2018年12月04日 09:52 弁護士ドットコム
職場のみんなでいく「社員旅行」。高い料金を払って、休みの日も仕事仲間と一緒ということに抵抗を感じる人もいるでしょう。弁護士ドットコムにも「社員旅行は断れるのでしょうか」という相談が寄せられています。
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相談者の勤務先では、社員旅行は「研修旅行」という名目になっており「強制参加」です。2年に1度の開催に向け、月給から5000円が自動的に積み立てられ、10万円弱の出費になるといいます。
強制参加の社員旅行は問題にならないのでしょうか。もしも断れないのであれば、「仕事」扱いにはならないのでしょうか。金井英人弁護士に聞きました。
「まず、社員旅行が専ら会社の親睦のために行われるのであれば、それに参加するかは原則として各人の自由です。参加しない従業員に対しては、積み立てた旅費を返還することになるでしょう」(金井弁護士)
ーー今回の相談では、「強制」とされています。
「社員旅行への参加が強制されるケースとして考えられるのは、(1)『業務命令』として参加を命じられる場合と、(2)業務命令はなくとも事実上断ることができないという場合です」
ーー「業務命令」での社員旅行とはどういう状況が考えられますか?
「(1)のようなケースとして、実際に旅行先で研修や業務を行う場合が考えられます。そうした旅行は業務にあたり、原則として従業員はこれを断ることはできませんし、断れば業務命令違反に問われる可能性もあります。
ただし、会社の指揮監督のもとで研修や業務を行うのですから、これに参加している時間は『労働時間』にあたり、賃金(給料)が発生することになります。会社は、業務命令として従業員に参加を命じておきながら賃金を支払わないとなると、労働基準法違反になりかねません」
ーー「せっかくの休みの日を潰された」と思う労働者もいます。
「こうした旅行が会社の休日に行われたり、通常の業務時間を超えて行われたりする場合、時間外労働や休日労働となりますので、そうした業務を行わせるには労使間で36(サブロク)協定が結ばれていることが必須ですし(労働基準法36条)、割増賃金も支払われなければなりません。
なお、研修旅行だとしても、食事などの懇親会や宿泊の時間については業務にはあたりませんので、これらへの参加については自由参加ということになります。つまり、懇親会や宿泊に参加せずに帰宅するという選択をすることも本来自由ということです」
ーーなるほど。とはいえ、(2)とも関連しますが、その時間だけ抜け出すのは容易ではなさそうですね。
ーー現実的には、社員旅行の参加を事実上断れないという状況が多いと思います。
「(2)のようなケースについては、業務ではなく親睦を深める目的の旅行であれば、本来自由参加ですし、労働時間として賃金が発生するということは考えにくいです。
しかし、このようなケースは背景にハラスメントが存在することが多く、事実上参加を強制するような言動が上司から部下に対して行われるケースなどが考えられます」
ーー思い当たる節のある人も多そうです。
「事実上強制されて社員旅行に参加し、旅行中にも上司等から不当なハラスメントを受けるということもあり得ます。そのようなハラスメントが横行する職場環境には問題があると言わざるを得ません。使用者としては職場環境配慮義務違反を問われぬよう、厳に注意する必要があります。
ところで、給料から天引きする方法で旅費を積み立てることについても法律で当然に認められるものではありません。給料から旅費を天引きすることを労使間で協定を結んでいなければ労働基準法24条違反となりますので、注意が必要です」
ーー社員旅行1つとっても、いろんな法律上の論点があるんですね。
「社員旅行は大勢が参加したほうが親睦も深まりますし、楽しいことには間違いありません。それを強制するのではなく、誰もが自発的に参加をしたくなるような魅力的な社員旅行を企画することこそが大切といえるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
金井 英人(かない・ひでひと)弁護士
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人名古屋法律事務所
事務所URL:http://www.nagoyalaw.com/