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ヒトリエが『BORUTO』EDテーマで掴んだ新境地「メンバーとお客さんありきの孤独に踏み込めた」

2018年12月03日 14:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 約1年ぶりのリリースとなるニューシングル『ポラリス』を完成させたヒトリエ。アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』(テレビ東京系)のエンディングテーマとなっている表題曲「ポラリス」は、ストレートなメロディとアレンジに乗せて、孤独を抱きながら信じる道を突き進む主人公の姿を描いたシンプルで力強い楽曲だ。


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 2016年のアルバム『IKI』、そして2017年のミニアルバム『ai/SOlate』を作り、初の海外公演も含めたライブを繰り広げる中で、彼らは大きな転換期を迎えていたように思う。それは“ボーカロイドシーン出身のwowakaによるバンドプロジェクト”という背景を肯定し、それを乗り越えて進化しようとするプロセスだったともいえる。


 今回のシングルにはボカロ曲としてリリースされていたwowakaのソロ曲もヒトリエver.として収録されている。それが象徴するのは、まっさらな地平に立ち新たなフェーズに向かっている彼らの“今”だ。今作に至るヒトリエの物語を、4人にとことん語ってもらった。(小川智宏)


■「『IKI』を経て、素直に言葉を出せるようになった」(wowaka)
ーー昨年12月のミニアルバム『ai/SOlate』以来、久しぶりのパッケージでのリリースとなります。2018年、ヒトリエにとってはどういう時間でしたか。


wowaka(Vo/Gt):去年のちょうど今頃、『ai/SOlate』を作って。今年はそのツアー(『ヒトリエ UNKNOWN-TOUR 2018 “Loveless”』)を1月から4カ月くらいやっていたんですけど。その『ai/SOlate』というアルバムでボーカロイドの曲を6年ぶりくらいに作ったんですね。


ーー「アンノウン・マザーグース」ですね。


wowaka:そう。そこで、自分の思っていることとか感じていることとか、人だったり、モノだったり、ボーカロイドだったり、バンドだったり、自分たちのライブに来てくれる人だったり、そういう相手に対して言いたいことや伝えたいことが明確に定まったというか。そういう作品のツアーをやっている中で、それがやっと頭だけじゃなくて実感として、心と体とで「こういうことなのかもしれない」と分かってきたような感じがあったんです。


ーーうん。


wowaka:それと、『Loveless』ツアーの東京公演が終わったあとに台湾と上海でワンマンライブを初めてやって。僕はもともと言葉のもつ支配力というか、意味とか機能っていう側面にイライラしているところがあって。その言葉を選んでしまったがゆえに自分が思っていたのとは少し違って伝わってしまう、みたいなことが生きているといくらでもあるじゃないですか。でも、そんな中で母国語が違うところに初めてライブしに行って、自分たちの音楽と歌とでお客さんが飛び跳ねたり、笑ったり泣いたりしてくれる様子が、すごく良い経験だったんですよ。そういうことが自分の活動で起きるなんて想像してなかったので。


ーーうん。


wowaka:それで自分のこのモードを伝えるべくどうすればいいのかも分かり始めたんですよね。そういう中で今回『BORUTO』のエンディングテーマというお話をいただいたので、モードとしては自分の中で曲を書く機会としてぴったりでした。


ーーなるほど。メンバーのみなさんはこの1年くらい、どういうふうに感じながらやってきました?


イガラシ(Ba):前作を出して、年明けからツアーだったんですけど、以前とは違う音の出し方に取り組み出して。だから右手のことばっかり考えてました。ようやく最近実を結んできたかなという感じですね。


ーーそれは意識的に演奏の仕方を変えようと思って変えたんですか?


イガラシ:そうです。ツアー中にローディーさんから「こうしたほうがいいよ」と言われて。俺、そういうこと言われるといったん素直に実践してみようって思うんですけど、それがすごいハードな内容だったんで結構時間がかかったという。だいぶ実を結んできたんで、早くもう1回そのローディーさん来てくれないかなって(笑)。見せたくてしょうがない。


ーーそれによって出音、変わりました?


