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杉山すぴ豊が語る『東京コミコン2018』 コスプレや来日で年々熱を増す『コミコン』の魅力とは

2018年12月07日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年の『東京コミコン』が開催され、盛況のうちに幕を閉じました。前回の動員が4万人。今回の動員が6万人と発表されていますから、イベントとしても成長していることが分かります。『コミコン』というのはコミック・コンベンションの略で、もともとアメリカでアメコミのファンと流通(コミック・ショップ)、アーティスト、出版社の交流イベントとして始まったそうです。そのうちアメコミはアニメになったりゲームになったり、おもちゃやグッズになったり、TVドラマ化されたり、なんといっても最近では映画になって大人気ですから、”紙”を超えて、こうした業界も注目するようになり、またスター・ウォーズやハリポタなど”アメコミ”ではないけれどアメコミ・ファンと親和性の高い周辺コンテンツも巻き込み、いまやオタク系ポップカルチャーの祭典になってきました。


 中でも毎夏、アメリカ西海岸で開催される『サンディエゴ・コミコン(SDCC)』は特に有名です。『SDCC』がクローズアップされるようになった理由は、ここでアメコミ系映画やドラマの発表をすることが多くなったため、エンタメ業界でも注目のイベントになったのです。『カンヌ映画祭』や『サンダンス映画祭』のように、『SDCC発』での映画情報というのは業界がさわぐようになりました。実際アベンジャーズのロバート・ダウニー・Jr.やスピルバーグ、クリストファー・ノーラン、J.J.エイブラムスなんてビッグネームが普通に来るのですから。『SDCC』が重要なのは夏開催ということもあります。というのもハリウッドの娯楽大作映画はサマームービーであるから、来夏公開の大作のキックオフをこの『SDCC』で始める、というのはスタートとして悪くないし、一方ドラマは秋に新シーズンが始まることが多いから、直前に視聴者=ファン獲得のための場としてSDCCは機能するわけです。


 日本でもアメコミ好きが増え、当然『SDCC』のことを知るわけですから、こういうお祭りを日本でもやってほしい! そういう声に動かされて始まったのが、この『東京コミコン』です。『東京コミコン』は、「『SDCC』に代表されるアメリカのコミコンの楽しさを日本でも味わえる」のが売りでもあるから、アメコミ系・ハリウッド系のコンテンツが多い。


 また『東京コミコン』の目玉は、海外から大物スターを呼んでのサイン会・撮影会だったりします。今年はマーベル映画で大人気のロキを演じているトム・ヒドルストンも参加し、大盛り上がりでした。さらにメイン・ステージではこれからのアメコミ映画の発表やイベント、コスプレ・コンテストが行われたり、場内には様々なエンタメ系企業が趣向を凝らしたブースを展開。スパイダーマンの予告編に登場できたり、自分がアイアンマンとなって動けるようするデジタル・アトラクションや、バットマンの縁日があったりします。


 この手のイベントはSNSでの拡散が必須だから、フォトジェニックな展示も多い。等身大、つまり巨大なバンブルビー(トランスフォーマー)がおいてあったり、『ターミネーター2』でシュワちゃんが乗ったハーレーも展示されています。ハリウッド(洋物)コンテンツだけではなく、ウルトラマンや60年ぶりに復活する月光仮面関係の展示・発表、日本生まれのキャラでありながらハリウッド映画になる『名探偵ピカチュウ』『ゴジラ:キング・オブ・モンスターズ』の発表も話題になっていました。さらに『カメラを止めるな!』や熱狂的なファンを持つ『バーフバリ』も参加!


 こうした空間を様々なキャラに扮したコスプレイヤーたちが歩いている。ジェダイの騎士団とホグワーツの魔法校の生徒たちがいるかと思えば、アベンジャーズとジャスティス・リーグが談笑している。ゾンビもいれば『13日の金曜日』のジェイソンもいる……会場自体が『レディ・プレーヤー1』みたいな世界です。


 コミコンに参加しながら感じることは、コンテンツの楽しみ方が変わったということかもしれません。今回日本公開30周年を記念して、出演スターであるピーター・ウェラー氏を呼んでの『ロボコップ』の上映会がありました。『ロボコップ』は『東京国際ファンタスティック映画祭』で上映されましたが、一昔前は”映画は観て楽しむ”ぐらいしか楽しみ方は無かった(それでも十分楽しかったですが)。でも今は、例えば好きな映画のグッズを買ったり、そのキャラのコーデやコスプレをして楽しんだり、周りに同好の士がいなくても、ネットで同じ趣味の人間と会ってオフ会して盛り上がったり、自分の意見をSNSやブログ等で発信したりとそのコンテンツをもっと自分の中にとりこんで楽しんでいる感じです。


 そうしてため込んだ「好きだ」という想いを放電する場として、こういうコミコンが機能しているのかもしれません。面白いなと思ったのは今回花王さん(ビオレ)が出展したことです。ビオレとスーパーヒーローって全然接点がないですが、コスプレイヤーを応援したい=コスプレーヤーのメイク落としにビオレ、という切り口で納得の参加。そうそう、女性の参加者が多いのも特長です。また海外のコミコンと比べ食事=ケータリングがおいしいのも特長。有名なちゃんこなべをハーレイ・クインの集団が食べている光景はほほえましく、またこれが東京コミコンなのです。


 セレブが登壇してファンに挨拶するステージも人気ですが、僕は、今回トム・ヒドルストン氏やラーナー・ダッグバーティー氏等のステージのMCを務めました。そのとき心がけたのは、このステージは決して記者会見の場ではない、ファン・ミーティングなんだということです。もともとコミコンの「コン」がコンベンション=交流の場なのだから、いかにファンとゲストが一体化になれるかでした。今回参加されたゲストがみんな素晴らしかったのですが、とにかく会場にいるファンの温かさと熱さに助けられましたし、「わたしは、僕はこれが好きなんだ」という気持ちから発せられるオーラというものを本当に感じました。「批評家は減点法で、オタクは加点法でみる」という名言がありますが、このコミコンには”加点法”しかないのです。DCキャラのコスプレ・コンテストに参加したエズラ・ミラー氏がコスプレーヤーたちを背に、「ここにいるみんなが僕の家族だよ! 僕たちオタクはunderdog(負け犬)と思う人いるかもしれない。でも こうしてみんなが集まる姿を見て思うのは、僕たちを見くびるな! ってことさ」と胸熱スピーチ。これがコミコンの本質であり魅力だと思います。


 最後に『東京コミコン』が世界的に認められた大きな理由は第一回、第二回にスタン・リー氏が参加し、お墨付きをしてくれたことです。今回、氏を偲ぶコーナーが設けられ、多くのファンがメッセージを寄せていました。改めてスタン・リー氏に感謝したいと思います。『東京コミコン』もまた、スタン・リー氏の作品の一つではないでしょうか? ファンとともに、大切にしていきたいです。


■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。