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「増田セバスチャン×クロード・モネ」と音楽家 松本淳一らがコラボ 音のVRで進化した展示を体験

2018年12月01日 13:52  リアルサウンド

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 2018年7月から箱根・ポーラ美術館で開催されている『増田セバスチャン×クロード・モネ “Point-Rhythm World 2018 -モネの小宇宙-“』が、11月15日から“音のVR”によって進化を遂げた。筆者は「サウンドプロジェクト2.0 点音の森の宇宙」と副題がついた新たな展示の開催初日、同美術館を訪ねて実際に展示を体験したほか、増田セバスチャン、音楽家の松本淳一から展示への思いを聞いた。


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 ポーラ美術館に収蔵されているモネの不朽の名作「睡蓮の池」ーー増田セバスチャンが7月から展示しているのは、その作品からインスピレーションを受け、世界中から集めた素材を用いて、立体的空間の中で同作を体感できる展示だ。


 今回は「サウンドプロジェクト2.0」と銘打ち、NHKエンタープライズと音楽家の松本淳一とのコラボレーションを実施。ソニー・デジタル エンタテインメント、スピーディの企画で“音の点描”が体感できる展示が完成した。


 展示を実際に体験してみると、絵の“点描”のように独立した音が空間の中でデザインされている。立つ場所によって聴こえる音も異なるため、移動しながら楽しめるほか、同じ展示でもその時立つ場所、移動する場所によって、違う音体験を得ることができるようになっているというのだ。


 これはソニーが今年ローンチしたばかりの空間音響技術によるもの。まるで上や横にスピーカーがあるかのように聴こえたのだが、実際は全面上方にある1列に並んだ96個の特殊スピーカーで構成されている。22.2chサラウンドや他の360度サウンドのスピーカーとは違う趣きとなっており、耳元に音があるかのように演出することができる新しい技術だ。


 様々な素材によって構成された、立体的、そして現代的な「睡蓮の池」の世界。その中を浮遊する音の粒とのコラボレーションは、音楽が流れる15分間があっという間に感じるほど、多くの刺激を与えてくれる。視覚、聴覚に加え、ある種記憶にまで訴えるような、新しい没入体験ができる展示となっていた。


■増田セバスチャン「“共感覚”をデジタルで追体験できるように」
 誰もが知るモネの「睡蓮の池」をじっくりと眺めた増田氏は、描かれた点描のなかに印象派がもつ美しい世界とは裏腹に、荒々しい力強さを感じたという。その印象を現代的解釈で立体の作品に仕上げた。


「遠くから見た地球は青くて美しく見えますが、近づくと様々な人種、宗教などいろいろなものが集まり、ミックスされています。この作品も近づくと様々なマテリアルが重なり合っています」(増田氏)


 2Dの絵画として表現されているモネの世界をベースに、レイヤーを重ねるような表現で立体的な空間を作り上げている。そこに新たなVR音響技術を加えることによって、よりふくよかな表現を目指した。それが“音の点描”というアイデアだ。


「いろいろなところに音がちりばめられていて、それがあるポイントで合わさっていくような世界観を目指しました。また音を聞くことで、風景や色などが浮かぶ“共感覚”というものを、デジタルで追体験できるようにと松本氏と話しました」(増田氏)


 また、モネが絵画の中で表現した、目には見えるけれども、写真には映らない水面のきらめきなどから、リアルな体験の奥にある感覚の表現も目指したという。


「今まではインスタレーションだった作品が、音が加わることで劇的な、シアター的なものになったと思います。でもこれはまだ作品としては“2.0”なんです。いわば初号機で、今しかできない生っぽい体験ができる作品となっています」(増田氏)


 最後に、これから訪れる人へメッセージをもらった。


「この作品は、動画で観ても全くわからない。音楽だけ聴いてもわからない。いろんなものが合わさって表現されてるので、ここに来ないと体験できないものです。今はインターネット時代でなんでもダウンロードできますが、ダウンロードできないものがここにあります。2週間しか展示期間がないですが、ぜひ箱根まできてください」(増田氏)


■松本淳一「意外と不器用で、個性豊かな制作過程になりました」
 増田氏と音楽家の松本氏は、今回の作品以前に映画作品でもコラボレーションした経験がある。松本氏は、今回の作品をみたとき、増田氏が芸術家として発展していることを感じたという。


「マテリアルの洪水が、体に迫ってくるのを感じました。1つ1つの点が光り輝いていて、同等で、それぞれ固有の記憶を持っている。光り輝いていたものの画が自分の中で瞬時に音へと変換されましたね」(松本氏)


 普段から手法のひとつとして“音の点描”のような音楽の作り方をしているという松本氏。新しい技術が加わることについては、どう感じたのだろうか。


「今回は音に動きを伴って味わってもらえるということなので、瞬間的にワクワクしました。でも地道に形作っていく道のりは、途方もない作業で……途中で心が折れかけました(笑)。またソフトの限界や制約もあり、新しい技術を使いながらもアナログなやりくりもありましたね。意外と不器用で、個性豊かな制作過程になりました。楽しかったです」(松本氏)


 増田氏の作品から、マテリアルを音に変換する、そしてそれを点で描いていくことが求められていると感じた松本氏が選んだ素材は、アナログな楽器。それらを様々な使い方で音をサンプリングしたという。


「掘り下げていく中で、記憶や体感を呼び覚ますということもアートの役目なのかなと考え、そこからマテリアルの記憶に結びついていきました。増田さんの作品と対峙し、折り重なり、混ざり合っても耐えうるものでありつつ、違った顔や空気が融合して立ちのぼるものをつくるために、どんなものを共有したいのか、ということは考えさせられました」(松本氏)


 作品を聴いた人が、それぞれの記憶をその中で、何か呼び覚ましながら記憶と対話していくことも狙った音楽作品。これから来る人へのメッセージももらった。


「とりあえず曲のある15分間、佇んでみてください。そして好き好きに色々夢想していただければと思います」(松本氏)


 ベースとなっているモネ作品と比較することができるのも、このポーラ美術館ならでは贅沢な体験。展示終了まではわずかな期間だが、ぜひ新しい技術とアナログが融合した世界へ足を運んでみてほしい。


(ミノシマタカコ)