2018年12月06日 10:12 弁護士ドットコム
大人になって知った、野球の新しい楽しみ方。球場で飲むお酒(特にビール)のことだ。試合中は、最大10kg以上もするサーバーを背負い、何人もの売り子が声を張り上げている。売り子次第で、売上は大きく変わるのだという。
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現代ビジネス(11月20日付)に、ジャーナリスト・岩垣良子さんによる、元売り子のインタビューが掲載されていた。相手は、年間2万4000杯の販売記録を持つ、ほのかさん。現在はモデル・タレントとして活躍している。
記事によると、売り子は本人の個性や体力などで、担当エリアが振り分けられる。ほのかさんの持ち場は、1塁側のシーズンシート。常連客が多いため、まずは名前と特徴を覚えていった。
そのほか、髪型をポニーテールにする、ビールを注ぐ際につく片方の膝にサポーターをまく、などの工夫で知名度とファンを獲得していったそうだ。
一方、本人のコメントに気になる記述もあった。「風でお金やカップが飛んでしまうこともあるんですが、カップの数とお金がズレていると、カップ1個700円がバイト代から引かれてしまう」という部分だ。
球場のお酒は現金払い。売上金とカップの数を照らし合わせ、不正を防ごうとするのは理解できる。しかし、カップやお金が足りないからといって、自動的にバイト代から引いても良いのだろうか。
労働問題にくわしい太田伸二弁護士は「この話が事実なら、『全額払いの原則』(労働基準法24条)に違反すると考えます」。
「本部側としては『売上よりも多くカップが減っていることから、その分、売上を盗んだり、知人にタダでビールを渡したりしている可能性がある』として、損害賠償の意味でアルバイト代からビール代相当を引いているのだと思われます。
しかし、仮に損害賠償請求権が成り立つのだとしても、『全額払いの原則』があるため、損害賠償分を差し引いてアルバイト代を支給することは許されません。賃金は生活の基盤なので、労働者が確実に受領できるようにしなくてはならないのです」(太田弁護士)
とにかく、まずは全額を渡さないといけないようだ。
では、賃金全額をアルバイトに渡したとする。そのあと、不正の証拠もないのに、本部がカップ分の返金を求めるのは可能なのか?
「人を雇って事業を営んでいる以上、その人が一定程度ミスをすることは折り込んでおかなければなりません。労働者の軽微な不注意による損害については、損害賠償請求が認められないとされています。
一方、重大な過失や故意であれば、損害賠償が認められます。言い換えれば、『売上を盗んだ』とか『タダでビールを渡した』ような場合でなければ、ビールの売り子に『アルバイト代を返せ』とは言えません。
ビールの売り子がカップを無くすことは、よほど大量でもない限り、軽微な不注意によるものと言えるでしょう。本部側がカップを無くした売り子に対して損害賠償請求をしても認められないと考えます」
ちなみに、こうした理由で返金させられたアルバイト代は、取り戻せるかもしれない。
「本件に限らず、アルバイト代から損害賠償分を差し引くことは労働基準法違反の可能性があります。時効は2年ですから、辞めてしまっていても諦めず、労働基準監督署や労働問題に取り組む弁護士に相談していただきたいと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
太田 伸二(おおた・しんじ)弁護士
2009年弁護士登録(仙台弁護士会所属)。ブラック企業対策仙台弁護団事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、日本労働弁護団全国常任幹事。
事務所名:新里・鈴木法律事務所