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クイーンのDNAは時代を越えて受け継がれる 岡崎体育、ビッケブランカら日本アーティストへの影響

2018年12月05日 20:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画『ボヘミアン・ラプソディ』の勢いが止まらない。本作は70年代にイギリスで結成され、伝説のバンドとして音楽史にその名を残すクイーンと、フロントマンを務めた故フレディ・マーキュリーの生き様を描いた伝記ドラマ。12月3日時点で全世界累計興行収入5億ドルを突破しており、日本国内の成績としても12月1日には世界第3位にランクインしたと報じられた(参考:『ボヘミアン・ラプソディ』超ヒット、全世界で5億ドル突破へ ― 日本、海外興収第3位にランクイン)。極めて関心が高いのがわかる。もとより日本での人気は高いバンドであったが、劇場に駆けつける観客は往年のファンのみならず、本作で初めてクイーンの楽曲に触れたという若者にも広がっており、まさに世代を超え“クイーン旋風”が巻き起こっていると言っていい。一方でクイーンというバンドは、現在J-POPシーンで活躍するアーティストにも根強い影響を与えてきた存在だ。ここではそんなクイーンのエッセンスが感じられるアーティストをご紹介しよう。


参考:ビッケブランカ『けもなれ』、宇多田ヒカル『花晴れ』……2018年、高まる“ドラマ挿入歌”の存在感


■岡崎体育


 先日放映されたNHK総合の音楽番組『SONGS』での「クイーン特集」にも出演した岡崎体育。クイーンのドラマーであるロジャー・テイラーの追っかけをしていたという筋金入りのクイーンファンだった母の影響で、岡崎は幼少期よりその楽曲に親しんでいたという。持ち味でもある打ち込み主体のサウンドメイクこそクイーンとは真逆にも思えるが、本人が番組中で語っていたように“Aメロ→Bメロ→サビ”のような“型”にとらわれない楽曲構成にはクイーンらしさがにじむ。たとえば映画のタイトルにもなったクイーンの「Bohemian Rhapsody」はオペラやバラード、ロックと1曲の間にさまざまな表情を見せる曲として知られているが、岡崎の1stアルバム『BASIN TECHNO』収録の「FRIENDS」は、ほのぼのとしたテクノポップが一転激しいトランスに移行する異色の楽曲。幼い頃より耳に馴染んだクイーンの音楽が発露した瞬間だったのではと想像する。


■ビッケブランカ


 先日1年4カ月ぶりとなる2ndアルバム『wizard』をリリースしたばかりのビッケブランカも、大いにクイーンの影響が感じられるアーティストだ。特に顕著なのが、メジャー移籍後初のミニアルバムのタイトルリード曲だった「Slave of Love」。軽快なピアノをベースに徐々に盛り上がりを見せていく演劇的なアレンジしかり、特有のファルセットボイスを駆使したコーラスワークしかり、「Killer Queen」や「Bohemian Rhapsody」に多大な影響を受けたことがうかがえる。最新アルバム収録曲「Winter Beat」でも、イントロのシンフォニックサウンドから流麗なピアノへと軽快に曲が進行しつつ、〈間違ってしくじって〉というDメロパートで曲調が変わって一気にドラマティックな展開になるなど、時代を越えて受け継がれるクイーンのDNAを感じられる。また、現在放送中のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)の挿入歌としてもオンエア中の「まっしろ」など、ピアノを主体にした美メロバラードはビッケブランカの得意とするところでもあり、ここにも楽曲の多くをピアノで作曲したフレディのソングライティングの手法と通じる部分がである。ミュージカル仕立ての遊び心あふれるMVなどは、もはや言わずもがな。先人たちの優れた音楽を柔軟に吸収しオリジナリティへと昇華していくスタイルこそ、ビッケブランカの真骨頂。クイーンと世代を超えて共鳴したアーティストであると言えよう。


■堀込泰行


 実兄である堀込高樹とのバンド、キリンジでデビューし、2013年の脱退後は精力的にソロ活動を続けている堀込泰行も、クイーンフォロワーのひとり。中学時代に聞いたクイーンを音楽の原体験と語っている。曰く「魔法的なサウンドやコーラスの重なり。音楽なのに頭の中に抽象的な映像のようなものが浮かぶ。そんな体験をしたのは初めてだった」(参考:音楽ナタリー 「ボヘミアン・ラプソディ特集」)。また、クイーンと出会ってから、どんなジャンルでも積極的に音楽を楽しむことができるようになったとも。ソロとしてリリースした『GOOD VIBRATIONS』ではD.A.N.やtofubeatsといったジャンルも世代も違うアーティストとコラボし、最新アルバム『What A Wonderful World』では蔦谷好位置、田中潤をプロデューサーとして迎えるなど、新しいものを取り入れて自身と自身の音楽を更新していく堀込泰行。良質なポップミュージックを紡ぎ、同業者からの信頼も厚い彼の創作の原点にもまたクイーンがいる。


■THE ALFEE


 クイーンのムーブメントをリアルタイムで享受し、その音楽性を自らの中にも取り込んでしまったアーティストと言えばTHE ALFEEだ。特にメンバーの桜井賢は、ジョン・ディーコンに憧れてベーシストを目指した経緯の持ち主。かつてライブで「We Will Rock You」や「We Are The Champions」といった楽曲のカバーを披露し、ファンを熱狂させたこともあった。例えば1996年にリリースされたオリジナルアルバム『LOVE』収録曲「CAN’T STOP LOVE」に見える、THE ALFEEの代名詞とも言える重層的なコーラスやシンフォニックなサウンドは、まさに日本版「クイーン」と言っても過言ではないほど。フォーク、ハードロック、プログレとあらゆるジャンルに精通し、独自の世界観を築いている点もクイーン的と言える。


■サカナクション


 現代の日本の音楽シーンの最先端をいくバンド、サカナクションにもクイーンの影響を受けて制作された楽曲がある。2008年に発売されたアルバム『NIGHT FISHING』に収録されている1曲で、タイトルは「ナイトフィッシングイズグッド」。ボーカルの山口一郎いわく「クイーンっぽい曲を作ろうと書き始めた曲」だそうで、「Bohemian Rhapsody」へのオマージュがそこかしこに表れている。一部同じギターリフを使用しているほか、バラードからいきなりのダンスミュージックへの転調、オペラティックな合唱パートと変化に富んだ6分半は、まさに「Bohemian Rhapsody」そのもの。曲とともにストーリーが進行するような歌詞にも注目したい。


 映画の中では「Bohemian Rhapsody」や「We Will Rock You」がどのように誕生したか、楽曲制作の裏側に迫る描写もある。フレディの類稀な音楽センスにメンバーそれぞれの個性が同調し、曲が生まれ、それがライブで観客を魅了していく様は鳥肌が立つシーンのひとつだ。音楽作りに対する自由な発想、そしてそこから発せられるエモーショナルで唯一無二のサウンド。クイーンの多彩な魅力は、今回の映画で改めて多くの人の知るところとなったであろう。そしてそれは今、彼らの影響を受けたアーティストたちによって、ここ日本でも脈々と受け継がれている。おそらく今後も多くのフォロワーを生みながら、永遠に愛され続けていく違いない。(渡部あきこ)