひとつであろうと思って歌ってます」
ーーまずは二人がインディゴやゲス乙女のサポートを務めるようになった経緯から話してもらえますか?


ささみお:そもそも私は大学のサークルで川谷(絵音)さんと(休日)課長の後輩だったんです。で、まだスタジオで自分たちで録音をしているようなときに、「コーラスをしてくれ」って言われて、やらせてもらったのが最初でした。ただ、その頃はまだライブには参加してなくて、私は普通に就職して、逆にインディゴやゲス乙女はどんどん有名になっていって、私からすると手の届かないところに行ってしまった感じで。


ーーでも、その後に誘いがあった?


ささみお:就職して2年目くらいのときに、私が大学時代の先輩と組んだバンドのライブを、川谷さんが見に来てくれて、「あとで連絡します」って言うから、またレコーディングかなって思ったら、今度はライブで。最初は週末だけ参加してたんですけど、だんだん「ここも、ここも」ってなって、有給を使ったりするようになり、「猟奇的なキスを私にして」のレコーディングからは、ゲス乙女の方もやり始めて。で、どっちも居つくようになり、最終的に会社を辞めて、今に至るっていう。


ーー会社を辞めたのはどのタイミングだったんですか?


ささみお:2014年の年末にインディゴとゲス乙女で沖縄に行ったんですよね。そのときに、周りから後押ししてもらい、もちろん悩みはしたんですけど、メンバーもスタッフさんも「大丈夫」って言ってくれたので辞める決心をしました。年明けすぐに会社に言って、年度末までは働いたんですけど、辞めたその日にLIQUIDROOMでライブがあり、退社して、そのままライブしました(笑)。


ーーえつこさんはどんな経緯だったのでしょうか?


えつこ:もともとはkatyushaでインディゴと対バンしたことがあって、最初はTwitterでお互いフォローし合うだけの薄い繋がりだったんですけど、当時ベースだった課長とは唯一仲良くなって。で、ゲス乙女は各々バンドをやっていて、ちゃんMARIはCrimson、ほな(・いこか)ちゃんはマイクロコズム、みんな下北沢ERA界隈で繋がってたから、それぞれ交流はあったんです。


ーーなるほど。


えつこ:で、2014年の年末にゲス乙女が赤坂BLITZと豊洲PITでライブをしたときに、もともとみおちゃんと私の友人がコーラスをやる予定だったんですけど、その友達が豊洲だけ出れなくなって、私がトラ(エキストラ)で出て、そこでメンバーとひさしぶりに会いました。その帰り際に川谷くんと連絡先を交換して、2カ月後くらいに「インディゴでもやってほしい」って言われて。当時インディゴのコーラスはみおちゃん一人だったから、それも最初はトラだったんですけど、そうやってやってるうちにいつの間にか……取り込まれました(笑)。


ーーそもそも、バンドに女性コーラスを入れるっていう編成自体は、何かモチーフがあったのでしょうか?


ささみお:……聞いたことない(笑)。でも確か、昔Twitterでつぶやいてたんですよね。「女の子でコーラスやってくれる人いないかな?」って。だから、何かしら憧れというか、好きな曲とか、好きなアーティストの影響があったと思うんですけど……。あ、Dirty Projectorsとか好きだよね? ああいうのを求められたときはありました。


えつこ:そうだね。「どういう感じにしてほしい?」って言ったら、「Dirty Projectorsのこういう曲」とか「ちょっと変な感じにしてほしい」とか。あと私が覚えてるのは、ゲス乙女に「ゲストーリー」っていうコーラスを入れまくってる曲があるんですけど、あれは「ABBAみたいにしてほしい」って言ってた(笑)。あの曲はメンバーの声とか全部合わせると20声くらい入ってるんですけど、実際「Dancing Queen」とかを聴いたら、思ったよりコーラス入ってなくて、「これ全然ABBAじゃないじゃん」って(笑)。


ーー実際、コーラスはどんな手順で作っているのでしょうか?