イガラシ:変わりました。変わったと思います。完全に変わりました。


シノダ(Gt/Cho):変わって良かった。いや、本人がね? 変わったんだって実感を持っていることがーー。


イガラシ:自分で思えることが大事だからね。


wowaka:でも本当に演奏がすごい良くなったんですよ。ツアーの最後のほうぐらいかな、ツボにハマってきてるなっていう。


ーーゆーまおさんは?


ゆーまお(Dr):3月にツアーを終えたあたりで、ヒトリエのライブとしてようやく「伝わっている」実感を具体的に得たんですよ。「ノリノリで終わる」とか「楽しかったね」とかじゃなくて……そういうのもあるけど「自分たちはこういう演奏して、こういうことを歌って、こういうライブをパフォーマンスしてるんですよ」っていうのに対して(お客さんが)「分かりました」みたいな。そういうコミュニケーションがちょっとずつ芽生えてきて、良い感じだなって思って。


 でも、そうやって自分の演奏に対するアプローチがかなり具体的になってきたところで、それができることは当然であって、その上で「ゆーまおのドラムって何なんですか?」って自問したときに自答できなかったんですよ。練習いっぱいしてどうのこうの、というのとは全然違う感じがしていて。練習いっぱいすればできることがたくさんあるのは、もう分かってるんですよ。だから、何なの? って思って。全然、言葉にできないし、こういうことを今思ってますというふうには言えないんですけど、それがようやくぱっと見えて「分かった」って自分が実感できる状態に演奏が開けたというか。


wowaka:それ、本当に最近の話ってこと?


ゆーまお:ほんっとに最近の話。ここ1、2カ月くらいの。だから、結構悩んでました。


ーー「伝わる」という実感が得られたからこその葛藤や悩みという感じもしますね、話を聞いていると。


ゆーまお:そうですね。だから、もうちょっと物事に対して素直に感じて、自分の感覚に置き換えればいい、と思えるきっかけを掴んだのが3月だったんでしょうね。


ーーシノダさんはどうですか?


シノダ:うーん、マンガを描いたりとかしてましたね。マンガばっかり描いてた気もしますし。夏にかけては毎日4コマを描いたりしてたので。


wowaka:ほんとにマンガの話しかしないんだ(笑)。


シノダ:どうしたらウケるのかなって考えながら、とりあえず描いてたんですけど、大してウケもせずに終わりましたね……。「コレなんじゃねえかな?」みたいなのが2、3個くらいあったんですけど、そのうちネタが出てこなくなって、やめました。秋になって気分も落ちて(笑)。


イガラシ:たしかに、それでギターすごくよくなったよね。


シノダ:分かる?


イガラシ:分かる。それを経て、考えてたんだろうなって。


シノダ:別に、そんなうまいところに落とし込まなくてもいいんだけど。


wowaka:(笑)。いや、でも絶対あるからね。


シノダ:マンガを描いていく上で「キャッチーなほうがいいんだろうな」みたいなことを考えるんですよね。「ウケてるものなんてみんなクソだ」みたいに思ってきたけど、その中にも自分が良いと思ってきたものがあるわけで。そういうのを吐き出しながらも、おもしろがってもらえるものは作れないのか。これは常日頃考えているんですけど、それをマンガに落とし込んで集中してやったら……まあ、やっぱりウケませんでしたよね。それに飽きて、最近俺ギター練習してる(笑)。


ゆーまお:いいじゃないですか。だから良くなったんだよ。


ーーそれだとギター練習したから良くなったっていう、当たり前の話になっちゃう。


全員:(笑)。


ーーまあ、それぞれにいろいろなことを考え、悩みつつ、今に至っているということで。でも本当に、『ai/SOlate』とその前の『IKI』は、それまでのヒトリエの物語からいろいろなことを整理したり、ケリをつけたり、次に向かうための準備、転換を図る時期だったのかなと思うんですね。それを経てこの「ポラリス」に辿り着いている、と聴いていると強烈に感じるんです。


wowaka:『IKI』を作って、「ようやく人として世界と向き合うことができるようになったな」と思ったんですね。自分の中で「この、存在している俺本体とは何ぞや?」っていうのがこのバンドを始めた1個のきっかけだったんですけど、そこに対して感覚とか肉体が追いついてくるのに時間がかかって。周りの人とか見てると10代を経て20代になる時に通るプロセスのような気がするんですけど、俺はたぶんそれを逃し続けたままで。なぜならインターネットにいってしまったから(笑)。自分の中でそこに対して体が追いついてないな、と感じながら生きてきたんですね。でも『IKI』の時に「そういう自分も、今まで頑張って生きてきたじゃないか」という思いに至って、比較的素直に言葉を出せるようになったんです。


