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『大恋愛』戸田恵梨香とムロツヨシが手に入れた“夫婦の形” 試練乗り越えた2人が向かう未来とは

2018年12月07日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 小池徹平演じる公平の登場は、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)の世界に不穏な空気を漂わせた。尚(戸田恵梨香)にキスをしたり、真司(ムロツヨシ)がいない隙にこっそり尚に近づいたり、睡眠薬で尚を眠らせようとしたり……。尚と真司の前にふと現れた彼の存在は、観るものに緊張感を与えたものだ。


参考:ムロツヨシが語る、『大恋愛』で掴んだチャンスへの喜び 「あがき続けてきました」


 ただ、この公平という謎に包まれた存在は、描かれるべくして描かれたキャラクターであるように思える。作品に緩急をつける役割以上に、彼の存在には意義がある。というのも、公平の登場は尚と真司にとっての乗り越えるべき試練を与えたように見えるからだ。第8話の終盤で、公平は真司に次々と辛辣な言葉を浴びせる。


「真司と尚は全然対等じゃないんだもん」
「あんたにとって尚ちゃんは小説の道具だろ」
「あんたは尚を利用して自己実現してるだけだよ」


 それでも、真司はすぐさま否定の言葉を公平にぶつけることができなかった。公平からは「図星?」とまで言われてしまう。もちろんこれまでの話を観ていれば分かるように、真司は尚のことを道具だなんて思っていないし、尚を利用しようなんていう邪な気持ちがあるわけない。ただ、公平は真司に “ひょっとしたら、公平の言っていることもありえるかもしれない”という恐ろしい可能性をグロテスクに見せつける。悪魔のような囁きは、“ひょっとしたら……”という考えたくもない可能性を嫌でも考えさせるのだ。特に、公平の言う“対等じゃない”という言葉は真司を震えあがらせたはずだ。尚は病を抱えているが、真司は抱えていない。公平が言うように、同じ病気を持つもの同士でしか愛し合えないのだとしたら……。そこを突かれた真司が思わず立ちすくんでしまうのも無理はない。


 象徴的なのは、怒りに震える真司が公平に殴りかかる前に、尚がやってきたことだ。あと一歩で、真司は公平を殴っていた。あの場で殴っていたら、ひょっとするとそれは公平の思う壺だったのかもしれない。殴ればせいせいするであろう。でも、それは何の解決にもならない。2人は公平の“対等じゃない”という突きつけに対するアンサーを用意する必要があった。


 そこで、尚が公平にぶつけたアンサーが「対等かどうかなんてどうでもいい」ということであった。対等であるかは本質じゃない。尚のことを真司が小説にすること。実際に執筆するのは確かに真司である。ただ、真司は自分だけで書いたとは思っていないだろう。『脳みそとアップルパイ』も次回の新作も2人の“共作”。尚の言葉を借りれば、「他の誰にも真似できない、私たちだけの夫婦の形」なのだ。きっと、あのシーンで救われたのは公平だけではない。真司もまた尚の言葉で安心したはずだ。2人がはっきりと出すべき答えだったのだ。


 ところで、公平の台詞の中には引っ掛かるワードが一つある。“永遠”。子どもたちから貰った蝶の標本を尚に見せた時、公平は「死ねば“永遠”に綺麗なままでいられるんだ」とつぶやいた。尚と公平の小説を書けと真司に迫った時には、「今度は僕たちの純愛をあんたが書けよ。美しく“永遠”になっていく結末まで」と言った。永遠を“綺麗なもの”、あるいは“美しいもの”とリンクさせる発想からは彼の悲哀が滲み出る。永遠ではなく、いつかは終わってしまうことに対する恐怖があるのかもしれない。彼の人生もまた“いつかは終わってしまうもの”の一つ。第8話で最後に放った「忘れたくないこともたくさんあるのにな……」という言葉に彼なりの葛藤が見え隠れする。


 さて、いよいよ『大恋愛』もクライマックスに近づいていく。真司の新作や、2人の子どものことなど気になることが目白押しだ。大石静が描く怒涛の“大恋愛”の着地点が気になって仕方がない。(文=國重駿平)