えつこ:川谷くんが「ここをハモッてほしい」っていうのを歌詞の紙に線で引いて、「ここは何声、ここは上ハモ・下ハモ」とかは決まってて、ハモリのパターン自体は私が考えてます。私とみおちゃんの声は全然違うので、みおちゃんが高音域、私は中・低音域みたいな感じで振り分けてますね。


ーーサポートをすることの面白味や難しさは、それぞれどのように感じていますか?


ささみお:ゲス乙女に関しては、そもそも女の子が二人いるバンドで、そこにさらに女性コーラスを入れるので、メンバー二人の声とか歌い方とは別なものを出そうっていうのは思ってます。インディゴに関しては……単純に、曲が難しい(笑)。ロングトーンとか、そういうのの比率が多いので、レコーディングで時間をかけ過ぎないように頑張ろうっていうのは毎回思ってますね。ライブでは楽器の一部になるというか、センターに川谷さんがいて、立ち位置的にも川谷さんを囲むようにみんながいるから、自分も楽器のひとつであろうと思って歌ってます。


ーーインディゴの方が難しいんですか?


ささみお:ゲス乙女も難しいんですけど……ゲス乙女の方が飛び道具感があるかも。


えつこ:「某東京」とかね。


ささみお:ゲス乙女が飛び道具なら、インディゴは……イメージ的には、私の中ではストリングスなんですけど。


ーーえつこさんからすると、どっちの方が難しいとかってありますか?


えつこ:もともとのバンドの世界観が違うから、同じようなラインでも、違って聴こえるっていうのはありますよね。インディゴでは私も楽器を弾いちゃってるので、それをやりつつのコーラスって考えると、インディゴの方が難しいかな……。まあ、どっちも難しいけど(笑)。


■「ライブはレコーディングをしてるくらいの気持ち」
ーーえつこさんはインディゴではキーボードも弾いているわけですが、曲作りにはどのように関わっているのでしょうか?


えつこ:ゲス乙女だったら、川谷くんが弾いたコードをちゃんMARIが拾って、そこから曲を固めていくんですけど、インディゴでは私がその役割をやっていて。川谷くんが弾いたコードを拾って、ホワイトボードに書いて、「ルートはここで、コードはこういう感じ」っていうのを伝えて、骨組みしていく。曲全体の構成を考えるときには、コードが鳴ってないとわかりにくいから、とりあえずピアノの音色で弾いて、ピアノとドラムで1セクションやり、そこにベースをルートで入れてもらって、その間に川谷くんが考えるっていう時間があるんです。その流れで、そのまま本番もピアノの音色で弾くこともあれば、川谷くんが指定することもあるし、川谷くんがその場にいなかったら、私が勝手に入れちゃって、何も言われなかったらセーフ、みたいなときもあったり。まあ、音色に関しては、基本指定があることが多いですけど。


ーーフレーズに関しては?


えつこ:わりかし任せてもらってるんですが、インディゴはリードギターの長田(カーティス)くんがいるので、彼のフレーズを邪魔しないようにっていうのは結構心がけてます。ただ、存在感がなさ過ぎてもいる意味がないので、ちゃんと2本のギターを出した上で、「鍵盤鳴ってるな」くらいのバランスを取るようには意識していますね。


ーーインディゴの曲調自体も変わってきてるから、それによってそのバランスも自然と変化していってるんでしょうね。


えつこ:最近はDADARAYもやっていて、DADARAYも鍵盤押しのバンドだから、ゲス乙女も含めて3バンドのバランスを考えるようにはなってます。


ーーささみおさんはライブでバイオリンを弾くこともありますよね。


ささみお:4歳から18歳までやってはいたんですけど、しばらくやってなかったので、急に「弾いて」って言われたときはびっくりしました。もともと「コーラスがいきなりバイオリン弾き始めたら面白いよね」って話で。確かに、見に来てくれた人からも「よかった」って言ってもらえてるので、やってよかったなって思いました。


ーーえつこさんから「ゲストーリー」の話がありましたが、ささみおさんはレコーディングが印象に残っている曲というと、どの曲が浮かびますか?