ーーまさに『IKI』はそういう作品でしたよね。


wowaka:それを経て、自分の音楽的原体験であるボーカロイドに改めて向き合って『ai/SOlate』を作って。この体で、そういう状態になった自分をどう出せばお客さんが感じてくれるのかとか悩んで。でも、さっきのゆーまおの話ともつながるんですけど、俺もライブが良くなったな、って感じた瞬間があって。『Loveless』ツアーの福岡でライブをやったときにステージの上でハッとなって、「こういうことだ!」ってすべてが理解できたような。たぶん俺、その日のその瞬間を境にライブがめちゃくちゃ良くなってるんです。


イガラシ:ツアーが進むうちに、最後のほうはずっと「最近リーダーが良いから、それが伝わるようにしたい」みたいな話はしていましたけど、福岡でそんな天啓が降りてきていたとは。でもライブが良くなってきたのは感じてた。


■「『BORUTO』じゃなかったらこういう曲になっていない」(wowaka)


ーーそんな中で、「ポラリス」はどういうイメージで作っていったんですか?


wowaka:少年マンガって主人公がいるじゃないですか。独りぼっちで、でも世界に対して諦めていなくて、自分の中で大事にしているものがあって。それを探していくと、やっぱり独りぼっちの真ん中があるんだけど、それだけではいられない。大事にしたい人がいて、頼らないといけない人がいて、頼ってくれる人がいて。そういう、心の箱から漏れているキラキラしているものに対して曲を作り続けている感覚は自分の中にもずっとあって。あ、これは少年マンガと一緒の部分だって気づけたんですよ。それをきっかけに作りました。


ーーこの曲にも〈ひとりきりでも続く生〉という歌詞が出てきますけど、孤独ってヒトリエの表現のベーシックにずっとあるものだと思うんです。でも今回「ポラリス」で歌っている孤独って、これまで歌ってきたものとは微妙に違うような気がします。


wowaka:やっぱり、人と関わろうとすればするほど、向き合わなければいけない自分がどんどん深くなってくると思うんですよね。ちゃんと自分でモノを作って、歌を歌って、お客さんの前に立って、っていうことをずっと続けてきて、「あ、こういうことかもしれない」と分かった自分だから出会えた「もっと向き合わなければいけない自分」があったんです。そういう意味で、メンバーありきの孤独、お客さんありきの孤独に初めて踏み込めたのかもしれません。


ーー言葉もタフだし、アレンジもタフだし、言い換えればものすごくシンプルに感じる。


イガラシ:制作している時期に(wowakaの)様子を見ていたら、わりと閉じこもっている時期なのかな、って思ってたんですよ。今まではそういうときに出してくる曲って、ダークな方向に突き抜けた感じの曲が多い印象だったんですけど、この曲はそうじゃなかったから「あ、変わったな」という感じはありました。


ーーたしかに、曲の本質としては孤独だし、1人で進んでいかなきゃいけない厳しさとか痛さみたいなものがテーマになっていて。ダークな方向に振り切ってもおかしくないですよね。もしかしたらそれは『BORUTO』が着火剤になって逆方向に振れたのかもしれないですね。


wowaka:うん、絶対そうですね。やっぱり『BORUTO』じゃなかったらこういう曲になっていないですからね。


シノダ:なんか、不思議な曲だなと思うんですよね。サビのメロディが僕はすごく好きで、ささやかなメロディというか。ガツンとぶん殴るようなメロディじゃなく、メロディがあって、そこに伝えたい言葉を乗っける、作りがすごくきれいだなって。その横でめちゃめちゃシンプルなギターを弾くんですよ、僕は。それがなんか良いなあって思って。


