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2019年トロロッソ・ホンダ入りが断たれた山本尚貴の今とこれから。「残念ですけど、今は夢を持ち続ける幸せを感じています」

2018年12月06日 12:51  AUTOSPORT web

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F1アブダビGPから帰国して1週間後のスーパーフォーミュラテストに参加した山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)
スーパーフォーミュラ、そしてスーパーGTのダブルチャンピオンに輝き、2019年のトロロッソ・ホンダ入りを目指してF1最終戦アブダビGPの地を訪れた山本尚貴。現地でF1参戦の意思をアピールし、翌日月曜日にホンダ青山で開催されたスーパーGTのファンミーティングでもF1のチャンスについて語っていたが、無情にもその日の夜、トロロッソ・ホンダはアレクサンダー・アルボンの起用を発表。すでに決定していたダニール・クビアトとのコンビとなり、山本の来季のF1挑戦は断たれることになってしまった。

 その翌週に迎えた鈴鹿サーキットでのスーパーフォーミュラの合同テスト。山本はどのような心境でこの一週間を過ごし、そして、スーパーフォーミュラのテストに臨むことになったのか。鈴鹿サーキットでの初日テストを終えた山本に聞いた。

「正直、アブダビに行く前、事前の情報で彼(アルボン)になりそうだというのは聞いていたし、アブダビに行ってからもその状況は分かっていた」と、改めてその時の状況を振り返る山本。

「アブダビに行ったら、向こうでどういうことが起きていて、どういう状況なのかが分かるだろうと思ったので、いろいろな可能性に賭けて行ったんですけど、アブダビに行った時点で彼に決まりそうだという話は耳に入っていました」と続ける山本。

 そして帰国した翌日、アルボン決定を知ることになる。

「厳しい状況であることは分かっていたけど、それでも知らない世界だったので一度、本気で見てみたいと思いましたし、それなりに腹を括って覚悟を決めてあの地には乗り込んだので、ドライバーが決まってしまったと聞いたときには正直、残念に思いました。来年のF1の開幕戦に僕が乗ることは100パーセントなくなったので当然、残念な気持ちになりました。その反面、やはりこの短い期間、タイミングで手を挙げて乗れるほどF1の世界は甘いものではないし、そんなに簡単じゃないというのも分かっていたので『仕方ない』と思えた部分、『当然だよな』と思った部分もあります」

 そこから今回のスーパーフォーミュラのテストまで約1週間、山本はどのような気持ちで過ごし、そして、今回のテストに臨むことになったのか。

「F1を目指している方には失礼ですし、申し訳ないんですけど、本当に毎年毎年『F1に乗りたいです!』とアピールしつづけて、スーパーフォーミュラのタイトルを獲って、F1に乗ることができる権利が得られると分かっていて戦っていたわけではないので、もしそのマインドを持ってアブダビに行って、この結果を知ったら当然、気持ち的にはかなり落ち込んでいたと思います」

「でも、僕はもともと手の届くところに自分がいるとは思っていなかった。だけどふたつタイトルを獲らせてもらって、ホンダのドライバーとして一番の権利を得て、チャンスがあるということで手を挙げさせてもらいましたけど、本当に瞬間的にいろいろなものごとが動いたので、今回のスーパーフォーミュラのテストなどに特になにか影響があるわけではありません」

■チームを変えて臨んだ1週間後のテストと山本の感触

 タイトル獲得、そしてアブダビ訪問と慌ただしいスケジュールを過ごした山本。その後にはこれまで在籍したチームを離れて、別チームからスーパーフォーミュラのテストに臨むことになった。体力的な面だけでなく、心理的にもかなりのストレスが懸かった数週間になったに違いない。それでも山本はTEAM MUGENからダンデライアン(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)にチームを変えて迎えたテストをポジティブに捉えている。

