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ホンダRC213V+ロレンソがテストで見せた想像以上のパフォーマンスとは/ノブ青木の知って得するMotoGP

2018年12月04日 18:11  AUTOSPORT web

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早い段階から高いパフォーマンスを見せたホルヘ・ロレンソ(レプソル・ホンダ・チーム)
スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第16回は、11月に行われたバレンシアテストとへレステストで見えた各メーカーのテスト状況や注目の新人ライダーについて。2018年中に行われた2回のオフィシャルテストを青木はどう見ていたのか。

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 いやぁ、驚きました! ホルヘ・ロレンソ(レプソル・ホンダ・チーム)、ヘレステストで4番手ですよ!! ロレンソ+ホンダRC213Vというパッケージ、2019年シーズンには想像以上のパフォーマンスを見せるかもしれない……! 気が早すぎる予想ですが(笑)、走りっぷりに自信がみなぎってるんだよね。

■ロレンソの要望に素早く対応したホンダ
 ドゥカティに移籍した時は苦しみに苦しんだロレンソ。「ホンダへの移籍ではそれほど苦労しないだろう」と思ってはいた。でも、ここまで早い段階から高いパフォーマンスを見せるとは本当にオドロキ! 現時点では明らかに乗りやすそうにRC213Vを走らせているし、コーナリングスピードを究極まで高める彼のスタイルとも意外なほどマッチしている。

 ホンダとしても、最高峰クラスで3度タイトルを獲っているロレンソを迎えるにあたり、かなり気合いが入っているようだ。ホンダはここ3年連続でチャンピオンを獲得してはいるが、すべてマルク・マルケスによるもの。つまりはマルケスの独り相撲だ。ホンダは“RC213Vはマルケスじゃなくてもタイトルが獲れるマシン”と証明したいだろうから、ロレンソへの全面協力を惜しまないというムードが濃厚だ。

 その表れのひとつが、ロレンソが大いにこだわるタンク形状への素早い対応だろう。短時間で細かくタンク形状を変えてくるあたり、ホンダはライダーの“やる気スイッチ”を押すのがうまい。早くも深々としたバンク角で走っているロレンソは、間違いなく“やる気スイッチオン!”だ。

 ヘレステストをトップタイムで終えた中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)も、完全に“やる気スイッチ”が入っている。主には2018年シーズンにチームメイトのカル・クラッチローが走らせたマシンでテストして“開眼”した中上だが、マシンパフォーマンス次第でイケることを示したことは間違いない。ヘレスは中上、マルケス、ロレンソの1-2-4で、ホンダ好調を存分にアピールしたテストとなった。

■挑戦的なドゥカティ、新スペックエンジンを試すヤマハ
 ただ、トータルパフォーマンスではまだまだドゥカティに分があるように見受けられる。ヘレスではファクトリー入りしたダニロ・ペトルッチが5番手どまりだったが、ドゥカティのまとまりのよさは相変わらず。

 ついにはリヤウイングまで装着するなど、チャレンジングな開発も相変わらずだ。リヤウイングの効果のほどは正直なところまだ様子見と言ったところだが、開発に対するモチベーションはさすがに熱い。

 ヤマハはYZR-M1のエンジンをいろいろ試しているようだ。バレンシアテストでは新スペックのエンジンを2基持ち込み、主には“タイヤがタレてきた後にどうなるか”と、レース後半に焦点を合わせた検証を繰り返していた。

 エンジンスペックによって走りは異なる。コーナー出口で適度にリヤのホイールスピンが止まり、いち早くマシンを起こして加速できるような仕様もあるようだ。ちなみにこれは電子制御とは関係のないエンジンの“素”の部分の話。YZR-M1、戦闘力が高まっているのは間違いない。

 ただ、ちょっと気がかりなのはマーベリック・ビニャーレス(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)が“ノリノリモード”になっていることかな。彼は今、“何に乗ってもイケる”状態。このままマシンを作り込んでいくと冷静な判断を見誤り、シーズンが始まってから苦労する可能性がある。ここはドクター、バレンティーノ・ロッシ先輩の結果を重視しておいた方がいいような気がする……。

■青木宣篤が注目の新人ライダーたち
 新人の注目株は、Moto2チャンピオンを獲得し満を持してステップアップしてきたフランセスコ・バニャイア(アルマ・プラマック・レーシング)だ。

 テストの順位としてはさほど目立っていないが、とにかく走りがスゴイ。新人とは思えないほどしっかりと荷重をかけられている。ひとことで言えば、巧い。バレンティーノ・ロッシの進化版という感じかな。

 もうひとりはジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)。彼は21歳とは思えないほどの賢さで、しかも“レース一筋!”というストイックさだし、とにかくマジメだ。体をグッと落とすMotoGPらしい走りもすぐにモノにしている。

 ファビオ・クラルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)も面白い。天才肌という点ではスズキのアレックス・リンスとよく似ているんだよね。なぜだかよく分かんないけど、速い(笑)。

 彼ら新人が来シーズンに活躍できるかは、正直なところ分からない。MotoGPでは、1発のタイムよりもレース全体を通してタイヤをうまくマネージメントできることの方が重要。それができるかどうかは、経験によるところが大きいからだ。

 新人勢がベテラン勢にすぐ太刀打ちできるかと言えば、正直、かなり難しいだろう。ただ、面白いメンツが揃っていることは確か。ニューカマーたちにもぜひ注目してほしい!

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■青木宣篤
1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。