ささみお:いっぱいコーラスを入れるようになったのが、インディゴの「eye」で、あれはサビを二人だけで歌ってて、5声で、全部ダブルで重ねて録るっていう、ああいうことをやったのは「eye」が初めてだったので、印象に残ってますね。


ーーさきほどチラッと名前が出たゲス乙女の「某東京」も強烈ですよね。


えつこ:あれは「カオスにしてほしいから、ずっとフェイクやってるみたいなのを作ってほしい」って言われて、途中のセクションまでは私が考えたんですけど、キャパオーバーだったので、後半のロングトーンになるところは主線のメロディをみおちゃんに任せて。


ささみお:1セクション目とか、「とりあえずブース入ってやってみて」みたいな感じだったよね。


えつこ:そう、アドリブみたいな感じでやって、ちょいちょい川谷くんが「ここは巻き舌で」とか「ここはこういうの入れてほしい」とか言って……あのときは結構ボロボロの状態だった(笑)。


ーー今年リリースされたインディゴの『PULSATE』とゲス乙女の『好きなら問わない』の収録曲に関しても、想い入れのある曲を挙げてもらえますか?


えつこ:『PULSATE』で言うと、「魅せ者」は鍵盤のアプローチが私は気に入ってて、大人になったインディゴの空気感が出てるというか、「新しいインディゴ」って感じで、すごく気に入ってます。ゲス乙女で言うと、「はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした」が一番好きですね。ゲス乙女のコーラスアレンジもインディゴと同じ手法で、私がハモのパターンを考えてるんですけど、ちゃんMARIが絶対音感を持ってるから、不安なときはちゃんMARIにアドバイスをもらったりしながら作ってます。


ーー「はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした」はどんな部分が気に入ってますか?


えつこ:コーラスのラインもハモリのパターンも好きなんですけど、よく聴くと、Aメロとかでみおちゃんと私が交代でハモッてたりするんです。お互い得意な帯域というか、抜ける帯域を意識しながら考えてて、そういうのが他の曲でも散りばめられているので、注意して聴いてもらえると、より面白いかなって。


ささみお:私基本的に高い声を担当させてもらってて、下ハモをやることはあんまりないんですけど、「オンナは変わる」では下ハモをやらせてもらっています。


えつこ:「オンナは変わる」は私が川谷くんのオクターブ下を入れてて、その間にみおちゃんが入ってるんです。


ささみお:普段上でハモッてるから、いざ下でってなると、あんまり自信なかったんですけど、やってみたら、ちゃんMARIとかに「いい感じだった」って言ってもらえたので、ぜひ聴いてもらいたいなって。


ーー『PULSATE』と『好きなら問わない』、アルバム自体に対しては、どんな印象ですか?


えつこ:すごくいい意味で、無理してない感じがする。


ささみお:詰め込み過ぎてないっていうかね。


えつこ:「すごいことしなきゃ」みたいなのがいい意味でなくて、本来のメンバーが持ってる素晴らしさがナチュラルに出てる作品なのかなって。メンバーからしたら「超無理したよ」って部分もあるとは思うけど(笑)、でもすごく聴きやすい。


ささみお:語弊があるかもしれないけど、いつでも聴けるというか。聴き込もうと思えばいくらでも聴き込めるけど、歩いてるときも、家にいるときも、BGMとして聴いても心地いい曲がどっちにも入ってる感じがしますね。


ーーライブに対する意識は、サポートをやり始めた頃と今とでは、どのような変化がありますか?


