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少年院で働く法務教官のリアル「非常ベルはあまり鳴らない」「9回裏2アウトの人を変える仕事」【白熱ヤンキー教室レポ・後編】

2018年12月03日 07:11  キャリコネニュース

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中高卒者の就職支援を行うハッシャダイは11月24日、東京大学駒場キャンパスで「白熱ヤンキー教室@東京大学駒場祭」を開催した。東京大学の学園祭におけるイベントで、NPO法人Bizjapanとの共催となる。

イベントでは、中高卒の若者の現状と今後の可能性について考えるパネルディスカッションが行われた。登壇者は少年院で法務教官を務める安部顕さん、ラッパーの晋平太さん、ハッシャダイの勝山恵一さんの3人だ。

レポート前編では晋平太さんの「ラップの力」について伝えたが、後編は安部さんが語った「少年院のリアル」と、ハッシャダイ「ヤンキーインターン」のロールモデルとなった同社勝山さんを紹介する。

「罪が重いから少年院に入るわけではない。最後の犯罪が100円の万引きの人もいる」

少年院で法務教官として働く安部さんは、自身の仕事を「全寮制の小学校の先生みたいな感じ」と称する。安部さんは大学卒業後、東京都内で営業の仕事を行っていたが、転職し法務教官になった。

子どもたちは、7時起床21時就寝の生活を送るという。10時間の睡眠で、「太っていると痩せるし、ガリガリだと普通体型になる」そうだ。法務教官は、勉強や生活態度の指導、子どもたちの日記にコメントを書くなども仕事に含まれる。日記の内容は「普通」だというが、「こちらもコメントを書くので交換日記みたい。ラップ熱を語る子もいるので、こちらも韻を踏んで返したりしますね」と話す。

少年院と聞くと荒々しいことが起こることも多いのでは、と思われがちだが「あまり非常ベルはならないですね。暴行が起こると制圧もしますが今年は2回くらい」だという。少年院に対する世間の偏見や誤解については、

「少年院は保護処分。『このまま社会にいると悪いことを繰り返してしまうから保護しましょう』というもの。罪が重いから入ってくるわけではありません。殺人をした人もいれば、最後の犯罪が100円の万引きの人もいる。改善の余地があるのかどうかで、少年院出身=極悪人というわけではない」

と説明する。ただ「一般の人とは大きくかけ離れていることは事実」のため、退院後に偏見と戦い、就労に苦労している人も多いという。

「仕事のやりがいは、仮退院した人からいい報告を貰うこと。小学校中学校の先生たちが指導できなかった人、9回裏2アウトのような人を変える仕事なので、例えば九九が出来なかった子が1年で二次関数までできるようになるのを間近で見られるのは嬉しいです」

つらいことは当直だ。眠気もあるが、「時間ごとに巡回をしながら、日記や作文にコメントするんですけど、この時期寒いっていうか、痛い」と明かした。

「覚醒剤が普通のコミュニティだと覚醒剤が正義になる。だから若者の『移動』が大切」

ハッシャダイの勝山さんは、同社の「ヤンキーインターン」のロールモデルとなった存在だ。周りで「中卒小卒で『人生決まった』という人もいた」環境の中、自身もかつては非行を繰り返し、昼はパチンコ、夜はバイクを走らせ友人と遊ぶ毎日を繰り返していた。

しかし幼馴染だった同社代表の久世大亮さんから「営業をやらないか」と誘われ、その生活が変わったという。

「やりだすと4か月連続1位の売上を出せるようになりました。僕が出来るんだから、他の人だってできる。でも『自分には選択肢がない』という人が多い」

同社が営業やプログラマーを育成する「ヤンキーインターン」を実施するのは、こうした「選択肢がない」と尻込みする中卒・高卒者を支援するためだ。対象者の募集は主にネットやSNSを使っているが「沖縄の田舎町だと、Google検索の方法も、勉強の仕方も分からない人もいて、その人達に届いていないのが問題」という。

勝山さんは、少年院の仮出所後の再犯率が2割程度ということを受け、「少年院出身者って出所して2~3日はめっちゃ真面目」と自身の印象を語る。

「でも1週間経つと、また同じような価値観の仲間に染まって再犯することもある。コミュニティ依存ですね。例えば、覚醒剤をやることが普通のコミュニティだと、覚醒剤が正義になる。だから若者を『移動』させることが大切なんです」

ヤンキーインターンで「上京」が必須となっているのはこのためだ。現在はリゾート地で働きながらプログラムを受けられる「リゾートインターン」も実施している。

「就職が『絶対』ではないです。ヤンキーインターンの卒業生約300人の中には、今まで中高卒者に門戸が開かれていなかった企業に就職した人もいます。一方、選択数が増えたことで『やっぱり鳶職がしたい』と前職に戻る人もいる。人生を自分で選択できるようになるのを見ると、嬉しくなります」

安部さんも「地元の友だちで『こいつら高校生の時から何も変わってねえぞ』と思ったことがあります。前に進んでいない人のコミュニティから抜け出せるのは大切。『友達がいなくなる』のが怖いのは分かりますが、その覚悟が大切です」という。

中高卒者に限った話ではないが、やはり特に彼らには、「地元以外にも居場所はできる」と気付いてもらうことが重要だ。ハッシャダイでは今年9月、非大卒者の若者だけが利用できる「ハッシャダイカフェ」を作った。上京後の居場所を作りたかったためだそうだ。

「EXILEやDA PUMPが認められたように、彼らの頑張りに拍手することが大切」

最後に勝山さんは「(選択肢が増え、自己決定ができるようになり)内発的動機がしっかりしていたら離職率なども減るのではないか。だからこそ『Choose your life』という言葉を広げていきたい」と伝えた。

安部さんは「社会のレイヤーで言えば最底辺の子どもたちと付き合っている。加害者だということは分かっているけど彼らの持っている能力が落ちているわけではない」と述べ、倫理的問題もあるが「少年院出身だからといって英語を勉強してペラペラになる可能性がなくなるわけではない」と、彼らの可能性を信じていた。

「大学時代、塾講師のアルバイトを受けたら、ダンスをやっているだけで『クラブで踊っている人間はちょっと』と落とされたことがあります。非大卒の人が直面している状況はとても難しいけど10年経ったら変わる可能性もある。何が変えるかというと、人の拍手です。EXILEやDA PUMPというニューカマーが受け入れられたから、今では僕も教壇に立ったりできるようになった」

そのため「彼らのほんのちょっとの頑張りに小さくてもいいから拍手することが大切なんじゃないでしょうか」と主張した。

晋平太さんは「未来が変われば過去も変わる」と述べる。

「少年院出身って過去は変わらないけど、いつかくる未来の自分が、過去に満足していたら変わる。『少年院にいってたおかげでこうなれた』って思える。『現実』はひっくり返すと『実現』になる。眼の前にあることをひっくりかえせば夢を実現できる」

とコメントしていた。