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唐沢寿明、50代でトリックスターの魅力を開花 『ハラスメントゲーム』“昼行灯”の主人公から考察

2018年12月03日 13:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 月曜夜22時から放送されている『ハラスメントゲーム』(テレビ東京系)は、大手スーパー・マルオーホールディングスのコンプライアンス室の室長に赴任した秋津渉(唐沢寿明)を主人公とするドラマだ。


 コンプライアウンス室には、セクハラやパワハラを筆頭とする社内で起きる様々なハラスメント(嫌がらせ)の相談が持ち込まれる。秋津は唯一人の社員・高村真琴(広瀬アリス)と顧問弁護士の矢澤光太郎(古川雄輝)とともに、事件の調査に乗り出すのだが、やがて事件の背後に、社内の派閥闘争をめぐる陰謀が絡んでいることに気づいていく。


 脚本は『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)や『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)で知られる井上由美子。チーフ演出は今年、映画『コード・ブルー』が大ヒットしている西浦正記。本作が放送されているドラマBiz枠は、『ガイアの夜明け』、『カンブリア宮殿』、『未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学』といったテレ東の経済番組のテイストを引き継いだ新設ドラマ枠だが、ポップな掛け合いの中に、ハラスメントという題材と社会風刺が混ざり込んだ批評性のある企業ドラマとなっている。


 物語は、昨年からの「#MeToo」運動の流れを受け継ぐようなドラマで、セクハラやパワハラの犠牲になる被害者女性も多数登場するのだが、問題はより複雑化しており、タイトルのとおり、ハラスメント自体が多種多様化し、まるでゲームのカードのようになってしまい、会社内でのコミュニケーション不全が起きている混乱自体が描かれている。そんなハラスメントの問題に挑む主人公が女性社員の高村ではなく、口を開くとハラスメント発言ばかり出てくる中年男性の秋津だというのが本作の面白さだろう。


 秋津は7年前に部下へのパワハラの嫌疑で富山支店に左遷され、スーパーの店長として働いていた。そんな秋津がなぜか社長に呼び戻されてコンプライアンス室の室長に命じられることが物語の発端だ。


 弁護士の矢澤は秋津のことを「昼行灯」と言う。昼行灯とは何を考えているかわからないぼんやりした人や役立たずという意味だが、物語の主人公を指して言う際には、何を考えているかわからないが、“実は”頭のキレる人物という意味が込められることが多い。その筆頭が『忠臣蔵』の大石内蔵助や『必殺シリーズ』(テレビ朝日系)の中村主水で、アニメでは『機動警察パトレイバー』(日本テレビ系)の後藤隊長などがそれに当てはまる。


 秋津は、普段は女房に頭があがらず、ハラスメント発言ばかりしては、厳しくたしなめられる。その意味で、ダメなおっさんに見えるが、実は誰よりも問題の本質を見抜いており、頭でっかちの高村や矢澤には思いつかないような大胆な方法と、人たらし的な交渉術で事件を解決してしまう。


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 こういう食えないおっさんを演じさせると、今の唐沢寿明はとても上手い。唐沢は現在55歳。1980年に東映アクションクラブの四期生となり、駆け出しの時代は『仮面ライダー』シリーズ等の特撮番組の脇役やスーツアクターをおこなっていた。その後、爽やか路線に舵を切り人気俳優となるのだが、トーク番組に出演した際の面白さは評判で、本人は三枚目の面白いキャラだ。


 その意味で、コメディを主戦場とするトリックスター的な役柄を得意とするアクション俳優となっていてもおかしくなかったのだが、三枚目を演じるには、若い頃の唐沢はハンサムすぎた。


 実際、当時の当たり役は『愛という名のもとに』(フジテレビ系)で演じた政治家を目指す代議士の息子や、『妹よ』(フジテレビ系)の大企業の御曹司役であり、クールでシリアスな二枚目役が多かった。2000年代なら『白い巨塔』、『不毛地帯』(ともにフジテレビ系)といった山崎豊子原作ドラマ、最近では2013年の『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)など、スーツが似合うクールな権力者が、唐沢のハマり役となっている。


 しかし、『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ系、以下ラストコップ)で、コミカルな刑事役を演じて以降は、二枚目と三枚目を横断するようなトリックスター的な役を演じることが増えている。


 おそらく、唐沢ほど、外見と内面の落差が大きい俳優は他にはいない。この落差が、演技における表現の振り幅の広さにつながっているのだが、おそらく本人は当初からコミカルな三枚目を早く演じたかったのだろう。その意味で『ハラスメントゲーム』で演じる昼行灯の秋津は、おじさんになった今の唐沢だからこそできた、新たなハマり役だと言える。


 最後に、唐沢にはアクションという武器もある。アクションとコメディができてカッコいいという三大柱こそが唐沢の魅力だが、それをそのまま反映した人間を演じると、超人になりすぎて、リアリティがなくなってしまうのが悩ましいところである。


 『ラストコップ』のようなコメディ作品ならそれでもギリギリ成立するのだが、もっとシリアスに寄せた作品で、唐沢の魅力が全部乗せとなった派手な物語も、いつか見てみたいと思う。


(成馬零一)