ささみお:私はそもそも軽音部で歌ってただけで、バンドマンでもなかったし、大勢の人の前で歌うこともなかったので、最初はホントに……当時のライブの記憶がないくらいの感じではあったんです(笑)。今はレコーディングをしてるくらいの気持ちで、あんまり感情に流されずに、しっかり歌おうと思ってます。もちろん、お客さんが盛り上がったら自分も盛り上がるけど、そこで感情に持って行かれないで、ちゃんと歌おうって。


ーー途中で「楽器の一部」という話もあったように、ライブならではの熱量も大事だけど、今は正確さの方に重きを置いていると。


ささみお:アンコールとかだと、いい意味で肩の力が抜けるけど、特に本編中は気を張って、冷静にいようと思ってます。


えつこ:私は逆にもともとバンドマンで、これまでは自分がメインボーカルでステージに立つことが多くて、人の後ろでパフォーマンスをすることがなかったので、最初は我が出過ぎて、コーラスなのにメインボーカルっぽく歌っちゃったり、パフォーマンスにしても、悪い意味で目についちゃうときがあったりしたかなって。でも、2017年にDADARAYを始めたタイミングで、ちゃんと温度差がつけられるようになって、DADARAYでは目いっぱい動くし、目いっぱい自分の癖で歌うけど、ゲス乙女とかインディゴに関しては、比較的自分を出さないように、パフォーマンスもテンション高い曲以外では、なるべく動かないようにっていうのを意識してます。まあ、人間なので、守れないときもあるんですけど(笑)。


ーーサポート活動が活発になって、katyushaにはどんなフィードバックがありますか?


えつこ:もともとkatyushaでコーラスワークに力を入れていたので、ゲス乙女やインディゴをやることで、よりコーラスのスキルが洗練されて、katyushaのレコーディングにも活かせたし、アプローチも変わってきたと思います。でも、私不器用なので、ひとつのことに集中しちゃうと、他のことがあんまりできなくなっちゃうタイプなんですよね(笑)。長岡(亮介)さんとかホントすごいなって思ってて、人のバックの仕事もちゃんとできて、自分のバンドもしっかり確立されてて、ファンの方がたくさんいらっしゃるっていう。憧れですね。


■「川谷くんは思いついたらすぐ実行しちゃうタイプ」
ーー今後に関しては、どんな展望を持っていますか?


えつこ:もちろん、川谷くんの現場は好きだし、今の私を作ってくれた場所だと思うので、これからも大切にしたいし、その上で、時間があれば他のサポートもやってみたいです。ソロに関しては、去年アルバムを出せたので、今後も合間を見つけてリリースやライブができれば……幸せな人生だなって(笑)。


ーー同じく、ささみおさんは今後の展望に関してはどうでしょう?


ささみお:コーラスのお仕事はこれからも続けていきたいし、あとは仲良くさせてもらってるバンドにゲストボーカルで入らせてもらう機会もあって、一昨日(取材日2018年11月2日)もGecko&Tokage ParadeのゲストとしてMotion Blue yokohamaでやらせてもらって、こういう立ち位置も面白いなって。私toeが大好きで、toeってアルバムの中にゲストボーカルが参加してる曲があるじゃないですか? あの感じが大好きなので、ああいうことがやれたらいいなって思ってます。


ーーすでに美濃(隆章)さんとの接点(ゲス乙女のエンジニアを務めている)はあるわけで、いずれtoeの楽曲への参加が実現するといいですね。先日のゲス乙女のツアーファイナルでは川谷くんのソロ活動も発表されて、今後も忙しそうですけど。


ささみお:あれ何なんだろうね?


ーー知らないんだ(笑)。


えつこ:彼は思いついたらすぐ実行しちゃうタイプなので。休めない人なんですよ。


ささみお:よく「ちょっとゆっくりしようかな」とは言ってるんです。でも、結局すぐ動き出してて……元気だなあって(笑)。


ーー大学の先輩のことそんな風に言っていいんですか?(笑)。


ささみお:それで言うと、課長の方がたまに「おい、先輩に何てこと言うんだ!」とか言ってきますね。普段は全然そんなこと言わないんですけど(笑)。


(取材・文=金子厚武)