「もちろん、来年ダンデライアンから走ることが決定したわけではないですし、今回はテストのチャンスを頂いた。僕はSF14のクルマになってからずっと同じチームの経験しかないですし、エンジニアの阿部(和也)さんとチーム無限と8シーズンずっとやってきたので、ちょっと外の世界を知りたい、体験してみたいという思いはありましたし、来年はクルマが入れ替わるのでSF14に乗る最後のチャンスということで、今回このようにダンデライアンさんに乗らせてもらえる機会を無限さんにもチャンスを頂いたので、すごく感謝しています」

「ダンデライアンさんはホンダの中でも強豪ですし、無限とはライバル関係でもあったので、もちろんクルマに興味はありましたし、実際にテストで乗せて頂いて、こういうクルマなんだ、こういう風に進めるんだと勉強になったので、またさらにドライバーとしてひとつ引き出しと経験値が増やせたなと感じています」と山本。

 2019年のF1参戦の夢が絶たれた今、山本はどんなモチベーションで2019年を迎えようとしているのか。再びF1を目指して活動を続けるのか、それとも国内で同じチームで2連覇を狙うのか、それとも別のチームに移籍して、そこでまた2連覇を狙うのか。チームを移籍してのチャンピオン獲得は、まさにドライバーとしての実力証明の絶好のアピールとなる。

「来年、もしチームが変わるとなったらそれはカッコイイなと思いますけど、まだ来年、TEAM MUGENで2連覇を狙う可能性もありますし、別のチームに行っても速く走れればもちろんチームの力もありますが、どこのチームに行っても速ければドライバーとしての価値も上げられると思います。いずれにしても2連覇の権利を持っているのは僕だけです」

 その先にもう一度、F1へ挑戦する気持ちはあるのか。

「当然、F1に行きたいと手を挙げたわけですし、乗りたいと言った身なので、F1に行きたいですと言い続けていればチャンスはあるかもしれない。F1を諦める時期が明確にあるわけではないですからね。ただ、自分の立場とポジションを踏まえて言うと、言い続けるにはやっぱりタイミングが遅い」

■改めて2019年シーズンについて語る山本。そして、今後のF1挑戦について

 F1のレギュラー参戦は厳しいかもしれいないが、F1マシンをドライブする機会、テストでF1を体感できるチャンスは広がった。

「もちろん、特に来年はすごく大事な時期だと思っています。F1のレースとなるとレギュラードライバーがいますが、レギュラードライバーに何があるか分からないですし、テストの機会やFP1などでチャンスがあるかもしれない。来年、何かあるかもしれないので、そういう状況になってもすぐに対応できるような準備や、いつチャンスが来てもいいように身構えておく必要があると思うし、身構えていられる状況にあるので、来年は今までにないシーズンになると思っています」

「F1に乗れるなら、レーシングドライバーならばみんな乗りたいと思います。速いマシンに乗りたくてしょうがない人間なので(苦笑)、当然、乗りたい。でも、やっぱりそうも言えない状況であるのもよく分かっているし、そう簡単ではないことも分かっています。F1に乗るために強い意志と行動をしないと届かない世界だというのも重々、承知しています」

「F1だけでなく国内でも来年は2連覇の可能性を自分だけが持っている状況なので、来年はいろいろな大きなものを抱えているので慎重に考えたいですけど、やっぱり夢は常に持ち続けたいですし、夢を持ち続けられる幸せを今は感じています。今はすごく楽しいです」

 トロロッソ・ホンダの2019年のラインアップ決定は実質、F1チームの中でもっとも遅かった。その背景にはレッドブルの若手ドライバーが不足しており、一度解雇を決めたクビアトを引き戻し、レッドブル・ジュニア時代に放出を決めたアルボンを再雇用したことでも明かだ。

 F1は何が起きてもおかしくない世界。2019年のシーズン中に山本の名前が再び挙がる機会がある可能性もあるだろうし、その先の2020年シーズンに向けては、先日スーパーフォーミュラ参戦が発表されたレッドブル・ジュニアのダニエル・ティクトゥム、ルーカス・アウアーがトロロッソ・ホンダのシートを巡っての山本の直接のライバルとなる。2019年シーズンもまた、山本がさまざまな意味で注目される1年になりそうだ。