ーーそんな「ポラリス」に対して、一見正反対の感覚があるのがカップリングの「RIVER FOG, CHOCOLATE BUTTERFLY」ですが。


wowaka:「ポラリス」の1カ月くらい後にできたんです。


シノダ:ぶったまげましたね、この曲。「これ、これ、これ!」っていう。


wowaka:両極端にしたいと思って作った感じでもないんですけどね。イガラシにも言われていたのが、僕、この時期にインドに行ってるんですよ。だからそういうのも影響したのかなって。違うところに行って、自分の孤独みたいなものに向き合って、何か肌で感じて出てきた側面というか。


イガラシ:デモをもらって歌詞を読んだときに、完全にインドの曲だと思いました。


wowaka:だからこれは、ガンジス川でバタフライをする曲なんだよ、きっと(笑)。


ーーただ、「ポラリス」も“俺とあなた”という関係性の歌だし、「RIVER FOG, CHOCOLATE BUTTERFLY」もそうじゃないですか。通じる部分はあるなと思います。


wowaka:あ、そうですね。それも本当、『ai/SOlate』からの流れで言えるようになったんです。


ーー〈泥の中/ふたりでバタフライをしたい〉というのも相手とのコミュニケーションだし、すごくエロティックですよね。


wowaka:ああ、なるほど! そういう感じもあるのか。


ーー一方、「日常と地球の額縁」も収録されるというのもトピカルですよね。wowakaとして発表していたボーカロイド曲をヒトリエとしてもう一度やるというのは、「アンノウン・マザーグース」もありましたけど、過去曲をやるというのはまたニュアンスが違うじゃないですか。


wowaka:これは、『ai/SOlate』をリリースして、ツアーをやることになって、そのリハの時に突然やろうってことになって。


シノダ:ボカロ曲を何か1つやろうか、っていう話になったのかな。


wowaka:これまでもライブの中で「ワールズエンド・ダンスホール」とか「ローリンガール」をやるっていうのはあったんですけど、この曲がねえ……ボーカロイドでアルバム(『アンハッピーリフレイン』)をリリースする時に、最後にできた曲なんですね。自分を絞って絞って書いた、最後の一滴みたいな曲がこれなんですよ。だからこの曲を作っていた時の思い出と、この曲に対してもっとできることがあったんじゃないかっていう思いとで、一種のトラウマみたいになっていたんですよね。目を背けてたというか、どう付き合ったらいいか分からなくて。でもシノダが「そろそろいいんじゃねえ?」って提案してくれて。


シノダ:僕はもともと彼のアルバムの中でもこの曲が好きだったんですよ。異様な立ち位置にある曲で、妙な存在感があって。このバンドに入ることになって、この曲ライブでやれるのかなと思ってたら跳ね除けられて(笑)。それで定期的にアプローチしていたら、ようやく実った。彼はついにやるモードになったんや、って。


wowaka:最初はちょっと遊び感覚みたいな感じで合わせてみたんだよね。そうしたら「良いんじゃない?」ってなって。それでツアーで人前で演奏して歌って、すごく新鮮な気持ちで、改めてこの曲に出会えた感覚があった。1個のボカロ曲として、というよりは、今の自分たちを象徴するような曲として、これをシングルに収録するのはめちゃくちゃ自然だなと思えたんですよね。だから“ボカロの曲をヒトリエでセルフカバーしました”という感覚ではないんですよ。


シノダ:ツアーを通して鍛え上げてきたからね。


ーー聴いていてもそういう感じはしないですよね。自然に3曲目に収まっているというか。


wowaka:そう。ヒトリエを始める直前の曲なので、ヒトリエのプロトタイプというところもあるんでしょうね。


ーープロトタイプと最新型が自然に同居するシングル、というのは良いですね。次のフェーズのスタート地点として。


wowaka:うん。今こういうフェーズに立って、次は何をしなきゃいけないだろうかというのはちゃんと向き合って、戦っていこうと思ってますね。


(取材・文=小川智宏)