ホンダF1の本橋正充(副テクニカルディレクター)が、2015年に復帰したホンダの4年目、トロロッソという新たなパートナーと組んで臨んだ1年目のシーズンとなった2018年を振り返った。
「私は第3期でもホンダのF1活動に関わっていて、2004年から07年まで現場で仕事していました。そのときはジェンソン(バトン)側のエンジンのデータエンジニアです。当時ジェンソン側のエンジンのレースエンジニアを担当していたのが田辺(豊治/現ホンダF1テクニカルディレクター)さんでしたから、田辺さんとは長い付き合いになります」
「テクニカルディレクターとしての田辺さんの現在の仕事は、プロジェクト全体の大きな舵取りです。ホンダとして現場で大きな方針を決めるときや会社としての判断は田辺さんが決めます。副テクニカルディレクターである私の仕事は現場での技術的な分野が多いです」
「もちろん技術的な面も最終的な決定は田辺さんが行うので、私はその繋ぎ役になります。田辺さんが決めた指示に対して、技術的な観点でどういった指示をエンジニアたちに与えるか、あるいはどういった使い方、年間のローテーションをどう行うか、それぞれのレースに向けての準備をどう行うのかという指示をしてます」
「先にお話ししたように私は第3期でも現場で仕事をしていましたし、今回ホンダがF1に復帰することを発表してから昨年まで、ファクトリー(栃木研究所、HRD Sakura)でパワーユニット(PU)の開発をやっていました」
「今年、実際に現場で仕事をしてみると、チームとのコミュニケーションが第3期に比べてより密になっていることを実感しました」
「現在のPUはその使い方において戦略に関わるバロメーターが多く、チーム側の意見やドライバーの意思が密接に関係してくるので、彼らの要求に対して臨機応変に対応することがいままで以上に重要になっていました。そのことはHRD Sakuraで仕事していたときから理解していたので、その点を心がけてシーズンに臨みました」
■トロロッソとの「コミュニケーション」に課題。”詰めの甘さ”がミスに
本橋らの努力によってトロロッソ・ホンダは2018年シーズン開幕前のテストからオープンで密接な関係を築くことができ、第2戦バーレーンGPではホンダ復帰以降、最高位となる4位を獲得した。しかし、チームとのコミュニケーションにおいては、まだ課題が残っていた。それが露呈したのは第4戦アゼルバイジャンGPだった。
「エネマネ(エネルギーマネージメント)の設定に関してのコミュニケーションでミスがありました。エネマネの基本的な設定はラップタイムを最速にすることです」
「しかし、それは1台で走っている状況であって、前後にマシンがいるレースになると別のエネマネが必要になってきます。特にアゼルバイジャンはセクター2の市街地とセクター3の高速区間で使い方が予選とレースではまったく違います。その辺の詰めが甘かったのです」
「しかも、あのときはセーフティカー明けだったことも、わたしにとっては追い討ちをかける状況となってしまいました。セーフティカー明けのときはどうゆうエネマネにしておくべきか。要はバッテリー残量になるんですが、バッテリー残量をどの辺りにしておくと、次のリスタートのときに抜かれないのか、あるいは抜けるのか、という読みが甘かったわけです」
「もちろん、それを行うにはホンダ側の設定も重要ですが、ドライバーの操作も大きく関係してきます。その辺のコミュニケーションがうまく取れてなかった」
「単純にバッテリー残量の数字的な問題だけじゃなくて、刻々と変わる状況においてホンダとトロロッソ、そしてドライバーの認識が一体となっていなかった。その点において、私たちは素直に反省し、チームやドライバーも理解してくれました」
マクラーレンとの難しい3年間を過ごした直後ということもあり、トロロッソはホンダに対して、彼らの自尊心を傷つけることがないよう敬意を払って接してきた。しかしそれが逆に遠慮につながり、両者の『見落とし』につながったのが、アゼルバイジャンの失敗だった。
ベストレースとワーストレースを1カ月の間に経験したトロロッソ・ホンダ。しかし、その経験が糧となり、やがて中盤戦で花を開かせることとなる。
■本橋正充ホンダF1副テクニカルディレクター:2018年総括(2)に続く